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忘却の輪郭  作者: 雨香
第2章

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ep15 レベル3の森

 転移の光が晴れた途端、けいたちは思わず息を呑んだ。


 森が――異様に静かだった。


 風も通らない。

 木々は黒い膜に覆われたように色を失い、地面は“呼吸している”かのようにぬるりと脈動している。


 「ここ……もう普通の森じゃないね。」

 リセルが繋の袖をぎゅっと掴む。


 「黒光が落ちた地点は、すぐそこだ。」

 綾は杖の先を前に向けながら、慎重に進む。


 三人の足音だけが、やけに大きく聞こえた。


 (レベル3以上のモノ……まだ姿すら出ていないのに、この圧力か。)


 繋の胸が、無意識にざわつく。


 まるで誰かが――名前を呼んでいるような。

 “ケイ”と、どこかで囁く気配がまとわりついて離れない。


――――――――


 「繋、感じてる?」

 綾が横目で彼を見る。


 「……はい。なんか、呼ばれてるような気がする。」


 その答えに綾は眉をひそめた。


 「やっぱりね。今回は“名前持ち”の発見者に強く反応してる。

  普通はまだ生まれたばかりの段階で、こんな干渉はしてこないのに。」


 リセルが不安そうに周囲を見渡す。


 「まだ姿が見えないのに……どうやって捜すの?

  こんなに広い森じゃ、手がかりも……」


 繋は導標をゆっくり掲げ、力を込める。


 すると、導標の先端がかすかに震えた。


 「大丈夫。呼ばれてるなら――応えればいい。」


 繋は導標が示す方向へ歩き出す。

 その背中に、綾とリセルがついていく。


――――――――


 森の中央へ近づくほど、黒い霧は濃くなった。

 息を吸うたびに喉がひりつき、体温が奪われていく。


 リセルが震える声で言う。


 「これ……普通に歩いてたら、一般人だと数分で倒れるよ……。」


 「だからこそ発見者が必要なのよ。」

 綾が静かに答える。


 「忘れ去られたモノが生まれる瞬間の場所なんて、本来は“世界の裏側”みたいなもんだから。」


 彼女の言葉に、繋はふと思う。


 (俺たち発見者は、こんな危険な場所に何度も踏み込んでるんだ……。)


 あらためて、自分が背負い始めている役目の重さを感じた。


――――――――


 やがて、森の中心部に辿り着く。


 そこには大きな窪地があり、まるで巨大な生き物が脈打っているかのように地面がうごめいていた。


 リセルが息を呑む。


 「……あれ、なに?」


 黒い“水滴”のようなものがぽたり、ぽたりと絶え間なく地面に落ちている。

 落ちた場所はじゅっと焦げ、そして焦げ跡が“集まり”、蠢く塊を形成していた。


 それはまだモノの形になっていない。

 だが確かに存在し、成長し、脈打っている。


 綾が低くつぶやく。


 「嫌な予感、当たったわね……。

  これはレベル3どころか――最初からレベル4の気配がある。」


 繋はごくりと唾を飲む。


 (まだ生まれたばかりでレベル4……そんなの聞いたことない。)


 その瞬間――


 ぽたり。


 ひときわ大きい黒滴が落ちた。

 そして黒い核が、ゆっくりと“目”を開く。


 黒い、しかし光を帯びた瞳。


 繋の心臓がドクンと鳴った。


 ……ケイ……


 はっきりとした声が、頭の奥に響く。


 「っ!?」


 リセルが慌てて繋の肩を支える。


 「けい!? どうしたの!?」


 「……呼ばれた。

  今はっきり、俺の名前を。」


 綾の表情から色が消えた。


 「最悪ね。

  このモノ……“あなたを知って”生まれてきてる。」


 繋は震える指で導標を握り直す。


 “名前を知る”モノ。

 それは存在が強すぎるモノだけが持つ性質。


 まだ、人ではない。

 モノでもない。

 しかし――危険極まりない。


――――――――


 黒い核がゆっくりと形を歪める。


 手のような影が一本、伸びる。


 次に、足のような影が地面に突き刺さる。


 まだ形は曖昧だ。

 だが、それは“人型”へ近づいていく。


 リセルが声を震わせた。


 「これ、絶対早すぎるよ……。

  本来なら生まれて数日は姿が定まらないのに……なんでこんな……」


 綾がきっぱりと言う。


 「原因は繋よ。

  “名を持つ発見者”が近くにいると、モノは形を急ぐことがあるの。」


 繋は前へ踏み出した。


 「なら、なおさら止める。

  まだモノの形になってない今のうちに結びつける!」


 綾は鼻で笑い、


 「言うと思ったわ。

  ……でも無茶しないで。

  これはあなたの名前を求めてる。

  結びつけを狙うなら、まず“声”を断たなきゃいけない。」


 その時。


 黒い影が繋に向かって、 すっと腕を伸ばす。


 触れられる寸前で、

 繋は導標を振り下ろした――!


 黒い火花が散る。


 影は一瞬後ずさりし、また鼓動を打ち始めた。


 ……ケイ……ケイ……


 呼び続ける声は、もはや森全体に響いていた。


――――――――


 綾が息を呑み、叫ぶ。


 「繋!

  離れて! このままだと“結びつき”を逆に奪われる!」


 リセルも叫ぶ。


 「けい、戻って!!」


 しかし繋は一歩も引かない。


 (逃げたら、もっと成長する。

  1ヶ月どころか、数日でナニカになる。

  止めるなら今しかない!)


 導標が白く光る。


 黒い影が脈動する。


 二つの力が相対した瞬間――


 森が割れんばかりの音を立てた。

作者の一言

リセルが「繋」のことを「けい」って呼ぶときは大体は焦ってるときです。間違ってひらがなしてるわけじゃない!あと普通の時でもひらがなの時はあるかもしんない。

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