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第36話 ― 布告と最初の火種

その朝、《永遠の森》の静寂は急ぎ立てる馬蹄の音によって引き裂かれた。

王国の使者は、まるで絞首台へ向かう罪人のように青ざめた顔で、霧が濃くなり始める境界線に立ち止まった。

彼はそれ以上足を踏み入れる勇気を持たず、震える手で金印の押された巻物を古木に打ち付けた。

そして、急激に冷え込んだ空気の中に土煙を残し、一目散に馬を走らせて逃げ去った。

リルと共にパトロールをしていたサーシャが、その巻物を見つけた。

彼女が一読すると、喉の奥で息が詰まった。

頬をかすめる枝も厭わず、彼女は森を駆け抜け、ダンジョンの中心部へと急いだ。

フロスティーヌは縁側に座り、湯気が柔らかく踊る朝の紅茶を楽しんでいた。

隣ではアリスが絵を描くのに没頭し、膝の上では白駆が甘えるように丸まっている。

ルファスは木の柱に寄りかかり、自ら作り出した擬似太陽の温もりを浴びながら、狐のぬいぐるみを抱いて目を細めていた。

そこへ、雪のように顔を白くしたサーシャが、息を切らせて駆け込んできた。

「フロスティーヌ様……これを」

フロスティーヌは巻物を受け取った。

白く細い指が、吸い込まれるような優雅な動作で赤い封蝋を解く。

彼女の瞳は、恐ろしいほどの静寂を湛えたまま、そこに記された文字を一行ずつなぞった。


> 『……ここにオーレリアン王国は《永遠の森》を王領と宣言する。域内の全非人類存在は、王国の絶対法に服従せよ。さもなくば反逆者として処断する……』




征服の布告――ヴェイロンがもたらした和平の約束を、真っ向から裏切る背信行為だった。

フロスティーヌは、まるで価値のない紙屑であるかのように、その巻物を丁寧に畳んだ。

しかしルファスは、周囲の温度が劇的に下がったのを感じ取っていた。

フロスティーヌの茶碗の縁に、薄い霜が這い上がり始める。

「お姉様、それは何?」

アリスが純粋な瞳で見上げ、急に重くなった空気の変化を感じ取った。

フロスティーヌはアリスの金髪を撫で、瞳には届かない微かな微笑を浮かべた。

「ただの道に迷った人たちからのお手紙よ、いい子ね、絵の続きを描きなさい」

ルファスが片目を開け、捕食者のような黄金の輝きを放った。

「彼らは痛みを伴う道を選んだようね。人間という生き物は、歴史から何も学ばないわ」

三日後、森の地平線は一変した。

数千の兵士たちが輝く鎧を纏って境界を包囲し、濃厚な戦の気配を持ち込んだ。

しかし何よりも目を引いたのは、高さ五メートルに及ぶ巨大なクリスタルの柱を運ぶ宮廷魔道士たちの姿だった。

『マナ封印の柱』。

魔法領域を根絶やしにするために設計された、呪われた道具である。

柱は一本ずつ、森の周囲に打ち込まれていった。

青白い光が放たれ、土壌から自然のマナを吸い上げる透過的な網を作り出していく。

森は、魔法生物にしか聞こえない周波数で悲鳴を上げた。

数千年も生きてきた古木たちが枯れ始め、葉は黄金色に変わって季節外れの落葉となった。

魔導鋸の音が轟き、これまでダンジョンを守ってきた緑の巨神たちが次々と切り倒されていく。

森の縁で、軍の指揮官は最初の木が地響きを立てて倒れるのを見て、満足げに笑った。

「この森は我らのものだ。あの怪物は今頃、洞穴の中で震え上がっているに違いない」

傲慢さに満ちた黒いローブの筆頭魔道士が、深く頷いた。

「あと三本の柱を立てれば、ここはじきに魔法死滅地帯となる。彼女はただの、弱く無力な女に成り下がるでしょう」

森の奥深く、フロスティーヌは枯れ始めた木々の間に静かに立っていた。

彼女は微動だにしない。

紫の浴衣が揺れているが、彼女を打つ風は以前とは違っていた――それは焦げた木の匂いと、追放される森の精霊たちの嘆きを運んでいた。

サーシャとミーシャは、激しく震える体で彼女の背後に立っていた。

ミーシャは、自身のマナが遠くから狭まってくる青い網に締め付けられ、窒息しそうになるのを感じていた。

「フロスティーヌ様……彼らが木を切り倒し始めています」

ミーシャが恐怖で消え入りそうな声で囁いた。

フロスティーヌは沈黙を守ったままだ。

周囲の森は唐突に、水を打ったような静寂に包まれた。

鳥は鳴き止み、虫は羽音を止め、揺れていた葉さえもその場で凍りついた。

万物が息を呑み、真の領主からの命令を待っているかのようだった。

ルファスが隣に立ち、その左手には鋭い黒鱗が浮かび上がり始めた。

「根源に触れられたわよ、フロスティーヌ。これを許しはしないでしょう?」

フロスティーヌは言葉で答えなかった。

彼女はただ、最も遠くで輝きを増した柱の方を見つめた。

――パキッ。

呪文を唱えることも、手を動かすこともなく、最前線の主クリスタル柱が百万の鋭い破片となって爆散した。

物理的な攻撃ではなく、内部のマナが限界を超えて溢れ出すよう強制され、器がその圧力に耐えきれなくなったのだ。

人間の陣営から、絶望的な悲鳴が上がった。

柱の近くにいた二人の魔道士が、輝く青い破片に体を引き裂かれ、吹き飛ばされた。

「何が起きた!?」指揮官がパニックで声を裏返らせた。「報告せよ! 誰の攻撃だ!」

「誰もいません! 柱が……柱が内側から自壊しました!」地面に倒れ込んだ兵士の一人が叫んだ。

筆頭魔道士は激しく震えた。

彼はクリスタルの爆発よりも、はるかに恐ろしいものを感じていた。

森の闇の向こうから、一対の紫の瞳が自分たちを見つめているのを感じたのだ。

それはもう、人間らしい慈悲など一切含まれていない瞳だった。

森の心臓部で、フロスティーヌがついに一歩を踏み出した。

その歩みごとに、乾いたはずの地面に永遠に解けない霜の足跡が刻まれていく。

「あの柱で、私を閉じ込められると思ったのね」

フロスティーヌの声は冷たく、神が下す死刑宣告のように森の隅々まで響き渡った。

「忘れているようね……今まで彼らに呼吸を許していたのが、この私だということを」

彼女はサーシャとミーシャの方を少しだけ振り返り、命ずるような視線を向けた。

「ダンジョンに入りなさい。命に代えてもアリスを守るのよ」

「では……貴女は?」サーシャが、急に重くなった剣の柄を握りしめながら尋ねた。

フロスティーヌは答えなかった。

彼女は境界へと歩み続け、自身のオーラをゆっくりと染み出させ、死にゆく森を包み込んでいった。

その紫の瞳は、直視する者の魂を焼き尽くさんばかりの輝きを放っていた。


いつも読んでいただきありがとうございます!もしよろしければ、この投稿に評価をつけていただけると嬉しいです。それが私にとって、今後も執筆を続けるモチベーションになります!


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