ep24 青光の告げるもの
翌朝。
街の宿屋の一室で、繋は目を覚ました。
縫はすでに起きていて、窓際に座り、外の光をじっと眺めていた。
その背中には……昨日よりもはっきりと“青い光”が混ざっている。
「……おはよう、ケイ。」
振り返った縫の瞳にも、淡い青が宿っていた。
繋は胸が少し締め付けられる。
「縫……光、増えてないか?」
縫は自分の手のひらを広げて見せた。
指先から腕へと、青い線のような光が広がっているのが分かる。
「うん……昨日より増えてると思う。」
声は落ち着いているが、その落ち着きが逆に怖い。
まるで“変化を受け入れようとしている”感じがした。
繋が何か言おうとした時、扉がノックされた。
「ケイ、縫、起きてる?」
リセルの声だ。
扉を開けると、リセルが髪を結び直しながら入ってきた。
朝の光を受けた彼女の瞳は、どこか緊張の色を帯びている。
縫を見ると、リセルの眉がわずかに動いた。
「……青、増えてる。」
縫は弱く微笑んだ。
「心配しないで、大丈夫。痛くもないし、苦しくもないよ。」
リセルは返事をしなかった。
黙って縫の光を見つめるその視線は、どこか“怯え”が混じっているようだった。
繋はそれに気づいて、眉を寄せた。
「リセル……怖がってる?」
「……べつに。」
リセルはすぐそっぽを向いた。
けれどその肩は小さく震えていた。
――――――――
綾が部屋に入ってきたのはその後すぐだった。
「おはよう。……って、あらら。」
縫を見るなり目を丸くする。
「これは昨日より明らかね。青の混じり方が均一になってる。
ただの異常じゃなくて、完全な“変質”よ。」
「変質……って、どうなるんだ?」
繋は不安を抑えきれず尋ねた。
綾は縫の体の周囲に手をかざし、光の流れを読む。
「まず結論から言うと……縫は危険じゃないわ。少なくとも今はね。」
繋は息をついた。
だが綾は続ける。
「でも、この変化は“ケイの光”だけじゃ起きない。
昨日の影……あれが縫に触れた瞬間、何かが混じったのよ。」
縫の表情が強ばった。
リセルはぎゅっと繋の袖を掴む。
「……じゃあ縫は、影に……汚されたの?」
縫は首を横に振る。
「そんな風に言わないで、リセル。私は平気だよ。」
だがその言葉は優しいのに、どこか震えていた。
――――――――
綾がさらに分析を続けた。
「影の“核”は、普通は触れた瞬間に相手の光を壊す。
でも縫は壊れてない。むしろ“影を取り込んでる”感じ。」
「取り込む……?」
繋は息を呑む。
綾は縫に触れることなく、慎重に言った。
「影の成分が縫の光の中で混ざって、それが青色として表れてるのよ。
本来ならあり得ない現象。影と光は相反する存在だから。」
縫は自分の胸元に手を当てた。
「……昨日からずっと、不思議な感じがしてて。
身体が軽くなるような……でも冷たくもなるような……そんな感覚なの。」
「痛みは?」
繋が尋ねる。
「ないよ。でも――」
縫は少し迷ってから続けた。
「ときどきね、あの黒影の気配を感じるの。
……私の中で。」
その瞬間、部屋の空気が一気に凍りついた。
繋の心臓が跳ね上がる。
リセルは縫から半歩後ずさる。
喉がつまったように言葉が出ない。
「……縫。」
繋は彼女の手を握る。
「その気配……苦しくは?」
縫は首を振る。
「ううん。むしろ……あたたかいの。
あの黒影が、本当は違う“形”を持ってたみたいな……そんな感じ。」
綾が低い声で呟いた。
「……影の成分の一部が、縫の光と共鳴しているのかもね。
つまり、“影の正体”を縫の中で読み取ってる、ってこと。」
繋は息を呑んだ。
影は普通、ただの残骸のはずだ。
けれど、縫が“何か”を感じ取っているということは――
(あの影……ただの暴走体じゃなかったのか?)
黒影の最後の一言――“おまえ……また……”
縫だけが聞いた声。
繋の背筋に冷たいものが走る。
――――――――
綾が振り返る。
「とにかく、縫の状態は要観察。危険があるとは言い切れないけど……このまま変化が進む可能性がある。」
繋はうなずいた。
その時、リセルがぽつりと言った。
「……縫。もし、もしね……あんたが影に飲まれたら……」
縫は静かに笑った。
「そうなったらきっと、ケイが止めてくれるよ。」
繋は胸が痛くなる。
「そんな日、来させない。」
縫は目を細め、繋の手を包んだ。
その青い光が、ほんの一瞬だけ“脈打った”。
まるで、呼吸をしているかのように。
その異変を感じ取り、綾が小さく呟く。
「……縫の中で何かが成長してる。」
部屋に静寂が落ちた。
外では鳥の声さえ聞こえるのに、ここだけが違う世界のようだった。
そして繋は確信する。
――縫の変化は、ただの異変じゃない。
――これが、“次のモノ”に繋がっていく。
そう、直感が告げていた。
作者の一言
ここまで読んでくれてありがとうございます!




