第3話 聖女と王子、そして運命の駆け引き
侯爵令嬢エリス・ヴァレンシュタインは、今日もまた処刑日の朝に目を覚ました。
――だが、前回の死に戻りで得た情報は、今回は無駄にならない。
「……ふふ、今日は少し華やかに行きましょうか」
広間に入ると、王子と聖女が、いつもの冷たい微笑みで彼女を迎えた。
だがエリスの瞳は鋭い。前回の死に戻りで、王子の心理パターンも、聖女の策略も、ある程度把握している。
「エリス様……今朝は随分と機嫌がよろしいようで」
聖女の声が、毒を含んで囁く。
「おはようございます、聖女様。お互い、今日も素敵な一日を過ごしましょう」
エリスは穏やかに微笑む。
その微笑みに、聖女の眉がわずかに釣り上がったのを、彼女は見逃さない。
――これは、心理戦の始まりだ。
王子は少し困った表情で、書類の束を手に取った。
「侯爵令嬢、昨夜の件について、改めて説明をお願いしたい」
エリスは一歩前に出る。
「王子殿下、誤解を解く機会をいただき、ありがとうございます。実は、手紙に書かれていた内容には、少し事実と異なる点がありまして……」
彼女は冷静に言葉を選び、王子の心を揺さぶる情報を小出しにした。
王子は眉を寄せつつも、疑念を抱く一方で、彼女の論理的な説明に少しずつ心を傾けていく。
その瞬間――廊下の影が動く。暗殺者の接近。
前回は致命傷を避けるため必死だったが、今回は違う。
エリスはあらかじめ仕掛けておいた小さな罠で、影を無力化した。
「……これで、安心ね」
彼女は微笑みながら、王子と聖女に目を向ける。
「さて……聖女様。貴女も、少し考え直した方がいいかもしれませんね。運命は、こちらが握ることもできるのですから」
聖女は一瞬、顔色を変えた。だがすぐに平静を装い、冷たい笑みを返す。
だが、王子の視線は次第に、エリスの方へ向くようになっていた。
――これが、死に戻りを使った初めての心理的攻略だ。
夜、書斎でエリスは独り、戦略を整理する。
「王子はまだ迷っている。聖女は油断している。私に必要なのは……情報とタイミング」
彼女は小さく笑う。死に戻りを繰り返すたび、王国の政治、聖女の陰謀、そして王子の心の動きまで、少しずつ掌握できる。
まさに、ハードモードの攻略を進める感覚。
だが、彼女の胸の奥には別の感情も芽生えつつあった。
――なぜか、王子の純粋さが気になる。
――聖女も、ただの敵ではない。
――この世界の運命は、私一人では決められない――
そして、月明かりの下、エリスは呟く。
「……次の死に戻りでは、もっと大きな秘密に触れるかもしれないわね」
侯爵令嬢エリス・ヴァレンシュタインのハードモード攻略は、心理戦と恋愛駆け引きを絡め、より複雑に動き出した。