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あの雨に届かなかった僕たちは。  作者: 雀野ヒナ
【紗月 side ③】
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気持ちを伝えること

 部活のミーティングを終えてチームメイトと外に出る。まだ五時過ぎだけど、もう外は暗い。秋の深まりを感じる。

 歩道に出ると、少し遠くに知っている後ろ姿を見つけた。いつもなら話しかけに行くことはしない。だけど今日は、なんだか彼のことを知りたくなった。

 私はチームメイトに手を振って、彼の隣へと駆けて行く。


「てーらさーかくん、発見!」


 寺坂くんは横を見て、それから目線を下げた。


「あからさまに目線下げるのやめてくれる?」

「ごめん。俺、基本男子としか話さないからこの目線に慣れちゃって」

「まあ、男子と比べたらね、それはしょうがない。許そう」


 寺坂くんは表情を変えない。小さい女の子が自虐で笑わせようとしたのだ。ちょっとは笑ってくれてもいいのに。


「今日はいつもより早いのね」

「自主練だったから、早く上がってきた。五十嵐さんも早いね」

「うちは、今日はミーティングだけだったんだ。大会終わったばっかだから、反省会してたの」

「そうなんだ」


 寺坂くんは素っ気なく返事をして、それからは特に何も言わなかった。黙ったまま、けれど歩幅を合わせて歩いてくれる。

 最初は無愛想で嫌な人だと思ってた。でも、関わっていく中でそうじゃないと知った。無愛想だけど、いい人だ。


「体調でも悪いの? 寺坂くん、自主練とかでも最後まで残ってるタイプだと思ってたんだけど」

「いや、どこも悪くないよ。ただ今日は、なんだか早く帰りたい気分だったんだ」

「なんとなく?」

「そう、なんとなく」

「そっか」


 また会話が途切れる。そういえば、寺坂くんと二人きりで話すことなんてほとんどなかった。

 みーちゃんや飛田くんは、この人と何を話してあんなに笑い合うのだろう。不思議だ。


「ああ。でも、そしたら塚田さんと会えないのか」


 唐突に寺坂くんからみーちゃんの話が出て、少し驚いた。


「会いたかったの?」

「まあ、会いたかったと言えば、会いたかったかな」


 なるほど。どうりでみーちゃんは寺坂くんを諦められないわけだ。本人は、無意識なんだろうか。


「寺坂くん、みーちゃんのことすごく好きだよね」

「……なんでそう思うの?」

「だって、みーちゃんと話してるとき、楽しそうだし。みーちゃんと会いたいとか話したいとか、思ってるみたいだし」

「でも俺、塚田さんと手をつなぎたいとか、付き合いたいとか、そういうのは思わないんだ」

「"好き"って恋愛感情だけじゃないでしょう?」

「……まあ、そうか」

「私はね、みーちゃんのこと大好きなの。でもね、それは恋愛感情じゃない。分かるでしょ。寺坂くんも、同じなはずだから」


 寺坂くんは、少し考えるようにして、それから口を開いた。


「そうか。俺は、塚田さんのことが好きなんだ」

「やっぱり気づいてなかったの?」

「いや。気づいてたよ」


――気づいてた? じゃあなんだ、その反応は。


 わたしがよっぽど不思議そうな顔をしていたのだろう。寺坂くんは私の顔を見て、珍しく自ら言葉を補い始めた。


「でもそれを口に出していいと思ってなかった。恋愛感情じゃない"好き"を、言っていいと思ってなかった。その"好き"は、塚田さんを悲しませるものだと思ってた」


 まあ、分からないでもない。確かに納得できない説明ではない。でもその態度がみーちゃんを苦しめてると、この人は分かっているんだろうか。


「確かに、好きな人に"友達として"好きって言われるのは、少し辛いことかもしれない。だけど、曖昧なのよりはマシだと思うよ。何を思ってるんだろう、どう思われてるんだろうって、そう思ってる限り、その人のことで頭がいっぱいになっちゃうんだから」

「……そうかもね」


 寺坂くんはどこか申し訳なさそうに呟いた。


「でも、分かるよ。気持ちを伝えるのって、難しいよね」

「……うん、難しい。それなのに、塚田さんはそれを何度でもしてくれている。だから、俺は塚田さんと向き合わなきゃいけないんだと思ってる」

「分かってんじゃん」

「うん、分かってんだよ。分かってんだ。ただちょっと、覚悟がなくてさ」

「何の覚悟?」

「……失恋する覚悟」


——失恋? 寺坂くんが?


「何それ。意味わかんない」

「いいよ、分かんなくて」


 彼は苦笑した。

 よく分からない。けど、考えるのも面倒だ。寺坂くんがいいっていうんだから、きっと分からない方がいいんだろう。

 わたしたちは無言で歩く。けれど、チラチラと視線を感じる。


「ねえ、言いたいことあるなら言って。視線、気になる」

「ああ、ごめん」


 寺坂くんは目を逸らして、けれど思い直したようにまたこちらを見た。


「五十嵐さんもさ、自分の気持ちと向き合ってもいいんじゃない?」

「自分の気持ち?」

「涼太のことだよ」


――なんだ。寺坂くん、そういうの鈍感なんじゃないんだ。


「……さあ、なんのことかな」


 わたしはとぼけて見せる。寺坂くんはそれ以上、何も言わなかった。

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