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夜番は男、食事は女の仕事のようです

 馬車での旅は結構長い、

 村の一番近くの街に行くだけでも一週間の道のりで、

 どうしても途中で野営する必要が出てくる。

「俺とロバートで夜番する。

 ラルス君は俺、アルス君はロバートと組んでくれ。」

「私たちは?」

「夜番は体力のある男の仕事だ、

 女のお前たちはおとなしくしてるんだな。」

 アルスお前…… 馬車を降りたとたんに元気になったな……

 たしかに、体力勝負は男性の仕事ってのは納得はできる。

 素直に甘えておくべきだろうけど……

「私たちは簡単な食事の準備でもやっちゃいますか。」

「OK」

「ロバートさん、中身を確認しますね。」

「ああ、よろしく頼む。」

 馬車を軽くするために、荷物はすべてマジックバックに入れてある。

 本来なら大荷物になるため、もっと大掛かりになってしまう。

 軽量化を図るため、この馬車も幌馬車だ。

 魔物がいるのだから、マジックバックがあってもおかしくはないんだけど、

 リアリティのある幌馬車に、魔法的なマジックバックは異質すぎる……

「マジックバックって高価なものなんでしょ?

 なんで三つもあるのよ……」

「ああ、それは父さんと母さんのお古もあるからだな。

 マジックバックは放蕩者冒険者には必需品だからな。

 食料は父さんの物とロバートのバッグに入っている。」

「じゃぁ、お母さんのは?」

「それはお前たちの身支度用品だ……

 女の子は何かと物入りだと母さんが持たせてくれたものだ。」

「そんなの、別に気にしなくていいのになぁ……」

 私はそんなことを呟きながら、食料の在庫を調べていく。

 子供5人に大人2人、一週間分だと一日の量はそうそう多くない。

 私達女子グループはそんなに食が太いわけでもないのでいいのだけど、

 男子2人やお父さん、ロバートさんには物足りないかもしれない。

「それなら、お母さんのバッグも食材を入れてほしかったかなぁ……」

「私ならともかく、かなたの髪は白くてキレイなんだから、

 ちゃんと整えておかないとだめでしょ?

 ほら、髪をまとめちゃうね。」

「あ、うん、おねがーい。」

 お父さんが狩人だから、現地調達してくれることに期待して、

 それに、狩りならサンも手伝えるだろうし。

 今日のところはバッグに入ってないものを消費するか。

 バッグに入ってる食材は、入りきらずに外に出してあるものよりは、

 どういうわけか日持ちする。

「こんなところかな……」

 いろいろあったけど、とりあえずは豆類を中心に塩漬けのお肉を少々手に取った。

 塩漬けのお肉とかは豆類に比べると足が速くて傷みやすいけど、

 旅の後半が豆や穀物のオンパレードになあると、

 モチベーションの低下につながりかねない。

「缶詰なんかあると楽なんだけどなぁ……」

「缶詰? 何それ?」

「あ、ルナ、水の処理は進んでる?」

「うん、ちゃんと濾して煮沸してるところ。」

「ありがとう。」

 川の水を濾してから煮沸するのは、普通にお母さんから教わったことで、

 村ではどの家でも当たり前のようにしている。

”俺”が居た世界ではそれでも不十分で危険なのだけど、

 この世界の住人はその程度ではおなかを壊したりはしない。

 根本的な何かが違うんだろうね。

「ほら、うちでも越冬の為にお肉を瓶詰めして作るじゃない?

 あれを缶にして小型化したような感じの奴。

 まぁ、うちの場合はお父さんが狩人だし、冬もそんなに厳しくないから、

 時々、とれたての獲物が出てきてたけどね。」

「ああ…… たまにブラックベアとかワイルドボアとか狩ってきたりしてたわね……

 あれ、大物だから近所のおすそ分けとかよくしてたわね。」

 ブラックベアとかワイルドボアは実は魔物の類で、

 村の近くにたまに出たりすることがある。

「あれを撲殺できるのって、サンぐらいでしょ……」

「お姉ちゃん、昔からお父さんの狩りを手伝っていてるのもあって、

 本気で隠れると見つけられないんだよね……」

 サンは大自然を遊び場にしてきた怪物だ……

 普段はおおらかで気さくな女の子で、

 村の中でも結構な人気を誇るんだけど。

 本気で怒らせると”とんでもなく怖い”

 さすがは村で唯一、熊を素手でぶっ倒す女だ。

 信じられるか? それで私と腕の太さ同じなんだぜ?

「そう考えると、キミタチ双子は村で結構人気だよね……

 それはそれは、うらやましいこって……」

「一番人気をかっさらってるあんたが何言うか。」

「それはキノセイ。」

「獲物、捕れるかな?」

「お父さんの索敵能力に、サンのとても10歳の女の子とは思えない狩猟能力だよ?

 村の食糧事情を担ってるといっても過言じゃない二人だから。」

 その時、ちょうど獲物を担いだサンとお父さんが戻ってきた。

「やっほー 捕れたて新鮮のお肉だぞー」

「血抜きは済ませたの? 解体まで終わらせてくれると助かるんだけど?」

「血抜きは終わらせてあるよ。解体は今からー」

 慣れた手つきで、サンが狩ってきたワイルドボアの解体を始める

「お姉ちゃん、よくメスなんて見つけてきたね。」

「ルナ、よくわかったね。」

「そりゃぁ、お姉ちゃんと一緒に見てきたから、

 自然とそういうのは覚えちゃうよ。」

「そういう目利きって自然と身についちゃうよね。」

 私はスープの支度を始めた。

 こういう時は、なるべく水洗いが簡単に終わるように調理をしている。

 そのため、どうしても味が質素になってしまう。

 水洗いをするための水の確保も普通に大変だ。

「もっと、味を濃くできないのか?」

「贅沢を言うな…… これを作るのも大変なのよ?

 水の準備だって重たくて大変なのに……

 少しは手伝おうって気にはならないわけ?」

 私は近寄ってきたアルスの注文を一蹴した。

「な…… 俺達には夜番があるんだぜ?」

「それがどうしたっていうのよ?

 私だってお父さんと野営をするときは夜番くらいはやるよ?

 料理の準備に比べれば、なんぼか楽よ……」

「な!」

「それに、今日だってお父さんも夜番でしょ?

 それなのに、狩りをしてきて獲物を狩ってきてるのよ?」

 それ以上はアルスが黙りこくってしまった。

 ありゃぁ…… ちょっと言い過ぎたか?

 もうちょっと手ごたえがある子だと思ったんだけどなぁ……

 私としては、せめて水の運搬ぐらいは手伝ってくれても、

 よかったんじゃないかなとは思うんだけどね……

 アイテムボックスとか収納魔法とかあれば、

 もっと豪勢な食事にしてもよかったんだけどね。

「収納……   なんちゃって……」

 冗談半分で持ってるおたまに収納するような想像をしてみた。

 収納魔法はあるにはある、

 魔力があれば誰だって使える魔法ではあるんだけど、

 これを習得するには相当の努力が必要だと、

 お母さんに聞いたことがある。

 じっさい、うちや村では誰一人使えない。

 しかし、予想に反して、持っていたおたまはきれいさっぱり消えてしまった。

「ぬわぁぁぁぁぁ にぃぃぃぃぃ!」

 私がアルスを言い負かせていたことで注目が集まっていたために、

 とうぜん、このかなたがおたまを収納してしまったことは、

 全員が目撃してしまったことになった。

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