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忘却の輪郭  作者: 雨香
第3章

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ep48 影の奥で眠る人

 夜更け。


 繋は、眠れずに立ち上がった。


 胸の奥が、妙にざわついている。

 影が、重い。


 焚き火は消えかけ、リセルは少し離れた場所でノートを抱えたまま眠っていた。


 繋は、無意識に自分の影へ視線を落とす。


 月明かりに照らされたそれは、以前よりも濃い。


 そして――


 「……二重……?」


 よく見ると、影の輪郭が、微妙に“ずれている”。


 一つは、繋自身の動きに連動する影。

 もう一つは、わずかに遅れて揺れる影。


 「……なんだ……これ……」


 息を呑んだ瞬間、頭の奥で“音”がした。


 ――縫い目が、引かれるような音。


 視界が、ゆっくりと暗転する。


 繋は、立ったまま“落ちた”。


 ――――――――


 気づけば、そこは暗い空間だった。


 地面も、空もない。

 ただ、深い青と黒が混ざり合う、曖昧な場所。


 「……ここは……」


 足元に、光る糸が走っている。


 それは、縫が残した青光に似ていた。


 その糸を辿ると――


 “誰か”がいた。


 背を向けて、座っている。


 輪郭はぼやけている。

 顔は見えない。


 だが、繋の胸が、強く反応する。


 「……お前……」


 声をかけようとして、言葉が詰まる。


 名前が、出てこない。


 その存在は、ゆっくりと振り向いた。


 顔は、やはり見えない。

 影の中に、影が重なっているような姿。


 それでも、繋は確信する。


 「……俺……

  知ってる……」


 影の奥で眠る人。


 書かれなかった名前。


 最初から、忘れられる前提で、そばにいた存在。


 その人は、何も言わない。


 ただ、繋を見つめる。


 その視線だけが、はっきりと伝わる。


 ――まだ、思い出さなくていい。


 声ではない。

 けれど、意味は届いた。


 「……どうして……

  ここにいる……」


 影の人物は、ゆっくりと繋の影を指さす。


 その指先が、繋の胸に触れた瞬間――


 現実へ、引き戻される。


 ――――――――


 繋は、地面に膝をついていた。


 息が荒い。


 「……ケイ!?」


 リセルが駆け寄る。


 「今、影が……!」


 繋は、震える手で自分の影を見た。


 二重だった輪郭は、元に戻っている。


 だが、確かに感じた。


 「……いる……」


 「え……?」


 「……俺の影の奥に……

  誰か……いる……」


 リセルの瞳が、揺れる。


 「……見たの?」


 繋は、頷く。


 「……顔は……分からない……

  でも……」


 胸を押さえる。


 「……知ってる……」


 リセルは、静かに息を吐いた。


 「……それが、“預けられた”ってこと。」


 「……あの人……

  誰なんだ……?」


 リセルは、答えない。


 ただ、少しだけ、寂しそうに笑った。


 「……思い出せるときが来るよ。」


 「……いつだ……」


 リセルは、少しだけ間を置いた。


 「……終わる頃。」


 その言葉が、妙に冷たく響いた。


 繋は、影を踏みしめる。


 影の奥で、確かに“誰か”が眠っている。


 それは、忘れられたモノではない。

 ナニカでもない。


 そして――


 もしかしたら。


 まだ失われていない“未来”かもしれなかった。


 遠くで、警鐘が鳴る。


 新たな忘却の兆し。


 リセルはノートを強く抱きしめる。


 繋は影を踏みしめる。


 気づかないまま。


 この影が、

 近いうちに“ひとつ分”軽くなることを。

作者の一言

お久しぶりです。モチベが上がらず受験が重なり、終わったら今度は現在進行形でインフルエンザB型です。ひどいもんだと思います

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