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忘却の輪郭  作者: 雨香
第2章

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ep26 地下へ沈む光

 黒影が残した“輪郭”――それを追うには、街の地表だけでは足りなかった。


 導標は薄い反応を示し続けている。

 だがその反応は、地上のどこにも一致しない。


 けいは導標の針が示す方向を見て、眉をしかめた。


 「……地下か。」


 綾がため息をつく。


 「そうだと思った。街の地下、かなり複雑だからね。昔の坑道とか、管理されてない層も多いのよ。」


 ぬいは不安げに繋の腕を握った。

 青い光はまだ薄く残っている。

 あれ以来、消えるどころか“揺らぎ”が増えたようだった。


 「ケイ……地下って暗いよ。私、前ほど光が安定してないの……」


 繋は縫の手を優しく包む。


 「大丈夫だ。暗かったら俺が光る。お前は俺が守る。」


 縫は小さく笑って頷いた――だが、その笑顔はやっぱり弱い。


 リセルが前方を歩きながら、ふと振り返った。


 「……縫の光、地下でどう反応するか分からない。気をつけて。」


 リセルの表情はいつも以上に硬い。

 その視線には“縫の異変を誰より気にしている”気配があったが、繋は気づかなかった。


――――――――


 街の外れにある古い倉庫――その奥の錆びついた鉄扉が、地下への入口だった。


 職員が鍵を解除し、慎重に扉を引く。

 長い階段が闇へ向かって開いていた。


 「ここから下は管理区域外だ。気をつけろよ。」


 職員の注意に頷き、繋たちは階段を下り始めた。


 一段降りるごとに気温が下がり、空気は重くなっていく。

 湿った風が縫の光を揺らし、彼女は繋の腕にすがりながら進む。


 「……ねぇケイ。聞こえる?」


 縫が小さく呟く。


 「何が?」


 「声……なのかな……。ずっと下から、呼ばれてるみたいで……」


 繋は耳を澄ます。

 だが、人の声も、風の音すら聞こえない。


 (縫だけが感じてる? 影の残滓に触れたせいか……)


 階段の終わりにたどり着くと、そこには幅の広い旧坑道が伸びていた。

 無数の支柱が並び、天井は高い。

 だが照明はなく、闇だけが続いている。


 縫が少し震える。


 「……暗い。嫌だ……」


 繋は右手を軽く開き、掌に白い光を集めた。

 光は坑道をほんのり照らし、縫の肩の震えは少し収まる。


 リセルが先頭に立ち、剣に魔力を宿して歩き出す。


 「導標の反応は右の奥……だいぶ深いね。急ごう。」


――――――――


 三人で奥へ進むと――

 ふいに空気が変わった。


 冷たい。

 重い。

 そして、どこか“湿りすぎている”。


 縫がぴたりと足を止めた。


 「……ケイ。ここ、光が沈む。」


 「沈む?」


 繋が光を強めようとした瞬間だった。


 ――じゅ……っ……。


 光が、吸われた。

 掌から放った光が、まるで水に落ちた火のように揺らぎ、弱まっていく。


 「なっ……なんだこれ」


 繋は焦って光を増幅するが、増やした分だけ闇に溶ける。


 そのとき、リセルが叫んだ。


 「影だ! 天井!」


 見上げた瞬間――

 黒い“滴”が天井から落ちてくる。


 ぽたり。

 ぽたり。


 闇そのものが溶けて垂れているような、不気味な滴。

 着地すると広がり、地面を這うように形を変えていく。


 縫は後ずさるが、足が震えて動けない。


 「いや……やだ……影の匂い……ぜったい近い……っ」


 繋は縫を抱き寄せ、影の滴から距離を取ろうとした。

 だが滴は広がる速度が異様に速い。


 「ケイ! 後ろ!」


 リセルの叫びと同時に剣が振るわれ、黒い滴が裂かれる。

 だが斬ったはずの滴は煙のように消えるだけで、次の瞬間には別の場所で滲むように現れる。


 「……これ、核を持ってない。黒影になりきっていないんだ。」


 リセルが眉をひそめる。


 「影の“欠片”? それとも……」


 繋は天井を見上げた。

 そこには、まるで巨大なシミのような黒い模様が広がっている。


 (あれ……前に街で見た“線”に似てる……)


 縫の手が繋の服をぎゅっと掴む。


 「ケイ……下にいる……“本体”が。」


 繋は縫の肩に手を置き、静かに問う。


 「感じるのか?」


 縫は震える声で答えた。


 「うん……呼ばれてる。私の光を……食べようとしてる……」


 その瞬間、坑道の奥で“音”がした。


 ぱき……ぱき……ぱき……


 何か硬いものが壁から剝がれ落ちるような音。

 そして、奥の闇がわずかに“動いた”。


 リセルが即座に構えを取る。


 「来る!」


 繋は縫を背にかばい、拳に光を集める。


 だが、また光が吸われた。

 闇は、光を喰っている――。


 (まずい。このままじゃ……)


 縫の青光がふっと強まった。

 その光は逆に、闇に“吸われない”。


 「……ケイ、私が前に出る。」


 縫は恐怖で震えながらも、一歩踏み出そうとしていた。


 繋は思わず腕を掴んだ。


 「だめだ。危ない。」


 縫は涙を浮かべつつ振り向く。


 「じゃあ……どうすればいいの?

 私はケイの光がないと生きられない。

 でも、ケイの光は吸われちゃう……。だったら……」


 縫はかすかに笑った。


 「私だけが、進めるの。」


 闇の奥で、“それ”が姿を現し始めた。


 黒い塊のようで、まだ形が定まらない。

 だが声だけが聞こえる。


 ――……ア……ヒカリ……。


 繋は縫の手を強く握り、叫んだ。


 「行かせるわけないだろ!!」


 闇が揺れた。

 縫の光も揺れた。


 そして地下全体が、低く唸りながら振動した。

作者の一言

最近ポケモンZAやってるんですけど相棒ポケモンはやっぱスターミーですね。スター!

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