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忘却の輪郭  作者: 雨香
第3章

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ep55話 失われた影

 崩れかけた広場に、黒い影が二つ。


 三つ目の空白は、少し距離を取り、静観している。


 試している。


 発見者が、自分の“固定点”をどう処理するかを。


 影となったリセルが、再び動く。


 速い。


 今までで最速。


 黒い刃が十字に走る。


 繋は避けない。


 青い縫い目を全開にする。


 防ぐのではない。


 縫い留める。


 空間そのものを。


 衝突。


 影と影が噛み合う。


 黒いページが開く。


 ――発見者を、解放する。


 その文字が、再び刃になる。


 繋の影が削れる。


 だが、繋は踏み込む。


 「……リセル。」


 呼ぶ。


 返事はない。


 「……お前は、記録だろ。」


 黒い刃が振り下ろされる。


 繋は、それを真正面から受け止める。


 肩が裂ける。


 血が落ちる。


 それでも、距離を詰める。


 「……記録ってのはな……」


 影の奥で、眠っていた“誰か”が、完全に目を開ける。


 青い光が、影の内側から溢れる。


 繋の影が、二重ではなくなる。


 重なっていたものが、一つに溶け合う。


 「……消すためのもんじゃないだろ!」


 繋は、影のリセルを抱きしめた。


 刃が背中を裂く。


 だが、離さない。


 黒い影が暴れる。


 ノートのページが狂ったようにめくれる。


 ――忘却

 ――固定解除

――発見者消去


 それらの文字が、青い光に触れ、焼け落ちる。


 「……お前は……

  覚えてる側だろ……!」


 青い光が、影の胸元へ流れ込む。


 ノートだった部分が、強く震える。


 そこに刻まれた文字が、裏返る。


 ――忘れても、責めないでね。


 その一文だけが、消えない。


 黒い影が、激しく揺らぐ。


 刃が崩れる。


 ページが裂ける。


 影の中から、かすかな光が漏れる。


 「……ケイ……」


 微かな声。


 確かに、聞こえた。


 繋の目から涙が落ちる。


 「……帰れ。」


 青い光が爆ぜる。


 影のリセルの体が、粒子のように崩れ始める。


 黒が、青に溶ける。


 胸のノートが、最後に一枚だけ残る。


 そこに、何も書かれていない白紙。


 その白が、繋の胸へ吸い込まれる。


 影が、静まる。


 リセルの姿は、もうない。


 影も、残っていない。


 ただ、地面に――


 一本の、青い糸が落ちていた。


 繋は、それを握る。


 冷たい。


 けれど、確かに“固定”の感触がある。


 影の奥で目覚めた存在が、静かに繋の中へ溶け込む。


 青い縫い目が、変質する。


 今までは“縫い止める”力だった。


 だが、今は違う。


 ――書き直す力。


 「……これが……」


 綾が息を呑む。


 「記録と発見者が、統合された……?」


 三つ目の空白が、初めて明確に後退する。


 警戒。


 いや、拒絶。


 新たに生まれた青い光を、嫌っている。


 繋は、立ち上がる。


 肩の傷は深い。


 胸は空っぽだ。


 だが、影は安定している。


 軽くない。


 逃げていない。


 全部抱えた重さ。


 「……次は、お前だ。」


 三つ目の空白が、わずかに揺らぐ。


 決戦は、まだ終わらない。


 だが、繋は今――


 “消す”ためではなく、

 “書き直す”ための力を得た。


 その代わりに。


 覚えている者は、もういない。

作者の一言

私自転車通学なんですが朝起きたら雨でテンションがめっちゃ下がってます

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