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忘却の輪郭  作者: 雨香
第2章

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ep37 忘れられたモノの帰還

 空洞を出るころには、夜明け前の気配が坑道の奥から流れ込んでいた。

 重く淀んでいた空気は薄まり、代わりに土と冷気の匂いが戻ってくる。


 繋は歩きながら、胸元にしまった青い欠片を無意識に握っていた。

 それは小さく、冷たい。

 けれど確かに“存在している”重みがあった。


 「……戻った、のよね。」

 縫がぽつりと呟く。


 「ええ。」

 綾が答える。

 「影でもナニカでもなく……“忘れられたモノ”として、ね。」


 リセルは無言だった。

 彼女は坑道の壁を一度だけ振り返り、何かを確かめるように目を閉じた。


 外へ出ると、空はまだ青と黒の境目だった。

 朝の一歩手前。

 世界が“次へ進もうとする時間”。


 繋はその空を見上げ、深く息を吸う。


 「……これを、結び直せばいいんだな。」


 綾が頷く。


 「ええ。ただし……簡単じゃない。

  このモノは“人の願い”が強すぎる。

  結び損ねたら、再び影になる可能性もある。」


 縫が不安そうに繋を見る。


 「ケイ……無理しないで……」


 繋は微笑んだ。


 「無理はしない。

  でも……俺がやる。」


 青い欠片は、ヒナの“核”。

 忘れられ、歪み、影になりかけた“存在の証”。


 発見者見習いとして、そして――

 彼女の名前を呼んだ“当事者”として。


 繋は、欠片を地面に置いた。


 綾が簡易の結界を張り、縫が距離を取り、リセルは繋のすぐ後ろに立つ。


 「……始めるわよ。」

 綾の声が低く響く。


 繋は膝をつき、欠片に両手をかざした。


 「……ヒナ。」


 名を呼んだ瞬間、欠片が淡く光った。


 青い光が、脈打つ。

 縫の青光も共鳴し、空気が柔らかく震え始める。


 「世界と……繋げる。」

 繋は言葉を紡ぐように続けた。


 「忘れられたままじゃ……終わらせない。

  でも……奪う形にもさせない。」


 欠片が、強く光る。


 その光の中に、少女の姿が一瞬だけ浮かんだ。


 ヒナは微笑んでいた。

 泣いていない。

 影でもない。


 ただ――“在った”という事実だけを宿して。


 リセルが息を呑む。


 「……あ……」


 繋の脳裏に、最後の声が届いた。


 『ありがとう、ケイ。

  ……もう、だいじょうぶ。』


 光が、静かに地面へ溶けていく。


 欠片は、完全に消えた。

 代わりに、その場の空気が“落ち着いた”。


 世界が、ひとつ“思い出した”感覚。


 結びは、成功していた。


 縫が力が抜けたように座り込み、安堵の息を吐く。


 「……よかった……」


 綾は結界を解き、静かに言った。


 「これで、このモノはもう影にならない。

  “世界に組み込まれた”わ。」


 繋は立ち上がり、胸に手を当てた。


 まだ痛みはある。

 けれどそれは、失った痛みではなく――“覚えている”痛みだった。


 リセルが近づいてきた。


 「……ケイ。」


 繋は振り向く。


 リセルは一瞬、言葉に詰まり、それから小さく笑った。


 「……ちゃんと、帰してあげられたね。」


 「……ああ。」


 リセルは目を伏せ、ぽつりと続ける。


 「……私も……いつか……

  こうやって……」


 その言葉は、途中で止まった。

 けれど繋には、それ以上聞く必要がなかった。


 (リセル……お前も……

  “忘れられなかった側”なんだな。)


 空が完全に明るくなる。


 鳥の声が遠くで聞こえた。


 縫が立ち上がり、繋の袖を引く。


 「ケイ……次、行こ。」


 繋は頷いた。


 忘れられたモノは、またひとつ見つかった。

 だが、同時に――新しい“空白”が、世界のどこかで生まれている。


 発見者の仕事は、終わらない。


 繋は前を向き、静かに歩き出した。


 その背に、朝の光が差していた。

作者の一言

一旦ここでこのお話は止めさせていただきます。理由としては話の続きを創れなくなっていることとリアルが少し忙しいためです

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