第4話 魔王候補との邂逅と世界の危機
侯爵令嬢エリス・ヴァレンシュタインは、再び処刑日の朝に目を覚ました。
だが、前回までとは異なる冷たい空気が、王都を包んでいた。
――噂によると、北の地に魔王候補が現れ、王国の情勢が不安定になりつつあるという。
「……ふふ、どうやら本格的なハードモードね」
エリスは書斎で情報を整理する。前回の死に戻りで手に入れた裏シナリオを頼りに、今回の戦略を練った。王子の警戒、聖女の嫉妬、そして魔王候補の存在――すべて計算済みだ。
昼下がり、王都の外れの森にて。
エリスはひっそりと、影に潜む人物を見つめていた。
「……魔王候補……本物ね」
目の前には、黒いマントを羽織った青年が立っていた。
その鋭い瞳には、冷たい知性と、底知れぬ力が宿っている。
前回の死に戻りで、彼の攻撃パターンと思考傾向も、ある程度把握済みだ。
「侯爵令嬢エリス・ヴァレンシュタイン……」
魔王候補が低く、響く声で名を呼ぶ。
「君が何度死んでも戻る者だと聞いた。面白い――君となら、戦略的な駆け引きが楽しめそうだ」
エリスは微笑む。
「面白い、ですって? それは光栄ね。でも、ここで死んでしまったら、面白さも台無しよ」
一瞬、緊張が走る。だがエリスは冷静だった。
死に戻りの経験から、彼の攻撃はほぼ読める。わずかな間合いの差で避ける。
そして、反撃は一切しない。心理戦で揺さぶるためだ。
「死に戻りを利用するなら、君は一歩も引けないわね」
魔王候補は笑う。だが、彼の笑みもまた、策略の一部に違いない。
エリスはそれを見抜き、次の行動を決める。
「……私は、ただの悪役令嬢じゃない。王国の未来も、私の手の中にあるの」
彼女は森の小径を駆け抜け、魔王候補の攻撃をかわしながら、王国への脅威を分析する。
死に戻りの知識を使えば、魔王候補の策略も回避できる。
だが、この出会いは単なる戦闘ではない――心理的駆け引き、情報戦、そして互いの力量の探り合い。
夜、侯爵邸の書斎でエリスは独り考える。
「魔王候補は敵……でも、彼の知略は利用できるかもしれない。王国を救うためなら、時には敵を味方に変えることも必要ね」
窓の外に映る月明かり。
エリスの目には決意が宿る。死に戻りの経験が、彼女を単なる悪役令嬢から、世界の運命を操る存在へと変えつつある。
「さあ……次は、王子と聖女、そして魔王候補も巻き込んだ本当のハードモードね」
侯爵令嬢エリス・ヴァレンシュタインの戦いは、個人の生存を超え、王国の未来まで左右する大規模な攻略へと発展していく――。