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忘却の輪郭  作者: 雨香
第3章

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ep58 空白の終わり

 夜空を裂くように、青い光が走った。


 三つ目の空白は、初めて明確に後退していた。


 それは恐怖でも怒りでもない。

 ただ、“拒絶”だった。


 空白という存在は、消すことしかできない。

 意味を削り、記憶を落とし、世界を初期の状態へ戻す。


 だが、繋の力は違う。


 それは“書き込む力”。


 空白の上に、新しい記述を刻む力だった。


 繋は走る。


 青い糸が腕から伸び、空間を切り裂く。


 三つ目の空白の腕が振り下ろされる。


 黒い衝撃波が地面を砕き、広場を半分吹き飛ばす。


 だが、繋は止まらない。


 跳び、潜り、影の上を滑る。


 「……もう逃げない。」


 胸の奥の白紙が、強く輝く。


 そこに刻まれていく文字。


 記録。


 世界の痕跡。


 消されかけたすべての証。


 三つ目の空白の胸が、大きく歪む。


 核が露出する。


 そこにいるのは、顔のない繋。


 忘れてしまった自分。


 もしも最初から戦わなかった未来。


 その存在が、静かに手を伸ばす。


 頭の奥に声が響く。


 ――まだ間に合う。


 ――戻ればいい。


 世界が揺らぐ。


 遠くで灯りが消える。


 誰かの名前が空気に溶ける。


 繋の足が、一瞬止まる。


 その瞬間。


 胸の奥の白紙が、ふっと温かくなった。


 焚き火の匂い。


 ノートをめくる音。


 笑いながら言った声。


 『ちゃんと選んでね』


 繋は目を閉じ、そして開く。


 「……選んだよ。」


 青い糸を強く握る。


 「全部、覚えたままで行く。」


 三つ目の空白が動く。


 黒い刃が空間を裂く。


 繋は真正面から突っ込んだ。


 衝撃。


 青と黒がぶつかる。


 世界がひび割れる。


 空間が悲鳴を上げる。


 それでも、繋は止まらない。


 白紙が強く光る。


 そこに刻まれる、新しい言葉。


 ――存在は消えない。


 青い光が、空白へ流れ込む。


 三つ目の空白の胸が裂ける。


 核が完全に露出する。


 顔のない繋が、ゆっくりと繋を見る。


 その姿は、どこか穏やかだった。


 まるで、ずっと待っていたかのように。


 繋は一歩踏み出す。


 「……終わらせる。」


 青い糸を振り下ろす。


 それは刃ではない。


 “記述”だった。


 白紙から生まれた文字が、空白の胸へ書き込まれる。


 光が爆ぜる。


 三つ目の空白が、大きく崩れた。


 世界を覆っていた黒が、砕け散る。


 核の中の“もう一人の繋”が、静かに消えていく。


 空白が崩壊する。


 だが、その瞬間。


 空白の残骸が、最後の力を放った。


 世界が、強く震える。


 空がひび割れる。


 地面が軋む。


 綾が叫ぶ。


 「ケイ! 離れて!」


 だが、もう遅い。


 三つ目の空白の最後の声が、世界全体に響く。


 ――初期化。


 白い光が、すべてを飲み込む。


 街が消える。


 空が消える。


 影が消える。


 人の記憶が、静かに剥がれていく。


 繋の手から、青い糸がほどける。


 胸の白紙が、ゆっくり閉じていく。


 最後に残ったのは、かすかな温度。


 そして――


 すべてが、白く塗りつぶされた。


 世界は、静かに“最初”へ戻っていった。


作者の一言

もうそろそろここに書くことも無くなってきました。なにかネタないですかね

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