表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の輪郭  作者: 雨香
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/46

ep30 リセルの記憶・二つの影

 薄暗い小屋に、静かな呼吸音だけが響いていた。

 縫は光を抑えるように身を縮め、繋の袖を指先でつまんでいる。青い光は弱まりつつあるが、まだ完全ではない。


 そして、そのそばに――

 リセルが立っている。無表情。だけど、その指先は微かに震えていた。


 「……リセル、あの“影”のこと、知ってるのか?」


 繋が問いかけると、リセルはわずかに目を伏せた。

 その瞬間、炭のように黒く焦げた箱――忘れられなかった「モノ」の残骸が、じり……と音を立ててひび割れた。


 彼女はそのひびを見つめながら、静かに口を開く。


 「……見たことがあるの。ずっと前に。」


 繋と綾が視線を交わす。

 リセルはゆっくり椅子に腰を下ろし、遠い記憶を拾うように続けた。


――――――――


 「発見者」の候補生が十数人いた頃。

 まだ繋は選ばれていなかった時代。


 リセルの目の前で、“ある少年”が消えた。


 忘れ去られたモノの探索中、突然現れた黒影が、少年の胸へ触れた瞬間――

 少年の光が破裂したように四散し、影はその光を吸い込むようにして姿形を変えた。


 人の輪郭。

 少年に似た背格好。

 しかし黒い。


 「……あれは、モノにもナニカにも分類できなかった。

 でも間違いなく、ナニカが“人の影を引きずったまま生まれた”姿だった。」


 リセルの声は震えていた。


 「その時……私は何もできなかったの。

 助けられなかった。

 影はすぐ封じられたけど、少年は……二度と戻らなかった。」


 縫が小さく息をのむ。


 リセルはその手をぎゅっと握った。


 「だから……繋には、同じことを絶対にさせたくなかったんだよ。」


――――――――


 「でも、それがどうして今……」

 綾が尋ねようとしたとき、箱の破片が突然“鳴った”。


 ピシィッ。


 割れ目から、黒い霧が細く漏れる。

 繋が即座に身構えるが、その霧はすぐに空気に溶け消えた。


 だが、残った“気配”が違った。


 「……これ、二種類の影の気配だわ。」

 綾が額を押さえながら呟く。


 「二種類……?」


 「さっき倒した黒影の残りと……もう一つ。もっと古い、もっと深い……“別の影”。」


 繋の喉が鳴る。


 リセルがゆっくり顔を上げた。


 「そう。

 六年前、私が見た影と……今日の影は“同じ系統”なんだよ。」


 繋は言葉を失った。


――――――――


 突然、縫の体が青光を強める。


 「……ッ! ケイっ!」


 縫が胸に手を当てて苦しげにうずくまる。

 繋は慌てて抱き寄せる。


 縫の光は青白く震え、黒影の残滓が箱から漂い始めていた。


 そのとき――

 リセルが縫に手を伸ばした。


 「……縫の光、影に呼ばれてる。

 触れた時に刻まれた“残り香”がまだ抜けてない。」


 縫の肩に触れたリセルの手が、微かに青く染まる。


 繋が驚く。


 「リセル、お前……なんでそんなに影に敏感なんだ?」


 沈黙。


 リセルは唇を噛むと、その場でゆっくり言った。


 「……私の中には、あの日触れた“影の欠片”がまだ残ってるんだと思う。」


 空気が凍った。


 「……影に触れたら、人は消えるんじゃ――」


 「普通は、ね。」

 リセルは自嘲気味に笑った。


 「でも私は……“影に取り込まれかけた”だけで、完全にならなかった。

 そのかわり、影の気配がわかる体になった。」


 繋の胸が強く痛んだ。


 (だから……いつも俺のそばにいたのか。)


 リセルは縫の青光をじっと見つめる。


 「繋、縫――二つの影が動いてる。

 ひとつは今日のやつ。

 もうひとつは……六年前に封印されたはずの影。」


 「……じゃあ、それが今どこかで……?」


 「うん。目を覚まし始めてる。」


 縫の青光が、箱の破片を照らし出す。

 その光が箱の影を形作るように揺れた――。


 そして、縫が囁く。


 「ケイ……あの影……呼んでる……。

 “まだ、忘れられていないモノを返せ”って……。」


 繋は歯を食いしばった。


 影が探している“忘れられなかったモノ”。

 そしてその影が二ついる。


 六年前と今が繋がろうとしている。


 リセルは静かに言った。


 「……繋。

 本当にごめん。

 あなたが発見者になった時から……ずっと怖かった。」


 繋が言い返す前に、リセルは続けた。


 「もし六年前の影が完全に目覚めたら――

 最初に狙われるのは、きっと“あなた”だから。」


 その言葉は、まるで宣告のように重かった。

作者の一言

ついに30話きました!このお話投稿し始めてからもう1ヶ月経ったらしいです。時間の流れって速いなぁ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ