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忘却の輪郭  作者: 雨香
第2章

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ep27 青光の共鳴

 地下通路の奥へ進むにつれ、空気が変わった。

 湿り気は薄れ、代わりに“無音”が押し寄せてくる。

 音が吸い込まれるような、この異質な静けさ。まるで世界の音そのものが拒絶されているようだった。


 繋は前を行くリセルと並びながら、縫の様子を何度も気にしていた。


 縫の体からこぼれる青光は、歩くたび淡く揺れ、微かな残光を床に落とす。

 ただの光ではない。“方向性”をもって流れている気配がある。


 (縫……本当に大丈夫なのか?)


 不安を押し隠しながら歩いていると――

 突然、縫が立ち止まった。


 「……聞こえる。」


 その声に三人とも息を呑む。


 「なにが聞こえる?」

 繋は慎重に尋ねた。


 縫は胸に手を当てて、小さく震える声で答えた。


 「……誰かが泣いてる。遠くで……すごく、すごく悲しそうに。」


 その瞬間だった。


 縫の青い光が、ふわっと広がり、通路一帯を染め上げた。


 「ちょ、ちょっと縫!?」

 綾は慌てて距離を取るが、繋は思わず縫を支える。


 だが縫は苦しんでいるわけではなかった。

 ただ、胸の奥から何かが溢れ出るように、青の光を放っている。


 リセルが周囲を見回しながら低く呟いた。


 「……前の黒影に触れられた影響かもしれない。」


 「影と……共鳴してるってこと?」

 綾が眉をひそめる。


 「うん。でも、多分――悪い意味じゃない。」


 リセルの声は妙に確信めいていた。


 その表情は、繋が知らない“知識”か“経験”を隠しているように見えた。

 ほんの一瞬視線が合った時、リセルは何かを言いかけて、口を閉じた。


 (リセル……?)


 だが繋の疑問は、次の現象で吹き飛ぶ。


 縫を中心に広がった青光の輪が、突然、地面の一点へ吸い込まれた。


 「な……!?」


 ごぉぉぉ、と低い音が響く。

 床の石がゆらぎ、水面のように波紋を広げ、中心が円形に沈んでいく。


 現れたのは――

 深い深い穴。


 けれどそこは闇ではなかった。

 “青光に染まった霧”が、ゆっくりと渦を巻きながら底へ誘っている。


 縫がその穴の方に引き寄せられる。


 「縫!」

 繋は腕を掴むが、縫は首を振った。


 「……平気。怖くないよ。むしろ……呼ばれてるみたい。」


 「呼ばれてるって……誰にだよ。」


 縫は目を伏せる。


 「泣いてる人……。あの声、ケイにも、聞こえない?」


 繋は耳を澄ました。

 だが何も聞こえない。

 声どころか、空気の震えすら感じない。


 「俺には……」


 そう言いかけた時、リセルがぽつりと言った。


 「縫は、ケイの光と繋がってる。

 だから“光の届く範囲の声”なら、縫には届くんじゃないかな。」


 「光の……届く範囲……?」


 その「言い方」が繋の胸に引っかかった。

 “以前から知っていた”かのような、そんな言い回し。


 だが問い詰める余裕はなく、縫が穴の前に立つ。


 青い光が縫の足元から吸い込まれるように下へ流れ、穴の奥から風が吹き上がる。


 その風に混じるように――

 確かに、微かな声がした。


 『……たす……け……て……』


 縫だけじゃない。今度は繋にも届いた。


 「聴こえた……!」


 「うん。やっぱり誰かいる。」

 縫は静かに頷いた。


 綾は緊迫した顔で言う。


 「縫を媒介にして“何か”が呼びかけてるってことよ。何かの核かもしれないし、影に囚われたモノかもしれない。」


 「助けを求めてるってことは……ナニカになりかけてる?」

 繋が問うと、綾の表情が強張った。


 「かもしれない。

 でももし“ナニカ化”が進んでるなら、中に飛び込むのは危険よ。」


 繋は躊躇しなかった。


 「行くしかないだろ。」


 縫も小さく笑う。


 「大丈夫だよ、ケイ。私も一緒だから。」


 リセルは繋の肩に触れ、小さく囁くように言う。


 「……気をつけて。ケイだけじゃなくて、縫も、絶対に守って。」


 繋は頷いた。


 そして三人は、青光の穴へ足を踏み入れた。


 空気が反転するような重力のない感覚。

 視界を満たす青霧。

 心臓の鼓動がゆっくりと深くなる。


 降りるにつれ、あの泣き声がはっきりしてくる。


 『……だれか……だれか……』


 縫の光が共鳴するように強まり、青い波紋が霧の中へ広がった。


 やがて、霧の底に――

 ぼんやりとした“人影”が浮かぶのが見えた。


 ただの影ではない。

 黒ではなく、青白い輪郭を持つ“影のような人”。


 縫が震える声で呟く。


 「……これ……“モノの影”じゃない……」


 繋も直感した。


 これは――“新しいタイプの存在”だ。


 泣いている。

 ただひたすら、誰かを呼んで。


 その青白い影が、ゆっくりと顔を上げた。


 「……たすけて、発見者あなた……」


 繋は息を呑んだ。


 初めてだ。

 モノでもナニカでもない存在が、直接繋に助けを求めてきたのは。


 縫の青光が更に強まり、影の輪郭と同じ色で脈動を始める。


 ――縫の変化は偶然じゃない。


 ――影の泣き声も、青い輪郭も、すべて“何か大きな変化”の前兆だ。


 繋は縫の手を握り直し、影の前に一歩踏み出した。


 「話を聞かせてくれ。

 お前は……何者なんだ?」


 青影は震える唇で、ゆっくりと答えた。

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