第11話:最初のガチャとキツネのドレス
こんにちは、ascalonfireです。この物語を楽しんでください。
第11話 ― 狐の衣と新たな日常
その日は、いつもの穏やかな静寂から始まった。私は鏡の前に立ち、朝のルーティンを淡々とこなしていく。紫色の長い髪をひと房ずつ丁寧に整え、右目に掛かる前髪を指先で軽く払う。鏡の中の私は、いつも通り冷静で、完璧に制御された微笑みを浮かべていた。
時間は飛ぶように過ぎていくのに、このダンジョンの空気はどこか緩やかで、心地よい。
だが、振り返ると、アリスが不安そうな面持ちで控えていた。膝の上にはピップがいるが、彼女の視線はどこか落ち着かない。
「フロスティーヌお姉様……」
「どうしたの、アリス?」
「アリス……新しいお洋服が、欲しいです」
私は瞬きを繰り返した。改めて見れば、アリスが着ている質素なドレスは、色褪せ、急成長を続ける彼女の体に少し窮屈そうに見えた。吸血鬼の成長は、思っていたよりも早い。
「そうね、気づかなくてごめんなさい」私は穏やかに答えた。「後でカタログから選びましょう」
アリスの顔がぱっと輝いた。膝の上のピップも、彼女を祝福するようにぷるぷると跳ねている。
朝食を終え、ルファスが驚異的な速さで自分の皿を空にした後、私は玉座に腰を下ろした。足を組み、背筋を伸ばして、目の前にシステム画面を呼び出す。
【ダンジョン情報】
保有DP:3240
少しばかりの「実験」をするには十分な額だ。私が衣類カタログを開くと、ルファスが興味津々に近づいてきた。
「何を買うつもり?」
「アリスの服よ」
短く答えてリストをスクロールする私の横で、ルファスが目を細める。「それだけなの?」
私は答えなかった。正直なところ、私自身もどんな選択肢があるのか興味があったのだ。こめかみの髪に触れながら、いくつかのアイテムを吟味する。
『雪白の浴衣 ― 420DP』
(袖口に淡い雪の結晶模様、水色の帯。子供用サイズ有り)
「これね」私は呟いた。「アリスに似合うわ」
ルファスも同意するように頷く。「白はあの子の肌に映えるわね」
購入ボタンを押し、420DPが消費される。だが、私の指はある一点で止まった。特異な説明文を持つアイテムだ。
『九尾の紫衣 ― 890DP』
(重なり合う薄紫の布地、オープンショルダー、透け感のある長袖。特殊効果:装備者に九尾の狐の特性を付与する)
私は一瞬、動きを止めた。説明文を盗み見たルファスが、意地悪く口角を上げる。
「……面白いじゃない。アンタの《エクリプス・オリジン》のオーラにも、よく馴染みそうよ」
「似合うかしら」
「アンタは何にでも姿を変えられるんでしょ? 狐の耳くらい、私の角に比べれば可愛いものよ」
ルファスの軽快な煽りに、私は誘われるように購入ボタンを押した。890DPが引かれる。ルファスが「あら、思い切りがいいわね」と小さく口笛を吹いた。
魔法の光と共に、アイテムが広間に現れた。小さな白い浴衣を、アリスは宝物のように抱きしめる。そして、私の手元に現れた『九尾の紫衣』は、深い紫から青へと移り変わる繊細なグラデーションを放っていた。
簡易の仕切りの裏で着替えを済ませ、表へと歩み出る。
その瞬間、広間は水を打ったような静寂に包まれた。
ルファスは石像のように固まり、アリスは目を見開き、ピップはいつもより高速で小刻みに震えている。
「……変かしら?」
私が問いかけると、ルファスは無言で私の頭上を指差した。頭に手をやると、髪の間から二つの、紫がかった毛深い「耳」が突き出していた。
それだけではない。背後には、九本の長く豊かな尾が垂れ下がり、まるで意志を持っているかのようにゆったりと揺れていた。
興奮したピップが私の尾の一本に飛びつき、その柔らかい毛の中に埋もれた。
「ピップ、だめよ――」
尾が反射的に動いてしまい、ピップを空中でゆらゆらと揺らしてしまう。その様子を見て、ついにルファスが堪えきれずに吹き出した。
「最高よ、フロスティーヌ! アンタ、すごく……『様』になってるわ!」
私は小さくため息をついたが、口元が緩むのを止められなかった。
その夜、アリスは新しい白い浴衣を着て、幸せそうに眠りについた。
私は九尾の姿のまま、玉座に座っていた。一本の尾は、すっかり寝床として気に入ったらしいピップを包み込んでいる。
「明日も、また大きな買い物をするつもり?」
部屋の隅から、ルファスが尋ねてきた。
「ええ」
「今度は何を?」
「家として必要なものをね」
私は神秘的な微笑を返し、指先に小さな火を灯した。背後の九本の尾が、闇の中で静かにリズムを刻む。
作者としては、この物語の世界観や登場人物を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。これからも更新を続けていく予定です。




