ep42 縫われた影 残された人
青光が完全に消えたあと、街は奇妙な静けさに包まれていた。
崩壊は止まっている。
空白の広がりも、確かに抑えられていた。
だが、それは“救われた”という感覚とは程遠い。
繋はその場に立ち尽くし、自分の影を見つめていた。
地面に落ちる影は、以前と変わらない形をしている。
――見た目は。
けれど、そこには確かに“縫われた跡”があった。
影の輪郭が、わずかに不自然なのだ。
「……感じる?」
綾の声が、背後から聞こえた。
繋は頷いた。
「……重い。」
「それは……縫が残したもの。」
綾は、縫がいた場所を見つめる。
そこには、青い糸の痕跡が、微かに空気に残っていた。
「縫は……完全に消えたわけじゃない。」
綾は静かに言う。
「でも、“人としての縫”は、もう戻らない。」
繋は歯を噛みしめる。
「……俺が……
もっと早く……」
「違う。」
綾はきっぱりと言った。
「縫は、最初からそれを選んでた。」
繋は顔を上げる。
「最初から……?」
「ええ。」
綾は短く息を吐く。
「縫は、“発見者”になる前から……
自分が、どこへ行き着く存在か、知っていた。」
その言葉は、あまりにも重かった。
「……そんなの……
知ってて……
黙ってたのか……?」
綾は答えなかった。
代わりに、繋の影を見つめる。
「……あなたに、託した。」
繋は、無意識に影を踏みしめた。
その瞬間、視界が一瞬だけ歪む。
忘れられた名前。
消えかけた存在。
縫の、最後の微笑み。
すべてが、影の奥から滲み出てくる。
「……これ……
全部……」
「ええ。」
綾は頷く。
「あなたの中に、流れ込んだ。」
繋は拳を握る。
「……俺は……
“発見者”として……
やっていけるのか……?」
綾は少しだけ、目を伏せた。
「……それを、選ぶ時間は、もうない。」
そのとき、遠くから悲鳴が上がった。
繋と綾は同時に顔を上げる。
「……まだ……終わってない……!」
二人が駆けつけた先で見たのは、
広場に集められた人々だった。
だが、その中心に立つ人物は――
誰も、名前を呼べない。
「……あの人……
さっきまで……誰……?」
「……分からない……」
繋の胸が、強く脈打つ。
人の形をした影が、ゆっくりと広場を歩いている。
ナニカになる寸前の存在。
「……縫が……
全部……止めてたわけじゃない……」
綾が低く言う。
「ええ。
縫は、“時間”を縫っただけ。」
繋は前に出る。
影が、彼の方を向いた。
その瞬間、影の輪郭が、繋の影と重なった。
――共鳴。
「……来る……!」
繋は、初めて理解する。
自分の影は、もうただの影じゃない。
縫われた影。
空白を引き受ける器。
「……俺が……
結び直す……!」
影が襲いかかる。
だが、繋は逃げなかった。
自分の影を踏みしめ、名もなき存在に、手を伸ばす。
「……ここにいる。
呼ばれなくなっても……
俺が……覚えてる……!」
その言葉に、影が一瞬、揺らいだ。
それは、勝利ではない。
ただの、始まりだ。
綾はその背中を見つめながら、心の中で呟いた。
――縫。
あなたは、ちゃんと残した。
この子に、
壊れた世界を引き受けるだけの“重さ”を。
そして繋は、初めて知る。
“残された人”であることが、
どれほど過酷な役目なのかを。
作者の一言
今年最後の投稿です!内容が重い?知りません。この作品自体結構重い内容になってしまってるので。




