表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の輪郭  作者: 雨香
序章・第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/46

ep13 影を絶つ者

 名を取り戻した瞬間――

 繋の世界は一気に色を取り戻した。


 空気は重く、冷たく、しかしはっきりと“触れられる”。

 音は鋭く届き、心臓の鼓動が確かに胸を叩く。


 自分が世界に“存在している”と分かる。

 それは、かけがえのない感覚だった。


 導標が光をまとって手に吸い付くように馴染む。

 まるで久しぶりに帰ってきた友達みたいに、ぴたりと。


 影の記録者は、その光に怯んだように揺れた。


 > 「名の再構築など……許されぬ……!!」


 その叫びに、綾が鼻で笑う。


 「許可なんて必要ないわ。

  “生きたい”と思う者の意志は、世界にとって最上位の力よ。」


 繋はリセルをそっと背後に下がらせ、前へ踏み出した。


 「綾さん、少し休んでてください。

  ここからは……俺の仕事です。」


 綾は短く頷く。


 「行きなさい。

  新しい“名”の力を――見せてあげて。」


――――――――


 影が巨大な腕を何本も生み出し、空間ごと叩き潰そうと迫る。


 だが――繋の視界は、驚くほど冷静だった。


 腕の軌道。

 重心の影。

 空間の歪み。

 すべてが、透けて見えるように感じる。


 (これが……名が与える“定着”の力か。)


 名を得ることで、世界との繋がりが格段に強まる。

 それは同時に、世界の情報を“受け取れる”ということ。


 繋は軽く息を吸う。

 右足に力を込め、空間を蹴る。


 瞬間――身体が風より速く走った。


 影の巨大な腕をすり抜け、刃の根本を一撃で断つ。


 黒い影が火花のように散った。


 > 「ぐ……!?

 >  名を得た発見者が……これほどまで――!」


 繋は構え直し、静かに言った。


 「俺の名は“繋”。

  奪われた名を取り返し、

  断たれた縁を戻すための名だ。」


 影がざわめく。

 そのざわめきは恐怖に満ちていた。


――――――――


 戦いながら、繋は後ろにいるリセルに目を向けた。


 彼女の胸の真名はまだ光っている。

 “名を創造する”という異質な力が脈動し続けている。


 だが――その光は少し弱って見えた。


 (……まだ負荷が残ってる。

  俺が早く片付けないと、彼女の“名”が軋む。)


 リセルは繋の視線に気づくと、小さく微笑んだ。


 「大丈夫……!

  今の私は、あなたの名前を呼べるだけで強くなれるんだから。」


 その言葉が、繋の背中を押す。

 胸の奥が熱くなり、世界がより鮮明に色づいた。


 「リセル……ありがとう。」


 繋は影へと向き直り、導標を構えた。


――――――――



 影の記録者が狂ったように叫ぶ。


 > 「名は管理されるべきだ!!

>  勝手な命名は世界の秩序を壊す!!

>  名は枠であり、檻であり、制御装置……

>  自由な名付けなど――存在の反逆だ!!」


 その叫びに、繋は冷たい声で返す。


 「檻じゃねぇよ。

  名は――“生きるための旗”だ。」


 その瞬間、影が全身を膨張させた。


 黒い霧が渦を巻き、無数の顔が浮かび上がる。

 忘れられた者たちの断末魔が重なり合い、空間が軋む。


 綾が息を呑む。


 「……本体が出てきたわね。

  あれはもう、“記録者”じゃなくて……

  ――“忘却そのもの”。」


 影は無数の腕を伸ばし、繋へ一斉に襲いかかる。


――――――――


 繋は身体を低く構え、導標を前に出した。


 「――《名糸術・第一段階》。」


 目に見えない細い光の糸が、導標から放たれる。


 リセルが驚いた声を上げる。


 「糸……? 光の……糸……?」


 綾が説明した。


 「繋の名は“縁を繋ぐ者”。

  その権能は、“対象の存在線ライフラインを視る”こと。」


 繋の視界には、影の身体を走る無数の黒い線が見えていた。

 それらは影の記憶の束、力の根源。


 (あれを断てば……)


 繋は地面を蹴って跳び上がり、空中で導標を振り抜く。


 光の糸が影の中心に向かって突き刺さった。


 > 「が……ああああああああああ!!!!!」


 黒い霧が爆ぜるように散る。


 繋は糸を一気に引き寄せ、叫んだ。


 「――切断!!」


 影の身体を走る一本の黒い線が、光に焼かれるように切れた。


 影が大きく崩れ落ちた。


――――――――


 怒り狂う影が、最後の力で巨大な腕を振り下ろす。


 繋はできる限りの力を込めて、導標を逆手に構えた。


 「リセル、綾さん――下がってください!!」


 繋は影を見据える。


 「終わりだ……影の記録者。」


 影が吠える。


 > 「名の……反逆者が……!!」


 繋は迷わず踏み込み――

 導標に宿る光を、真っ直ぐ影の中心に突き立てた。


 「――繋ぐために。

  そして、断つために。」


 白い光が爆発し、影は音もなく霧散した。


 空間に長い沈黙が訪れた。


――――――――


 繋はゆっくりと振り返る。


 リセルが泣き笑いの顔で駆け寄ってきた。


 「繋……!!」


 その名前が胸にしっかりと響く。

 世界も、それを確かに受け止める。


 繋は笑った。


 「……悪くない名前だ。」


 リセルは涙を拭きながら胸を張る。


 「でしょ?」


 綾も歩いてきて、微笑む。


 「本当に……よくやったわね、繋。」


 その言葉が、まるで祝福の鐘のように響いた。


 こうして、識――いや“繋”としての二度目の人生が確立した。


 だが、その瞬間。


 空間の彼方で――

 新たな黒い光が“点滅”した。


 綾が顔を強張らせる。


 「……次の“忘れられたモノ”が、もう動き始めてる。」


 繋の物語は、まだ始まったばかりだった。

作者の一言

簡単に言えばここで第1章というか序章が終わりです。こっからどんどん続けていこうと思ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ