オーロラプロムナードの守衛室
私たちはあれから特に問題なく、
村から最寄りの街”オーロラプロムナード”に到着した。
名前にある通り、冬にはきれいなオーロラが出現する、
寒冷地方の街の一つとなっている。
私たちが居るのは夏は涼しくて、冬はめちゃくちゃ寒いの。
「なんか、空に大きなものが浮いてるわね……」
「ああ、あれは飛行城塞だな。
ノーザンフロスト所有の城塞だな。」
飛行城塞とは言ってしまえば飛行するギルドの拠点らしい。
小さい物でもちょっとした城が立つくらいの大きさはある。
維持管理が大変で、中小ギルドではまず維持ができない。
「飛空城……」
「飛空城? なんだそれ?」
どっかで見たことあるんだよなぁ……
この世界じゃない、前世のどこかで……
「スノウ村の村長ロバートとアレク、
あとは俺のラルスとアルス、
アレクの娘のサン、ルナ、かなただ」
ロバートさんが門番に一行の名前を伝えている。
アレクというのはお父さんの名前で、
私は三姉妹の末っ子という形になっている。
一番のちびっ子だから、その方が自然に見えるんだよね。
「む? ちょっと待て!」
門番が通り過ぎようとした私を見て引き留めた。
そして、目の前に来ると私の目線に合わせるかのように座った。
「アレク殿、この娘はアレク殿の実子ですか?」
「いや、かなたは双子のこの子たちが産まれた数日後、
森で狩りをしている途中で見つけて保護した子だ。
赤子だったのでうちで引き取ることにした。」
「森で赤子が?」
お父さんの話を聞いて考え込んだ。
まぁ、無理もない話か
普通、赤ちゃんが森で捨てられていたら、
森の魔物に襲われて、まず命はないはず。
「すまないが、この娘はいったんうちで預からせてもらう。
なに、少し話をしたら、あなたの元へ送らせよう。」
なんだろう? 私なんか悪いことした?
そもそも、村を出てここに来るのなんて初めてなんですけど?
通された部屋には、すでに守衛長らしき人が座っていた。
「へぇ、報告を聞いたときはまさかと思っていたが……
お嬢ちゃん、かなたって言っていたね?」
「はい、そうですけど…… 私何かやっちゃいました?」
「お嬢ちゃんは何も悪いことはしてないよ。
お嬢ちゃんは周りの人と違うなって思ったことはないかい?」
「うーん…… 皆に比べるとひときわ小さいってことでしょうか?
あと、髪の毛が白いかな?」
「ああ、そうだね。確かにそんな違いになるのかもね。」
サンやルナは確かに赤い子、青い子だけど、
それは好んできている服の色での話であって、
髪の毛はほかの子と同様に茶髪だ。
村の私の同年代の子は、私も含め今日来ている5人だけだけど、
大人の人たち大体は茶髪か黒髪のどちらかで、
私の様な銀髪はいない。
なので、実は村でも私はかなり浮いていたりする。
「髪の毛に関してはヘアカラーというマジックアイテムを使うことで、
色を変えているといってしまえばいいだけだけし、
体が小さいのは普通に個性として言ってしまえば押し通れるが……」
守衛長さんが私の顔を覗き込んだ。
「やはり、この赤と黄色のオッドアイはまずいな……」
「オッドアイ…… 虹彩異色ってことですか?」
「ああ、君、幼いのに賢いんだね? その通りだよ?
ただ、人族に虹彩異色はあり得ないんだよ。
だいたいは、髪の毛と同じ茶色か黒の色になるんだ。」
「あの…… 人族って何ですか?」
「ああ、人族はそのまま人間族って意味だ。
この世界にはほかに、天族、魔族の2種族が居る。」
「天使と悪魔?」
「まぁ、簡単に言ってしまえばそうなるね。
だけど心配はいらないよ?
天族も魔族も環境に適応しただけの人間族だ。
天と地と地底がまじりあって今の世界になったって、
おとぎ話をしってるかい?」
「はい…… お母さんに読み聞かせしてもらってます。
なんでも、昔はどこまでも続く高い塔で、
三つの世界が通じていたと……」
「そうだね、そして未曽有の大災害が発生したとき、
当時の勇者が尽力を尽くし世界を救った。
その時、塔が崩れ落ちるのと同時に、
三つの世界が一つになった。」
これはよくある昔話での話だった。
私は”俺”の記憶がよみがえる前によく聞いたお話で、
今考えてみれば、なぜかすっごく見たことがあるような気がする。
「その時、活躍していた勇者たちが人族、天族、魔族に機械族だ。
機械族は他の三種族とは異なり代替わりがなかったため、
時の経過とともに消えてしまったとされているね。」
「それって昔あった実話だったりしますか?」
「それは昔のことだからわからないが、
事実としてはこの三種族は今もいるだろ?」
天族や魔族の冒険者など決して珍しいことではない。
うちの村でも依頼という形で、
たびたびその訪問者が来ている。
天族は透き通るような真っ白な翼と大きな輪、そして、輝くような明るい髪色、
魔族は吸い込まれそうな黒い翼と引っ張りたくなる尻尾、
そして燃えるような赤い髪の毛が特徴だ。
天族は類まれなる魔法の才能に特化した、非常に高い魔力を持ち、
魔族は近接戦闘に特化した身体能力を持っていて、
人族は平均的ではあるけど、強みの背中を扱えることにある……
と、この旅の途中でラルスから聞き出していた。
聞いているときは、どっかで聞いたことのあるような設定だなぁと思ったものだ。
「へぇ、お嬢ちゃんもお連れさんもなかなか勉強熱心じゃないか。
ただ、今はもっといろいろな種族の人たちがいるんだよ。」
守衛長の話によると、私が聞いた三種族は人族のカテゴライズされているらしい……
天族と魔族は住んでいた世界に適応してだけというのが理由だとか。
それ以外には、亜人族、獣人族、人成族という者がいるらしい。
亜人族というのはエルフやドワーフなどの、
いかにもって言われる種族たちの総称。
獣人族は猫人族や狼族など、獣の外観を持った種族とのこと。
そして、人成族というのはいわゆる魔物娘や記録から生まれたとされる、
人ならざる存在から人と成った種族だという。
うん、これあれだ……
”俺”だった時にサ終したオンラインゲームの設定だわ……
「そこで、お嬢ちゃんの特徴を見ると、
どうも天族っぽい特徴が出てるんだよ。」
「天族っぽいと言われましても……
私自身、自分の姿がわかってないんですよ。」
「そうか…… 鏡なんて高価なもの、持ち合わせている方が珍しいか……
おい、姿見を持ってこい。」
「え? 姿見があるのですか?」
「ああ、ここでは構えや振りの確認などを行うときに使うんだ。
自分の姿を見ながらの指導は効果が出るからな。」
なるほど、確かに自分の姿を確認出来たら上達も早いよね。
少し待っていると部下の人が姿見を持ってきた。
初めて見る姿見で自分の姿を確認してみると、
そこに写っていたのは8歳くらいの小さな女の子、
髪の毛は真っ白で綺麗。
しかし、胸は年の割には発育がいいのか、
服越しでもしっかりと膨らみがあるのがわかる。
その服が質素なのが残念な気がする。
着飾ったら結構かわいくなりそうだなぁ。
「ほら、自分の目を見てみなさい。」
言われてみて確認してみたところ、確かに赤と黄色の虹彩異色だ。
ただでさえ髪の毛が真っ白で周りから浮いてるのに……
それにしても、私って、どんだけ属性盛ってるんだ?
「背中に翼と環がない以外、お嬢ちゃんの特徴は、
どれも天族の特徴を示しているんだ……」
「あの…… それが何か問題でも?」
「ハーフって言うのは忌み子として迫害されるんだ、
奴隷商に捕まれば、よくて見せ物、悪ければ慰み物にされて一生涯こき使われる。」
「じゃあ、私は生みの両親に忌み子だから捨てられたと?」
「それが事実だとしても、真実とは限らないんじゃないか?」
「そう言えば、私が捨てられてた籠に、このペンダントが一緒に入っていたって聞いたな……」
「そうか…… 君は愛されているんだな。」
「そうですね、私もそうだと思います。」
都合がいい解釈かもしれない、生みの両親が持たせてくれたこのペンダントを、
お父さんとお母さんがずっと持たせてくれていること、
それが、親からの愛なんだなぁって思う。
「ところでお嬢ちゃん…… 本当に10歳か?
落ち着き過ぎてて違和感しかないんだが?」
「私は正真正銘の十才児ですよ。」
但し、中身は44歳で、君たちより年上なんだよなぁ。




