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あの雨に届かなかった僕たちは。  作者: 雀野ヒナ
【幸大 side ③】
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欲しかった言葉

 風呂上り。スマホから、滅多にならない音が鳴った。通話だ。

 スマホを手に取り、画面を見る。五十嵐さんからだった。


 正直取るか迷った。五十嵐さんとは、塚田さんや涼太、山本のように、特別に仲が良いというわけではないからだ。

 三コール目で、意を決して出ることにした。特別に仲良くはない。でも、仲良くなりたいとは思う。


「もしもし」

「よっ、寺坂くん」

「珍しい、電話なんて」

「寺坂くんと二人で話す機会、あんまないしさ。なんか今、話しておきたかったんだよね」

「大事な話?」

「大事ではない。ただ、わたしが話したかっただけ」


 返事に困ってモゴモゴしていると、五十嵐さんは続けた。


「みーちゃんと和解したらしいじゃん」

「和解っていうか、まあ、そうだね」

「わたしとしては、もっと早くそうして欲しかったけども。まあでも、ありがとう」

「ありがとうって、何が?」

「みーちゃんを解放してくれて、ありがとう」


 俺は、塚田さんと五十嵐さんの関係をそれほど知らない。それでも、彼女が異常なくらい塚田さんを大切にしているのは、薄々感じていた。


「それが言いたかったの?」

「そう。これが言いたかったの」


 だが、だからと言って電話をしてくるなんて、不思議な人だ。


「これで、あとはあの二人を見守るだけですな」


 五十嵐さんは、使命感を持ったような口ぶりで、そんなことを言う。


「二人、付き合うと思う?」


 俺は、五十嵐さんが俺と同じように考えているのか、確かめたくなった。


「すぐには難しいんじゃないかな。でもいつか、必ず二人は結ばれると思う。ずっと前から、そう思ってる」

「そうだな、俺もそう思う」


 少し、無言になる。電話でのこういう時間は、正直苦手だ。


「寺坂くんは……これでよかったの?」

「よかったって?」

「この前、“覚悟"が何とかって言ってたから」

「ああ。失恋の覚悟、か」

「そう、それ」

「もういいんだ。あんなにお似合いな二人、他に知らないから」

「うん、そうだよね。やっぱり、付き合うべきだよね。あの二人は」

「……五十嵐さんは、それでいいの?」


 俺の勘が正しいならば、五十嵐さんの立場は俺と同じなはずだ。

 少し間が空いて、それから五十嵐さんは答えた。


「いいの。……告白するチャンス、あったんだけどね。でも、やめた」

「後悔しない?」

「しない。わたしは過去の自分には後悔しても、今の自分には絶対に後悔しないよ」


 強いな、と思った。

 俺はまだ、後悔がないとは言い切れない。俺にはまだ、俺のためにやらなきゃいけないことがある。


「俺も、そういう風になれるかな。後悔しないような選択、できるかな」


 気づいたら、口にしていた。しまった、と思った。


「ごめん。なんでもな……」

「なれるよ」


 五十嵐さんは、俺の言葉を遮って言う。


「寺坂くんなら、できるよ。絶対に」


 "絶対できる"なんて、根拠のない言葉だ。無責任な言葉だ。塚田さんや涼太なら、きっと言わない。

 でも、それが今、一番欲しかった言葉だ。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 電話越しでも分かる。きっと今、五十嵐さんは笑っている。

 訂正しよう。五十嵐さんも、俺の特別な友達だ。

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