金魚の店
「お揃いなんだね」
ボウリングからの帰り。電車に揺られながら、俺は口を開く。
「ああ、これ? 涼太がくれたの。学校につけていけないから、休みの日だけつけてるんだ」
隣に座る塚田さんは手を掲げ、嬉しそうに言った。窓から入ってくる光に照らされたガラスは、透き通った水のようだ。その中に、真っ赤な金魚が泳いでいるのが見えた。
「小赤だね」
思わず、口が動く。
「こあか……?」
「その金魚だよ。小さい赤で、小赤。和金の稚魚で、金魚すくいによくいるやつ」
「へえ」
塚田さんはガラスの中の金魚をじっと見つめた。
「幸大くん、詳しいんだね。金魚」
「まあね。塚田さんも、金魚好きなの?」
「うん、好きだよ。種類とかは、全然分かんないんだけど。でも、やっぱこの子が好きだな。小赤ちゃん」
塚田さんは、金魚を可愛がるように指輪をなでた。
「小学生のころ、よく涼太と金魚すくいしてたんだ。近所の雑貨屋さんみたいなお店で、やらせてもらえて」
そう言われたそのとき、脳裏に小さいころの記憶がよぎった。
「その店、知ってるかも」
思わずつぶやくと、塚田さんはのめりで目を輝かせた。
「え、知ってる? なんか、すごく古風な、金魚ばっかりの」
「不愛想なじいさんの?」
「そう!」
塚田さんは、今にも立ち上がりそうなほど興奮した様子で、大きくうなずいた。
——じいちゃん……。
間違いない。じいちゃんの店だ。
たくさんの金魚がいた。汚らしい店だったけど、店中に飾られた金魚たちはいつだって輝いていた。
「なんか、嬉しいな。もうなくなっちゃったから、なんか、わたしと涼太の記憶の中にしか存在しない気がしちゃってて」
塚田さんが、懐かしそうに遠くを見つめる。
「存在してたよ」
俺も遠くを見るようにして、言った。
「ちゃんとあったよ。俺も、大好きだったんだ」
目を閉じる。記憶の中のじいちゃんは、やっぱり笑わない。だけど手を伸ばし、俺の頭をくしゃくしゃとなでてくれた。
目を開けると、柔らかな日差しが視界を包み込む。塚田さんは俺に微笑んでから、ペットボトルを取り出してごくっと水を飲んだ。
姿勢がいいから、その様子だけで様になる。
「塚田さんは、金魚みたいだね」
そう言うと、塚田さんは首をかしげながら、ペットボトルの蓋を閉めた。
「変なこと言うね。わたし、そんな小柄じゃないよ?」
「サイズ感じゃないよ」
「じゃあ、なんで?」
俺は顎に手を当てる。
——そう聞かれると、困る。
特に理由があったわけじゃない。ふとそう思ったから、言ったのだ。
しばらく考えてから、思いついたものを言ってみる。
「水がよく似合うから」
塚田さんはパチクリと瞬きをし、ははは、と笑う。
「何それ。意味わかんない」
きっと冗談と受け取られたかもしれない。でも、本気でそう思った。
透明でひんやりとした水は、塚田さんを連想させる。彼女の爽やかさや凛としたふるまい、混じり気のない真っすぐな言葉、ほのかに香る甘い匂い。
なんとなく、塚田さんを思い出す。
——ああ、そうか。
最初に話しかけてくれた、あの日。告白をしてくれた、あの日。どっちも、雨が降っていた。
どんよりとした雨の空気も、彼女が笑うだけで輝く光の粒になる。
——水というか、雨が似合うんだ。
「水が似合うのは、幸大くんの方でしょう? いつもプールにいるんだから」
「ああ、たしかに」
「でも、金魚ではないね。そうだな……イルカ、かな」
「なんで?」
「んー、なんでも!」
塚田さんは笑う。よく分からないまま、釣られて俺も笑った。




