表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の輪郭  作者: 雨香
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/61

ep49 三つ目の空白

 最初に異変に気づいたのは、綾だった。


 「……おかしい。」


 通信石を握る彼女の声は、いつもより低い。


 「空白の発生地点が、重なってる。」


 繋は顔を上げる。


 「……重なる……?」


 「ええ。

  一つの街に、同時に“二つ”までは前例がある。

  でも――」


 綾は、はっきりと言った。


 「三つは、ない。」


 空気が、冷える。


 ――――――――


 現場は、街の中心広場だった。


 以前、名を呼べない戦いがあった場所。

 あの石畳の上に、三つの“歪み”が浮かんでいる。


 一つは、薄い影の揺らぎ。

 一つは、音の欠落。

 そして――


 三つ目は、何もない。


 “何もないこと”だけが、そこにある。


 「……見えない……」


 リセルが小さく呟く。


 「違う。」

 綾が首を振る。

 「見えないんじゃない。

  “記録できない”。」


 繋の影が、微かに震える。


 「……三つ目は……

  なんだ……?」


 綾は答えない。


 代わりに、広場の中央を指差す。


 そこに立っているのは――


 繋だった。


 「……は……?」


 確かに、そこに“もう一人の繋”が立っている。


 表情はない。

 影もない。


 ただ、静かに、こちらを見ている。


 「……あれは……」


 リセルの声が、震える。


 「……“削られた可能性”。」


 綾が低く告げる。


 「忘却に触れすぎた発見者は、

  存在を“分割”される。」


 繋は息を呑む。


 「……分割……?」


 「一つ目は、“今ここにいるあなた”。

 二つ目は、“影の奥で眠る人”。

 そして三つ目が――」


 広場の中央の“それ”。


 「“忘れてしまったあなた”。」


 音が、止まる。


 風が、止まる。


 世界が、ほんの一瞬、呼吸をやめた。


 “もう一人の繋”が、一歩踏み出す。


 その瞬間、周囲の人々の顔から表情が消えた。


 「……だめ……」


 リセルがノートを開く。


 だが、三つ目の空白に関する記述は――書けない。


 インクが、紙に定着しない。


 「……書けない……!」


 綾が叫ぶ。


 「繋!

  三つ目は、あなた自身よ!」


 “もう一人”が、口を開く。


 声は出ない。


 だが、繋の頭の中に、直接響く。


 ――楽になれ。


 胸が、ひどく静かになる。


 忘れてしまえばいい。

 失ったものも、削られた記憶も。

 縫の声も。

 書かれなかった名前も。


 全部。


 「……やめろ……」


 繋の影が、広がる。


 だが、二重の奥にいる“眠る人”は動かない。


 “もう一人の繋”が、さらに近づく。


 その足元には、影がない。


 「……ケイ!!」


 リセルの叫び。


 その声だけが、現実を繋ぎ止める。


 繋は、歯を食いしばる。


 「……俺は……」


 影を、踏みしめる。


 「……忘れるために……

  ここにいるんじゃない……!」


 その瞬間、影の奥で、何かが脈打った。


 眠っていた“誰か”が、わずかに目を開ける。


 青い縫い目が、強く光る。


 “もう一人の繋”が、揺らぐ。


 だが――消えない。


 綾が、低く言う。


 「……三つ目は、消せない。」


 「え……?」


 「選ぶしかないの。」


 今の自分。

 眠る影。

 忘れた自分。


 三つは、共存しない。


 どれか一つが、欠ける。


 沈黙。


 繋は、ゆっくりと“もう一人”を見つめる。


 それは、救いの顔をしていた。


 「……今は……」


 繋は、拳を握る。


 「……まだ……選ばない。」


 影が、三方向に伸びる。


 三つ目の空白は、完全な発生には至らなかった。


 だが、兆しは残った。


 “忘れた自分”は、確かに存在している。


 そしてそれは――

 近いうちに、選択を迫る。


 広場の歪みは、ゆっくりと薄れた。


 だが、誰も安心していなかった。


 リセルは、震える手でノートを閉じる。


 書けなかった。


 初めて。


 三つ目の空白は、

 発見者自身の“消失予告”。


 そして――


 物語は、終わりへと踏み込む。

作者の一言

ついに終わりへ踏み込みました。なんだかんだ長かったです。終わるその時までどうぞお楽しみ下さい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ