チャラ男に控えめで清楚な幼馴染をＢＳＳされた、無個性ハーレム男の胸糞悪くならない脳の破壊の仕方
連載作品、「身代わりで島送りにされた令嬢、危険地帯のドラゴンたちを手懐ける」も興味があれば呼んでくれると幸いです。
僕こと、井藤誠人が幼馴染みである早瀬水月の事が好きだと自覚したのは、高校１年の冬に差し掛かったころだ。
自覚自体はしていなかったけど、子供の頃から好きだったと思う。可愛らしい顔立ちも、セミロングのサラサラした黒髪も、華奢な体も、清楚で控えめなところも、ふとした時に見せてくれる優しい笑顔も、水月を構成する何もかもが好きだったんだと、僕は１５年近くかけてようやく自覚した。
そして水月も僕の事が好きなんだと思っていた。だって顔を合わせたら笑って話しかけてくれるし、幼稚園の時から数えれば一緒に遊びに行った回数も数えきれないくらい多い。完全に脈があると、そう思っていたんだ。
だから僕はその内、水月に告白するつもりだった。……いや、水月から告白されるのを待っていたと言った方が正しい。僕から告白する勇気がなかったし、水月も僕の事が好きなんだから遅かれ早かれ恋人同士になれると、そう思い込んでいたんだ。
そんな風に待ちの姿勢を貫いていたのが悪かったんだろうか……今日、僕のスマホに「イエーイ！ 幼馴染み君見てるー？」という文章と一緒に、学校でもチャラ男として有名な大神恭介に肩を抱き寄せられながら、恥ずかしそうに、それでいて心から嬉しそうにしている水月の写真が送られてくることになるだなんて……。
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ウェーイ☆ 幼馴染み君……名前は確か、井藤君っつったっけ？ どーも初めまして！ 井藤君の幼馴染みの水月の彼氏、大神恭介でっす！ どうぞよろしくー♪
急に呼び出してゴメンなー。どーしても井藤君とお話がしたくってさぁ、水月のスマホ借りたんだよ。
ん？ そんなことより、昨日の写真はなんだって？
アハハ！ んなもん見れば分かるっしょ？ さっきの言ったとおり、俺は水月の彼氏なわけ。彼女とラブラブツーショット写真撮っててもなんも不思議じゃないじゃん！
……まずはそこがおかしいって？ 水月が俺みたいなチャラチャラした奴と付き合うわけがない……んー、まぁ言いたいことは分かるぜ？
俺はこんな性格だし？ 髪の毛染めてるしピアス開けてるし？ 今時スカートの丈詰めてないバリバリ優等生の水月と付き合ってるって紹介したら、みんな驚いてたもん。
でもこれがホントのことなんだよねー。その証拠に写真送ったっしょ？
こんな写真は合成？ いやいや、幾ら俺でも偽物の写真使って周りの男を牽制するほど落ちぶれてねーって。
それでも疑うなら、水月の友達とかに聞いてみなよ。みーんな俺たちが付き合ってること知ってるからさ。
……それじゃあ嫌がる水月を脅して無理矢理付き合い始めたって？ どんな汚い手を使ったのか知らないけど、水月を解放しろ？ 俺みたいな下種に水月は相応しくない？
ちょいちょい、俺ってばどんだけ低く見られてんの？ 流石の俺も傷つくわー。
でもさぁ……告白してきたのは水月の方からなんだよね。
うおっ！？ ビックリした……急に大声出すなよなぁ。 嘘じゃねーよ。ホントのホント。ホントと書いてマジ。
そりゃ、俺も驚いたよ？ まさか水月の方から告ってくるなんて思わなかったし、そもそも水月のタイプが俺みたいなのとは思わなかったしさー。正直、水月のタイプは井藤君みたいな大人しそーな奴だと思ってたから。
なんで水月が俺の事が好きになったかって？ まぁそこには色々とあったわけですよ。
ほら、水月って去年の今頃に車に轢かれそうになったじゃん？ そん時に偶然居合わせた俺がこう、華麗に助けたわけ。
あれ？ 水月が事故りかけたの知らなったの？ ……まぁ他人に言いふらしたいような事でもないか。水月の性格を考えたら、周りに心配とか掛けたくないだろーし。
で、話を戻すんだけど……そこから進学先の高校にこれまた偶然俺も居て、色々あって仲良くなって一緒に遊んだりするようになって、夏休みに告られて今に至るってわけ。
いやー、助けたのを切っ掛けに仲良くなって付き合うようになるとか、こんなドラマみたいな展開、現実でもあるのな。
え？ 水月が俺なんかのどこを好きになったかって？ チャラくて如何にも遊んでますって感じの俺を、水月が選ぶはずがない？
んー……自分の事を褒めるのはナルシストっぽくて嫌なんだけど、水月は俺の事を困ったところもあるけど、男らしくて、しっかりしてて、一緒に居ると楽しいところが好きになったって言ってたなぁ。
どこをどう見たらそう見えるんだって？ アハハハ！ それよく言われる！ 確かに見た目だけならそう見られても仕方ないっすわ！
でもあんまり見縊られても困るなー。こう見えて俺は将来の事をそれなりに考えてるし、恋愛には一途なんだぜ？
しかも水月って超可愛いじゃん？ 性格もメッチャ良いし。しかも何時まで経っても初心で恥ずかしがりなとことか、俺のストライクゾーンど真ん中！ こりゃもう、他の女に目移りとか出来なくなるって。誰を見ても水月より下にしか見えねーもん。
俺に告白してきた時も顔真っ赤にして必死な感じが可愛かったなー。「不束者ですがよろしくお願いします！」って言ってさ。こんな可愛い女見た事ねーって思ったもん。
ごめんごめん、そんなに怒るなって。つい惚気ちゃって悪かったよ。
でも自分の女との事は思わず惚気たくなっちゃう男心、井藤君も同じ男なら分かるっしょ？ ……え？ 分からない？ 男なら黙って態度で示すもの？
はぁ～……井藤くーん、その考え方はよくないよ？ 恥ずかしがって女を褒められない奴の言い訳にしか聞こえないし、彼女を褒める時はちゃんと言葉と態度の両方で表さなくっちゃ。
エスパーじゃないんだから、以心伝心なんて曖昧なものに頼ってたら、いつか彼女が出来た時にケンカの火種になるし、気を付けた方がいいんじゃない？
え？ 俺に言われたくない？ 他の誰でもない、井藤君の好きな子を奪っておいてって？
あー……やっぱり井藤君、水月の事が好きだったんだ。まぁ何となくそう思ってたよ？ 昨日水月に変なラインばっかり送ってくるから、そうじゃないかって思ってたんだ。
そん時俺らはデート中だったのに、「今度予定開いてる？」とか、「今度一緒に遊びに行かない？」とか、それはもうしつこく。
でさ、今日呼び出したのはまさにその事についてなわけ。水月はあの通り優しい子だし、昔からのオトモダチに強く言えないから、ここは彼氏の俺がビシッと言ってやろうと思ってさ。
いい加減水月にしつこく絡むの止めてもらっていい？ マジでＫＹっつーか……ぶっちゃけ邪魔なんだわ。
なんで俺にそんなこと言われなきゃいけないんだって？ いやいや、言いたくもなるっしょ？ だって折角のデート中にしつこく他の男が俺の彼女をデートに誘ってくるんだよ？ いくら知らなかったからって、水月もやんわり断ってるのに、そこから更にしつこく「じゃあ何時ならいい？」「その予定キャンセルできない？」ってラインしてきてさー。
まぁちゃんと付き合ってるって言い忘れてたから、井藤君ばかりを責められないんだけど……さっき説明したとおり、俺と水月は付き合ってるわけだからさ。これからは空気を読んで、水月への連絡は控えてくれな。
……え？ 嫌なの？ 水月の事を諦めきれない？
しかも俺と水月が付き合ってるのはやっぱり嘘に決まってるって？ 昨日の写真だって、ただ俺が水月の肩を抱き寄せてるだけだから、俺らが付き合ってる決定的な証拠にはなってない？
えぇー……その話を蒸し返すの？ どうやったら信じてくれるかなー……。
……そうだ。別の写真見たら井藤君も信じるっしょ。
俺って何でも写真に残しちゃうタイプでさー。インスタとかＳＮＳとかには載せてないんだけど、水月との写真は一杯撮ってんの。
中にはちょっと他の野郎にはお見せできない、水月の恥ずかしー写真もあってさぁ……その中から、別に見せても大丈夫かなって奴を、井藤君に特別に見せてあげるね。
じゃーん！ 本邦初公開、初めてのキスシーンでーす♪
正確には、初めてキスした後にそのままディープに移行した時の写真な。
ほら、舌をねっとり絡め合って、口の端から涎垂れてんのが分かるっしょ？ 最初はちょっと唇同士で触れあうくらいだったんだけど、雰囲気に流されてそのまま……って感じで。
これを見たら流石の井藤君も俺らが付き合ってるって信じるしかないでしょ。
ちなみに、先に求めてきたのは水月の方からだから。
驚いた？ まぁ水月は自分からこういう事を求めてくるキャラじゃないしなー。
それにしても、あの時の水月はマジ可愛かったなぁ。顔真っ赤にして目ぇトロンってさせてて……俺の部屋に二人っきりってのもあって、超いい雰囲気になったの。
で、そんなシチュエーションになったら……もうやること決まってるじゃん。
何と俺、水月と一線、越えちゃいましたー♪
もうなるようになったって言うか？ あんな可愛い彼女見せられて我慢できる訳ねーじゃん？
超ハッスルしちまってよ、気が付いたら朝になってて、腕ん中で寝てる水月見た時は「こいつはもう一生大事にする」って思ったね。
……あれ？ どうしたの井藤君？ そんな泣きそうな顔しちゃってさ。
ま、これでいい加減分かったっしょ？ 俺と水月はお互い好きピ同士のラブラブなわけ。そこに水差して馬に蹴飛ばされるのは止めようぜ？
……どうしてよりによって水月なのか？ これから井藤君が告白しようとしたのに、どうして横から攫うみたいな真似をしたのかって？
いや、そんなん知らねーから。さっきも言ったけど、告白してきたのは水月の方だし、そもそもこういう色恋沙汰って早い者勝ちで、本人の気持ち次第なところあるじゃん。ノロノロしてた井藤君が悪くね？
水月と同じよーに軽音部に入って一緒の時間いっぱい作ったりとかさぁ、そう言うの全然してこなかったじゃん。自分のアプローチ不足を俺のせいみたいに言われても……。
え？ 水月が軽音部に入ったの、知らなかったの？ 中学三年間ずっと女子テニス部で、そんな軽薄そうな部活に入ってるなんて知らなかった？
えー、井藤君酷ー。水月が毎日頑張ってる部活を軽薄とかさー、音楽にキセン……って言うの？ そう言うのはないもんなんだぜ？
まぁ俺と一緒に居たいからって、俺と同じ軽音部に入ったんだから、動機が軽かったのは本当の事か！ アハハハ♪
そうなんだよ！ 中学の時から俺のことがずっと気になってたみたいでさぁ！ 俺が高校で軽音部入ってるって知ったら、俺と一緒にいたいからって軽音部に入ったの。
水月は「自分が重たい女」みたいに思われるのが嫌で黙ってたんだけど、俺は全然オールオーケーのウェルカム！ ああいういじらしいトコも可愛いっていうか、これ言ったら脳味噌お花畑ってよくバンドメンバーに言われんだわ！
……つーことは、水月が今ガールズバンド組んで、ネットで結構バズってるって知らない系？
マジだよ、マジ。言ったっしょ？ 水月部活ガンバってるって。真面目な奴だからさ、入部の動機がアレでも、一度始めたことは本気でやってんの。
俺に一途なのに恥ずかしがりで素直に甘えられないとこも可愛いけど、音楽に真剣なところもサイコーなんだよなぁ。マジで気が合うっつーか。
そんなことも知らないって……それでよく水月のことが好きって言えたよなぁ。
ちなみに俺のおかげで音楽に出会えたって、毎日楽しそうにしてるぜ？ 部活に恋愛に、これぞジュージツしたセーシュンってやつだよな♪
……でもまぁ、井藤君がこのこと知らなくて当たり前かも。井藤君はメチャ忙しそうだったし。
知られてないと思った？ 井藤君が色んな女子と遊んでるの。しかも可愛い子ばっかりと。
まぁどいつも水月ほどじゃないけどな♪ 可愛いって評判の女子集めて、井藤君がハーレム作ってるって有名だよ？
正直、男子の間じゃメチャ評判悪いからねー、井藤君。見るからに陰キャっぽくて付き合い悪いのに女癖まで悪いって。実際、男友達とか一人もいないっしょ？
彼女たちはそんなんじゃない？ いやいや、嘘は良くないよ井藤くーん。腕組んだり抱き着かれたり、毎日色んな女とイチャついてたじゃーん。男でも嫉妬とかするからさー。ああいうの見せられたら、そりゃ反感買うって。
あー……でも今はもうそんなに忙しくないか。井藤君、仲良くしてた女子皆からフラれちゃったみたいだし。
これも学校じゃ有名だよ。井藤君が何時までもハッキリしない態度だから、みーんな愛想が尽きちゃって、離れちゃったんだよね？
俺のダチとか「井藤ざまぁ」とか笑ってたっけ（草）。可愛い子が一斉にフリーになったから、学校中の男子がアプローチ掛けてて、中にはもう付き合い出したってのもいるって聞いたなぁ。
……そー言えば、その少し後くらいからだっけ？ 井藤君が水月にライン爆撃してくるようになったの。
水月も「高校入ってから付き合いが増えて、連絡してくる回数減った」って言ってたのに、不思議に思ってたんだよねぇ。
もしかしてアレ？ 今までは沢山女の子が近くにいてより取り見取りだったけど、皆一斉に離れて行って、慌てて水月を確保したかって……そういう感じ？
あ、黙り込んだ。うーわ！ マジかよ井藤君！ サイテーじゃーん！
そっかそっかぁ、そういう感じだったかぁ……そんじゃあ、ますます井藤君に水月は渡せねーなぁ。
カノジョを守んのもカレシの役目ってな。ばっちぃ井藤君が近付いたら、ピュアな水月まで汚れるから、もう水月と関わんないでね。エンガチョッ！
うん？ 俺に言われたくない？ このまま俺と付き合い続けても、どうせ最後には水月が不幸になるに決まってる？ 俺みたいなチャラくて三流臭いバンドマン、将来水月に苦労を掛け捲るだけ？
……もしかして井藤君、正月にテレビ見たり、スマホのネットニュースとか見ないタイプ？ いや、それ自体は別に悪くねーんだけどさ。
俺、今年の紅白にも出てるプロミュージシャンなんですけど？
錯乱坊主っていうバンドのギタボで、割とデカい事務所に所属してんの。
これでも世間じゃ、天才ミュージシャンって騒がれてて、来年の紅白にもオファー来てんだけどなぁ。俺の知名度もまだまだってことかー。
ま、そういうわけでさ。これでもケーザイ的に水月に苦労させない自信っつの？ そう言うのもちゃんとあって、水月の親父さんとお袋さん公認の仲なんだわ。
井藤君が心配するよ―な事なんて、これっぽっちもねーの？ 分かる？
ちなみに、水月は井藤君の事、友達以上には見れないんだって。むしろ高校に入ってから色んな子と遊ぶようになってからの井藤君は、近寄りがたくなったってさ。
おっと、そろそろ水月と待ち合わせの時間だ。今日もこれからデートなんだよ♪
じゃ、俺そろそろ行くよ。井藤君もさ、もーちょいセージツさってのを身に付けねーと、将来後悔するから気を付けろよ！
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それから十数年後、高校でも大学でも就職先でも人間関係が上手くいかず、すっかりとくたびれた無職の中年となった僕は、ふとネットニュースに上がっていた画像を目にした。
日本を代表するミュージシャンと、その家族の画像だ。そこには沢山の子供たちの姿と、その中央には派手な格好をした若々しい男、そしてその男に抱き寄せられた、清楚で可憐な女性の姿が映し出されている。
幼い頃から十年近く共に過ごしてきたその姿を僕が見間違えるはずもない。その女性……水月は、少女の殻を破り捨てて、見事に美しい女性の姿への羽化を果たし、あの日屋上で僕に残酷な現実を突きつけた先輩に寄り添いながら、控えめだけど心の底から幸せそうな微笑みを浮かべていた。
