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忘却の輪郭  作者: 雨香
第2章

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ep23 縫の青光

 広場に刻まれた一本の黒い線。

 冷たく、焼け跡ではなく、ただ景色を“断ち切る傷”のように走っている。


 それを見つめるけいの背後で、縫は額に手を当てていた。

 息苦しそうに、小さく震えながら。


 「縫、大丈夫か?」

 すぐに繋は縫の肩に手を置く。


 縫はゆっくり首を振った。


 「……違うの。痛いんじゃなくて……聞こえるの。」


 「聞こえる?」

 繋は思わず身を乗り出す。


 縫の耳は人の形をしているが、その聴覚は“光の揺らぎ”にも反応する。

 だから普通の人間には聞こえないものまで拾ってしまうことがある。


 「……誰かが、呼んでる……」


 縫の声はかすかに震えていた。


 綾が鋭い表情で縫に近づき、光の波を観測する。


 「縫、その声って何? 音? それとも思念?」


 縫は胸を押さえながら答えた。


 「……影の、声……みたい……。

 消えるとき……あの黒いの、何か言ったの……それがまだ残ってる……」


 リセルが思わず身を強張らせる。


 「え……影が“言葉”なんて……」


 今まで繋たちが相対した黒影は、獣じみた動きこそあれど、言語らしきものは一切発してこなかった。

 ただ叫び、ただ暴れ、ただ襲うだけだった。


 なのに――今回は“言葉”?


 胸に冷たい何かが落ちていく。


――――――――


 縫は青白い光を揺らしながら目を閉じた。


 「……たぶん“ヒトの声”……。

 でも歪んでて、よく分かんない……。

 “もどって……”“ここじゃ……ない……”って……そんな感じ……」


 繋は息を呑む。


 影が“戻りたがっている?”

 どこへ?

 そしてなぜ?


 これまでの影――ナニカは、忘れられたモノが変質して暴走する存在だった。

 意識なんて残っていない。

 少なくとも、そうされてきた。


 だが今回の影には“何かの残滓”がある。


 綾は黒い線に近づき、しゃがんで手をかざした。


 「……温度ゼロ。

 それに……これは切断跡じゃなくて、空間そのものが少しだけ歪んでる。

 でも、完全に“開いてない”。」


 「開く?」

 繋が眉をひそめる。


 綾はまっすぐ黒い線を見つめて言った。


「異界の亀裂よ。影が逃げようとした跡か、戻ろうとした跡か……

 どっちにしても、この街で初めてのケース。」


 リセルが震える声で言う。


 「そんな……モノの影って、世界崩壊の前兆なんでしょ?

 これがもっと大きくなったら……」


 繋は歯を食いしばった。


 (縫が青く光ったのも……影が喋ったのも……全部、繋がってる。)

 (これは絶対、ただの偶然じゃない。)


――――――――


 縫はまだ胸を押さえていた。

 繋はそばに膝をつき、優しく肩を抱く。


 「縫、声はまだ聞こえるか?」


 「……うん。でも薄くなってきた。

 きっと、黒い線が消えると同時に……消えちゃう。」


 綾が急ぎ調べながら言う。


 「線の寿命は長くないわ。数時間か……もって半日。」


 「それじゃあ……」

 繋は縫を見る。


 縫はかすかに頷いた。


 「うん……“今だけ”。

 今だけ、聞こえる……」


 繋は決断した。


 「縫、その声……追えるか?」


 縫は驚いたように目を見開いたが、すぐにゆっくりと頷いた。


 「うん……たぶん。

 声は城壁の外へ向かってる。

 遠いけど……追えば、行ける。」


 「じゃあ行くぞ。」


 繋の言葉に、綾とリセルが同時に反応する。


 「危険よ、繋。」

 「外は今、夜の気配が濃いよ……」


 「分かってる。」

 繋は迷いなく言った。


 「でも、今の“影の声”がヒントになるなら、見逃すわけにはいかない。

 これは――絶対に、大きな何かに繋がる。」


――――――――


 縫は繋の腕をそっと掴んだ。


 「……ケイ。」


 繋が振り向く。


 縫の青光は、さっきより強くなっていた。

 白と青が混ざり合い、まるで“心臓が二つある”みたいに脈打っている。


 「怖い?」


 繋の問いに、縫は少し考え――そして微笑んだ。


 「……ううん。ケイが行くなら、ぜんぜん怖くない。」


 その言葉には、無垢と覚悟が同時に宿っていた。


 リセルはその光景を見て、小さく拳を握り締める。


 (……やっぱり、繋は……)

 胸の奥で、何かがざわりと動いた。


――――――――


 縫は繋の手を掴んだまま、目を閉じる。


 「……来て。声の向こうまで、連れてく。」


 その瞬間――

 縫の光がふわりと強まり、青白い輪が足元に広がった。


 空気が震え、視界が波打つ。


 黒い線の残滓がかすかに鳴いた。

 まるで誰かが呼ぶように。


 そして、縫が静かに言った。


 「――“帰りたい”って言ってる。」


 その言葉に、繋の心臓が跳ねた。


 影が“帰りたい”?

 では――帰るべき場所とは?


 そこにこそ、忘れられたモノの真相があるのかもしれない。


 繋たちは青い光に包まれ、街の外へと踏み出した。

作者の一言

ゲームやりすぎて眠いです。あと持久走は許しません。

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