うそこくでねえ
学園の校舎裏。
ある女子生徒が、ある男子生徒から愛の告白を受けている。
男子生徒がカードで負けた罰ゲームで、嘘の告白を。
「僕とっ、つきあってくださいっ」
「うそこくでねえ」
女子生徒、ミタメジミーナは一言の元にその告白をぶった切った。
思わず固まり目を見張る男子生徒、アマイジャン。
こう言ってはなんだが、ミタメジミーナは見た目が地味である。
いつも猫背で分厚い眼鏡をかけており、薄い赤毛の両側おさげ。
図書館に入り浸り、他の令息令嬢との交流はないに等しい。
国の中央から遥か南の辺境出身と聞いている。家も男爵とか。
対してアマイジャンは容姿に優れる。見た目は甘い笑顔の貴公子だ。
色気も男っ気も感じない彼女の事、侯爵令息の自分が声をかければ、
いつも通り瞬間で頬を染めて落ちるものだと予想していたのだが。
やや離れた物陰から、カード仲間の悪友共がやり取りをうかがう。
彼らも素行はともかく家柄と容姿には恵まれている連中であり、
アマイジャンの考えと同様の未来を予想していたのだが。
なまった言葉で最初から嘘だと看破、断言された。
「え、えーっと…嘘じゃなくて本当なんだけども」
行動停止していたが、引きつった笑顔を向けているアマイジャン。
照れ隠しとか、まさかわたしなんて相手にされる訳ないとか、
そういう方向性の反応なのだろうと解釈し、続きを試みるのだが。
「おめ、アイラシーナ様の婚約者でねが。
あんな素敵な婚約者がありながら、よその女子口説くかボゲ。
うそこくでねえ」
確かにアマイジャンには婚約者がいる。
侯爵令嬢アイラシーナ。彼女の家に婿入りする予定なのだ。
知られているなら現実味に乏しいのも無理がない。
しかし、ミタメジミーナが頷かないと罰ゲームが成り立たない。
ここは嘘をつき続けるしかあるまいとアマイジャンは続行する。
「いや、彼女とは家が決めた相手なんだ。それで仕方なく。
決してお互いが望んだ縁じゃあない。
僕の目にはもう、君しか見えていないんだよ」
物陰で見ている悪友共は声を殺しつつも腹を抱えて笑っている。
後で覚えてろよお前ら、と思いつつも、言い放ったアマイジャン。
すると。
「ほおー、そっかそっか。
『ぼくとつきあってください』つうんは本気だか。
んだったら、あだしについてき」
と、踵を返したミタメジミーナ。
よく分からないが…嘘告は成功したという事なのか?
ついてこいと言うなら取り敢えずついていくか。
悪友共も、首をひねりつつ後を追う。
◆
到着したのは剣術の練習場である。どういう事?
着いた時は誰もいなかったが、奥の廊下から人影が現れる。
アマイジャンの婚約者、アイラシーナである。
アイラシーナと示し合わせる時間などなかったはずなのだが。
これは非常にまずい。話の進み方次第で婿入りの話も立ち消える。
いや、それだけでは済まないだろう。賠償金で済まない事になる。
どう切り抜けるべきか無い知恵を絞るアマイジャン。
ついてきたアマイジャンの悪友共も、突然の修羅場に息を呑む。
只のお遊びがえらい事になってしまったと。
「おまだせして申し訳ねえす、アイラシーナ様。
なんが、貴女様の婚約者が妙な事言い出しまして」
「まあ。何かしらアマイジャン様。
ミタメジミーナ様がどうかいたしまして?」
言い訳が咄嗟に出ず、言い淀んでいるアマイジャンが話す前に。
「あだしと、どつきあいてえと言われだんす」
ミタメジミーナに会話を取られた。青ざめるアマイジャン。
ん?どつきあいてえ?会話に不穏なものがある気が。
すっと分厚い眼鏡を外すミタメジミーナ。
猫背もやめて、背筋を伸ばし、制服の腕まくりをする。
眼鏡を外した彼女を見るのは初めてだが…
美人、と言うよりも精悍な顔立ち。
まくられた腕は、遠目にも分かるほど筋肉が張り詰めている。
かなり太い。身長もアマイジャンより高いのではないか?
「ほれ、好きな武器をとれ」
置いてある練習用の武器を指し示すミタメジミーナ。
え、この流れって模擬戦をやるって事?え?え?
「どつきあってください、といったでねえか。
好きなだけ、どつきあうど。
本当はアイラシーナ様に剣術指南の予定だったんだども。
おめがどつきあいたいなら、先にどつきあったるでよ。
アイラシーナ様が見届け人だあ。
あだしん土地はみいんな強ぐなきゃなんね。女子もだあ。
あだしに勝てねえよんじゃ、とでもつきあえねえど。
それとも素手か?そんでもええぞ。
んじゃ、どつきあおか」
拳をごぎりごぎりと鳴らしながら近づくミタメジミーナ。
おろおろしながら後ずさるアマイジャン。
違うそうじゃない、どつきあうなんて言ってない。
声を上げようとしたアマイジャンの顔面に拳がめりこんだ。
◆
ミタメジミーナは、辺境伯一族の孫娘である。
父親がたまたま従属爵位を頂いた男爵と言うだけで。
辺境では男女を問わず肉体言語が飛び交っていた。
病める時も健やかなる時も拳と拳の語らいが。
さすがに作法の一つも知らぬでは、と送り出された中央で、
良くしてやってくださいと紹介されたのがアイラシーナの侯爵家。
図書館へ入り浸るのはアイラシーナより作法を学ぶためである。
面倒をかけている彼女の侯爵家には返し切れぬほどの恩義がある。
それを侮辱するような輩は放っておけぬ。
アイラシーナより直接婚約者の事を聞いていたミタメジミーナ。
婿入りの意味を理解していない節がある、お気を付けなさいなと。
何かあれば強めにあしらっても構いませんわと言われていた。
まさか接触してくるとは思わなかったが。しかも愛の告白とか。
目立たぬように猫背で分厚いだて眼鏡もかけていたのだが。
さっきの告白が事実であろうと虚偽であろうとどうでもよろしい。
素晴らしい婚約者への不忠義は辺境の流儀で応じよう。
一撃で戦闘不能に陥ったアマイジャン。
逃げていく彼の悪友共もミタメジミーナはきっちり把握している。
ミタメジミーナは耳も良く、彼らの会話は全て聞こえていた。
気絶したまま倒れているアマイジャンの両足を引っ掴み、
ジャイアントスイングで悪友共へと投擲、直撃させた。
後日差し歯になったアマイジャンと怪我を負った数名の悪友共は、
ミタメジミーナの男爵家に圧力を加えようと企んだが断念する。
アイラシーナの侯爵家と辺境伯家が後ろについていたからだ。
一部始終アイラシーナが報告済みで、反対に圧力をかけ返される。
アイラシーナとの婚約はアマイジャン有責で破棄となり、
悪友共もそれぞれ大貴族を恐れた実家での立場を失う。
女子生徒に一撃敗北なのだ、婿入りなんてどこもお断りだろう。
たとえ相手の女子生徒が辺境で歴戦の猛者だったとしても。
Q:またまたこんな名前ですか?
A:またまたこんな名前です。
どうやら自分は接近パワー型令嬢が好きらしい。




