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どこかの異世界で

うそこくでねえ

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/12

学園の校舎裏。


ある女子生徒が、ある男子生徒から愛の告白を受けている。

男子生徒がカードで負けた罰ゲームで、嘘の告白を。


「僕とっ、つきあってくださいっ」


「うそこくでねえ」


女子生徒、ミタメジミーナは一言の元にその告白をぶった切った。

思わず固まり目を見張る男子生徒、アマイジャン。


こう言ってはなんだが、ミタメジミーナは見た目が地味である。

いつも猫背で分厚い眼鏡をかけており、薄い赤毛の両側おさげ。

図書館に入り浸り、他の令息令嬢との交流はないに等しい。

国の中央から遥か南の辺境出身と聞いている。家も男爵とか。


対してアマイジャンは容姿に優れる。見た目は甘い笑顔の貴公子だ。

色気も男っ気も感じない彼女の事、侯爵令息の自分が声をかければ、

いつも通り瞬間で頬を染めて落ちるものだと予想していたのだが。


やや離れた物陰から、カード仲間の悪友共がやり取りをうかがう。

彼らも素行はともかく家柄と容姿には恵まれている連中であり、

アマイジャンの考えと同様の未来を予想していたのだが。


なまった言葉で最初から嘘だと看破、断言された。


「え、えーっと…嘘じゃなくて本当なんだけども」


行動停止していたが、引きつった笑顔を向けているアマイジャン。

照れ隠しとか、まさかわたしなんて相手にされる訳ないとか、

そういう方向性の反応なのだろうと解釈し、続きを試みるのだが。


「おめ、アイラシーナ様の婚約者でねが。

 あんな素敵な婚約者がありながら、よその女子おなご口説くかボゲ。

 うそこくでねえ」


確かにアマイジャンには婚約者がいる。

侯爵令嬢アイラシーナ。彼女の家に婿入りする予定なのだ。

知られているなら現実味に乏しいのも無理がない。


しかし、ミタメジミーナが頷かないと罰ゲームが成り立たない。

ここは嘘をつき続けるしかあるまいとアマイジャンは続行する。


「いや、彼女とは家が決めた相手なんだ。それで仕方なく。

 決してお互いが望んだ縁じゃあない。

 僕の目にはもう、君しか見えていないんだよ」


物陰で見ている悪友共は声を殺しつつも腹を抱えて笑っている。

後で覚えてろよお前ら、と思いつつも、言い放ったアマイジャン。

すると。


「ほおー、そっかそっか。

 『ぼくとつきあってください』つうんは本気だか。

 んだったら、あだしについてき」


と、踵を返したミタメジミーナ。

よく分からないが…嘘告は成功したという事なのか?

ついてこいと言うなら取り敢えずついていくか。

悪友共も、首をひねりつつ後を追う。



到着したのは剣術の練習場である。どういう事?

着いた時は誰もいなかったが、奥の廊下から人影が現れる。


アマイジャンの婚約者、アイラシーナである。

アイラシーナと示し合わせる時間などなかったはずなのだが。


これは非常にまずい。話の進み方次第で婿入りの話も立ち消える。

いや、それだけでは済まないだろう。賠償金で済まない事になる。

どう切り抜けるべきか無い知恵を絞るアマイジャン。


ついてきたアマイジャンの悪友共も、突然の修羅場に息を呑む。

只のお遊びがえらい事になってしまったと。


「おまだせして申し訳ねえす、アイラシーナ様。

 なんが、貴女様の婚約者が妙な事言い出しまして」


「まあ。何かしらアマイジャン様。

 ミタメジミーナ様がどうかいたしまして?」


言い訳が咄嗟に出ず、言い淀んでいるアマイジャンが話す前に。


「あだしと、どつきあいてえと言われだんす」


ミタメジミーナに会話を取られた。青ざめるアマイジャン。

ん?どつきあいてえ?会話に不穏なものがある気が。


すっと分厚い眼鏡を外すミタメジミーナ。

猫背もやめて、背筋を伸ばし、制服の腕まくりをする。

眼鏡を外した彼女を見るのは初めてだが…


美人、と言うよりも精悍な顔立ち。

まくられた腕は、遠目にも分かるほど筋肉が張り詰めている。

かなり太い。身長もアマイジャンより高いのではないか?


「ほれ、好きな武器をとれ」


置いてある練習用の武器を指し示すミタメジミーナ。

え、この流れって模擬戦をやるって事?え?え?


「どつきあってください、といったでねえか。

 好きなだけ、どつきあうど。


 本当はアイラシーナ様に剣術指南の予定だったんだども。

 おめがどつきあいたいなら、先にどつきあったるでよ。

 アイラシーナ様が見届け人だあ。


 あだしん土地はみいんな強ぐなきゃなんね。女子もだあ。

 あだしに勝てねえよんじゃ、とでもつきあえねえど。

 それとも素手か?そんでもええぞ。

 んじゃ、どつきあおか」


拳をごぎりごぎりと鳴らしながら近づくミタメジミーナ。

おろおろしながら後ずさるアマイジャン。

違うそうじゃない、どつきあうなんて言ってない。


声を上げようとしたアマイジャンの顔面に拳がめりこんだ。



ミタメジミーナは、辺境伯一族の孫娘である。

父親がたまたま従属爵位を頂いた男爵と言うだけで。

辺境では男女を問わず肉体言語が飛び交っていた。

病める時も健やかなる時も拳と拳の語らいが。


さすがに作法の一つも知らぬでは、と送り出された中央で、

良くしてやってくださいと紹介されたのがアイラシーナの侯爵家。

図書館へ入り浸るのはアイラシーナより作法を学ぶためである。

面倒をかけている彼女の侯爵家には返し切れぬほどの恩義がある。

それを侮辱するような輩は放っておけぬ。


アイラシーナより直接婚約者の事を聞いていたミタメジミーナ。

婿入りの意味を理解していない節がある、お気を付けなさいなと。

何かあれば強めにあしらっても構いませんわと言われていた。


まさか接触してくるとは思わなかったが。しかも愛の告白とか。

目立たぬように猫背で分厚いだて眼鏡もかけていたのだが。


さっきの告白が事実であろうと虚偽であろうとどうでもよろしい。

素晴らしい婚約者への不忠義は辺境の流儀で応じよう。


一撃で戦闘不能に陥ったアマイジャン。

逃げていく彼の悪友共もミタメジミーナはきっちり把握している。

ミタメジミーナは耳も良く、彼らの会話は全て聞こえていた。


気絶したまま倒れているアマイジャンの両足を引っ掴み、

ジャイアントスイングで悪友共へと投擲、直撃させた。


後日差し歯になったアマイジャンと怪我を負った数名の悪友共は、

ミタメジミーナの男爵家に圧力を加えようと企んだが断念する。

アイラシーナの侯爵家と辺境伯家が後ろについていたからだ。

一部始終アイラシーナが報告済みで、反対に圧力をかけ返される。


アイラシーナとの婚約はアマイジャン有責で破棄となり、

悪友共もそれぞれ大貴族を恐れた実家での立場を失う。


女子生徒に一撃敗北なのだ、婿入りなんてどこもお断りだろう。

たとえ相手の女子生徒が辺境で歴戦の猛者だったとしても。

Q:またまたこんな名前ですか?

A:またまたこんな名前です。


どうやら自分は接近パワー型令嬢が好きらしい。

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