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忘却の輪郭  作者: 雨香
第3章

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ep41 縫い止めるもの

 通信石が沈黙したまま、再び震えることはなかった。


 「……くそ。」


 繋は舌打ちし、広場を振り返る。

 黒い影――“呼ばれなくなった人”だったものは、地面に溶けるように消えかけている。


 放置すれば、確実にナニカへ変質する。

 だが、今はそれ以上に――


 「リセル。」

 繋は振り向いた。

 「ここ、抑えられるか?」


 リセルは一瞬だけ唇を噛み、すぐに頷く。


 「……うん。

  ケイが戻るまで……逃がさない。」


 繋は彼女の目を見た。

 そこに迷いはない。

 だが、その奥に、どこか“知っている”者の覚悟が見えた。


 (……やっぱり……)


 胸に引っかかる感覚を振り切り、繋は走り出す。


 街の外縁部。

 綾と縫が向かった方向へ。


 道中、空気が明らかに歪んでいた。

 名を失った存在が擦れ合う音が、耳鳴りのように響く。


 やがて、倒壊しかけた建物の前に辿り着いた。


 そこに――縫がいた。


 膝をつき、両手を地面につけ、

 まるで世界そのものを縫い止めるかのような姿勢で。


 「……縫!」


 繋が駆け寄ろうとした瞬間、綾が手を伸ばして制した。


 「近づかないで。」


 その声は、冷静だが、微かに震えていた。


 「今、縫は……

  “縫ってる”。」


 繋は息を呑んだ。


 縫の身体から、青光が無数の“糸”となって伸びている。

 それらは地面、空気、建物、そして――

 見えない“何か”に絡みついていた。


 「……これ……

  街……全部……」


 「ええ。」

 綾は頷く。

 「正確には、“空白が広がるのを止めてる”。」


 繋の脳裏に、これまでの違和感が一気に繋がる。


 縫は、忘れられたモノに近すぎる。

 ナニカに触れすぎている。

 それでも壊れずにいられた理由。


 「……縫は……

  世界の……継ぎ目なんだ。」


 綾が静かに告げた。


 「忘れられたモノが生まれたとき、

  世界は必ず“ほころぶ”。

  その裂け目を、一時的に縫い止める存在。」


 縫の唇が、かすかに動く。


 「……ケイ……

  来た……?」


 繋は、制止を振り切り、一歩だけ近づいた。


 「……ああ。

  ここにいる。」


 縫は、安心したように微笑った。


 その瞬間、青光が大きく揺らぐ。


 綾が即座に叫んだ。


 「縫、集中して!

  繋と話すのは――」


 「……大丈夫……」

 縫はかすれた声で言う。

 「……もう……

  あんまり……

  残ってないから……」


 その言葉に、繋の胸が締めつけられる。


 「残ってないって……

  何がだよ!」


 縫は答えなかった。

 代わりに、繋の足元に、青い糸が一筋伸びる。


 それは、繋の影と結びついた。


 「……え……?」


 綾の顔色が変わる。


 「……やめなさい、縫……!」


 縫は、静かに首を振った。


 「……次は……

  ケイが……

  縫う……」


 青光が、一気に流れ込んでくる。


 繋の脳裏に、膨大な“空白”の感覚が流れ込んだ。

 忘れられた名前、失われた意味、消えかけた存在。


 そして、理解してしまう。


 縫は――

 自分自身を、糸として使っていた。


 世界が完全に裂けないように、

 “縫”という存在を、少しずつ削りながら。


 「……縫……

  やめろ……!」


 だが、青光は止まらない。


 縫の身体が、ゆっくりと透け始めていた。


 綾が歯を食いしばり、震える声で言った。


 「……これ以上続けたら……

  縫は……」


 言葉は、最後まで言われなかった。


 遠くで、何かが“ほどける”音がした。


 街全体が、一瞬だけ軋む。


 縫の青光が、限界まで張り詰める。


 そして――

 繋の影が、確かに“縫われた”。


 縫は、最後に繋を見上げた。


 「……ケイ……

  忘れないで……

  私……

  ここに……」


 その言葉と同時に、

 青光は静かに、しかし確実に薄れていった。


 縫は、まだ“消えて”はいない。


 だが、もう――

 元には戻れない。


 繋は、初めて理解した。


 自分が繋いでいるのは、

 モノだけじゃない。


 人も、存在も、

 そして――

 失われていく仲間の“痕跡”なのだと。

作者の一言

真夜中に書きましたけど寝る前に書く内容じゃないですね。重いです。

今日の朝にも投稿します。恐らく

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