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忘却の輪郭  作者: 雨香
第3章

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end はじまりのものがたり

 朝の光が、ゆっくりと街を照らしていた。


 石畳の道に露が残り、まだ人通りは少ない。

 パン屋の煙突から白い煙が上がり、遠くで鐘の音が響く。


 どこにでもある、穏やかな朝。


 この世界には、危機も戦いもない。


 少なくとも――誰も、それを覚えていない。


 街外れの道を、一人の少年が歩いていた。


 黒髪で、少しだけ無口そうな顔。


 名前は、識。


 彼は特別な存在ではない。


 ただの旅人見習い。

 世界を見て回りたいと思っている、どこにでもいる少年だ。


 それでも、なぜか彼は今朝、早く目が覚めた。


 理由は分からない。


 ただ、胸の奥に小さな違和感があった。


 「……なんだろう。」


 識は空を見上げる。


 雲ひとつない青空。


 それを見ていると、なぜか少しだけ寂しい気持ちになる。


 理由は思い出せない。


 思い出す必要もない。


 それでも、胸の奥が少しだけ重い。


 識は首を振った。


 「……まあ、いいか。」


 そう呟いて、街の外へ向かう道を歩き出す。


 しばらく進んだところで、小さな石橋が見えてきた。


 川の上に架かる、古びた橋。


 その下で、水が静かに流れている。


 識は何となく足を止めた。


 理由は分からない。


 ただ、そこに“何か”がある気がした。


 橋の下へ降りる。


 川のそばの石の上。


 そこに、細い糸が落ちていた。


 青い糸。


 光を受けて、ほんのわずかに輝いている。


 「……?」


 識はしゃがみ込み、それを拾い上げた。


 ただの糸だ。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 けれど。


 指で触れた瞬間、胸の奥がわずかに震えた。


 焚き火の光。


 紙をめくる音。


 誰かの笑い声。


 ほんの一瞬だけ、見えた気がした。


 だが、すぐに消える。


 識は首をかしげる。


 「……変なの。」


 青い糸を指に巻く。


 不思議と、手放したくない気がした。


 風が吹く。


 川面が揺れる。


 そのとき。


 遠くの空で、ほんの一瞬だけ、影が揺れた。


 まるで、何かが生まれかけているように。


 けれど、それを見ている者はいない。


 識は立ち上がり、街の外へ続く道を見た。


 旅人が通る道。


 まだ見たことのない場所へ続く道。


 「……行くか。」


 小さく呟く。


 理由はない。


 ただ、そうするべきな気がした。


 識は歩き出す。


 青い糸を指に巻いたまま。


 その背中を、朝日が照らしている。


 遠くで、風が鳴る。


 世界は静かに回り始める。


 忘れられたモノが、どこかで生まれる。


 それを見つける者が、また現れる。


 そして、誰も知らないまま――


 同じ物語が、再び始まる。


 はじまりは、いつも同じ場所。


 小さな違和感から。


 少年が、世界の異変に気づくところから。


 だからこの物語は、終わらない。


 また、最初の朝へ戻る。


 そして誰かが、こう呟く。


 「……なんだろう、この違和感。」


 それが、この世界の最初の一歩。


 発見者の物語の――


 はじまりだった。

作者のまとめ

ついに最終回です。長いようで短かった気もする感じでした。ここまで読んでくれた読者の皆様。ありがとうございました。明日というか今日の夜はこれの裏設定?とか色んな話を書くかもしれません。それではまた新しい世界でお会いしましょう。

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