第2話 死に戻りで知る裏シナリオ
処刑台の刃が頬をかすめる――その瞬間、エリス・ヴァレンシュタインの世界は再び巻き戻った。
――庭園の朝、処刑日の朝。
「……また……戻ったのね」
エリスは淡々と立ち上がる。前回の経験で、死に戻りのパターンは「死の直前」に強制的に時間が巻き戻ることを学んだ。だが、今回は違った。彼女の頭に、かすかな映像がフラッシュのように浮かんだのだ。
王都の夜、聖女が密かに笑う姿。
王子の書斎で交わされる怪しい取引。
暗殺者の手に握られた毒瓶。
――これは、ただの未来予知ではない。
死に戻りの「報酬」として、世界がエリスにヒントを与えているのだ。
「なるほど……これが裏シナリオか」
エリスは庭の小径を歩きながら、心の中で計算する。
婚約破棄の冤罪、暗殺者の出現、聖女の嫉妬……これらはすべて、表向きの物語の中に隠された「破滅フラグ」だ。
死に戻るたびに、彼女はそれを回避できる情報を得て、次の行動を変えられる。
その夜、侯爵邸の書斎。
エリスは密かに手紙を書いた。
王子殿下
昨日いただいたお手紙の件、誤解があるようです。後日、改めてお話しできれば幸いです。
王子が受け取るタイミングも計算済み。前回の死で、彼が文書を手に取る瞬間に策略が狂ったことを覚えている。今回はそれを避けるための「改善策」だ。
翌日、エリスは侯爵邸の広間で、暗殺者の影を察知する。
前回は避けられなかった一撃も、今回は違う。
「……ここで引き下がるわけにはいかない」
小さく笑い、彼女は廊下を駆け抜ける。
手元には、事前に配置した書類や小道具。死に戻りの情報をもとに、致命傷を避けるためのトラップが仕掛けられている。
――そして、暗殺者が足を踏み入れた瞬間、
仕掛けた小さな転倒装置が作動し、影は廊下に倒れた。
「ふふ、死に戻りの利点、存分に活かすわ」
エリスは冷静に、だが心の奥では高揚感を感じていた。
死に戻りを繰り返すたび、世界の裏シナリオを読み解く彼女は、単なる被害者ではなく、運命を操作する存在に変わっていくのだ。
夜が更け、窓の外に星が瞬く。
エリスは一人、静かに考えた。
「この世界、無理難題だらけ……でも、無理じゃない。死んで学ぶなら、私はこの世界のすべてを攻略できる」
そして、微かな予感――
王国の未来、聖女の秘密、魔王の計略、すべては彼女の手の中に少しずつ収まっていく。
「さあ……次の死も、楽しみにしてあげるわ」
侯爵令嬢エリス・ヴァレンシュタインの、死に戻りによるハードモード攻略は、いよいよ本格的に動き出した。