ep2 鐘の残響
崩れた聖堂に、静寂が戻っていた。
識は肩で息をしていた。
目の前の“ナニカ”は、すでに消えている。
封印の術式がまだ薄く光を放ち、空気がかすかに震えていた。
――鐘の音は、もう聞こえない。
「……これが、“モノ”を失うってことか。」
つぶやいた声が、瓦礫に吸い込まれていく。
“モノ”を結びつけることに失敗した時、それは「ナニカ」に変わる。
討伐すれば、世界の崩壊は止まる。
だが、“モノ”そのものは完全に失われる。
この街に、もう鐘の音は二度と戻らない。
人々は朝を知ることができない。
誰も「朝を告げるものがあった」ことすら、思い出せない。
識の胸の奥に、重い痛みが沈んだ。
そのとき、通信石が光った。
師匠の綾の声が、どこか遠くから聞こえてきた。
> 「識、応答しなさい。結びつけは――成功した?」
「……失敗です。“ナニカ”になって、討伐しました。」
> 「そう。……初任務にしては、よく持ちこたえたわ。」
綾の声は淡々としていた。
けれどその沈黙の裏に、深い悲しみが滲んでいる気がした。
>「識、あなたはまだ“恐れ”を知らない。
忘却は優しさでもあり、残酷さでも
ある。それを分かるまで、発見者にはな
れない。」
「……はい。」
答える識の声は、かすかに震えていた。
――――――――
数日後。
発見者たちの拠点〈記憶塔〉。
塔の上階には、八つの光の球が浮かんでいる。
それぞれが、発見者たちの魂と同調する〈識標〉。
そのうち、二つはすでに消えていた。
綾は静かにその光を見上げていた。
背後に、識が入ってくる。
「……二人、戻らなかったんですか。」
「ええ。北方で“モノ”が暴走した。封印が間に合わなかった。」
識は唇を噛んだ。
発見者は今、八人。
この世界を守る最後の八人。
「識。」
綾が振り向いた。
「あなたには、次の任務を与えるわ。」
「次の……?」
「“名を失った少女”を探しなさい。」
識は眉をひそめた。
「“少女”……ですか? “モノ”じゃなく?」
「いいえ、彼女が“モノ”そのものよ。すでに誰も彼女の名前を覚えていない。
家族も、友人も、記録も、彼女の存在を説明できない。」
「……そんなことが、あり得るんですか。」
綾は目を閉じ、微かに頷いた。
「世界は、少しずつ壊れているの。」
「忘れ去られたモノ」は、今や“人”にまで及んでいる。
「急ぎなさい、識。――あと、二十七日しかない。」
導標の針が、再びゆっくりと回り始めた。
識はそれを握り締め、決意の息を吐いた。
この世界がどれだけ壊れていこうとも、
自分は“発見者”であり続ける。
たとえ、世界にとって最後のひとりになっても。
霧の外で、どこか遠く――誰かの声がした。
「……わたしの、名前を……知ってる……?」
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