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あの雨に届かなかった僕たちは。  作者: 雀野ヒナ
【紗月 side ③】
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好きになる権利

 昼休み、いつものように五組のベランダに出ると、みーちゃんは教室に背を向けるようにして座り込んでいた。わたしは、その隣に腰を下ろす。

 みーちゃんはわたしに気づいても、何も言わずにじっと座っていた。


「飛田くんと、仲直りはしたの?」

「……別に、喧嘩してないよ」

「どうせまた、友達だとかなんとか言ってはぐらかしたんでしょ」

「……今回は、うまくできなかったかな」

「じゃあ、振ったの?」

「うーん。はっきりとは言ってないけど……たぶん、振ったかな」

「わたしにはさ。なんでみーちゃんが飛田くんを好きにならないのか、分かんないんだよね」

「何それ。紗月ちゃんだって、涼太のこと好きにならないんでしょ? 一緒じゃん」

「分かってないなあ。そうじゃなくて、“みーちゃんが”って話をしてるの」

「どういうこと?」


 みーちゃんは分かってない。みーちゃんから見る飛田くんと、わたしから見る飛田くん。「涼太」と「りょうくん」は、全然違う。


「だってさ。あんなにイケメンで、一途で、みーちゃんと気も合うし。あそこまで想われたら、普通は好きになるでしょ。そこまで寺坂くんに固執する理由も、飛田くんと“友達”でいようとする理由も、わたしには分かんない」

「固執、か」


 みーちゃんは苦笑いを浮かべる。


「確かに、ここまでくると固執かもね。なんで幸大くんなんだろう」

「みーちゃん的に、恋愛対象としてナシなの? 飛田くんは」

「恋愛対象……そういう風に見たことないから、分かんない」

「じゃあ、見たら? 今、恋愛対象として考えてみたら、どう?」

「できないよ。だって、わたしは幸大くんが好きだから」


 即答だった。そんなに寺坂くんが好きなのか。

 みーちゃんのその一途さも、真っすぐさも、わたしは好きだ。だけどそれが今は、彼女を縛りつけている。


「そっか。じゃあまずは、そこを解決しないとだね」

「わたしと幸大くんの恋を応援する、って選択肢はないの?」

「うん。もうない」

「ひどいなあ」

「だって、寺坂くんにはみーちゃんを幸せにできないもん」

「……まあ、そうかもね」


 意外にも、みーちゃんはすんなり認めた。それが分かってて、どうして、寺坂くんじゃなきゃいけないんだろう。

 みーちゃんは立ち上がり、手すりの方へ何歩か進む。わたしもその隣に並ぶ。


「寺坂くんのこと、きっぱり吹っ切れたら、飛田くんに行ける?」

「うーん……それでも、好きにはならないかな」

「なんで?」

「涼太を、そういう風に見たくないから」


 いつもそうだ。みーちゃんは、飛田くんのことをそう語る。


「今の関係が崩れちゃうから、とか?」

「まあ、そんな感じ」

「ふーん……」


 横を見ると、みーちゃんはプールの方をじっと見ていた。


「最近、昼練見てないな」


 どこまでも寺坂くんだ。意識的に、寺坂くんしか見ないようにしているんだ。


「みーちゃんと飛田くんの絆は、そんな簡単に壊れるもんじゃないと思うよ」

「なんでそんなに涼太を推してくるの?」


 みーちゃんは不思議そうに、少しだけ首を傾げた。嫌そうではなく、ただ純粋な疑問として。


「みーちゃんに、幸せになってほしいからだよ」

「うーん……まあ、そっか」


 みーちゃんは、納得したようなしていないような、曖昧な顔で笑った。


「そういう紗月ちゃんは、涼太を好きにはならないの?」

「ならないよ」


 そう答えたと同時に、教室の窓から予鈴が聞こえた。


「もう戻らなきゃ。じゃあね」

「うん、じゃあね。また明日」


――好きにならないの、か。


 さすがみーちゃん、痛いところを突いてくる。

 普通なら、好きになるに決まってる。あんなにかっこよくて、優しくて、一途な男の子。小さいころ、わたしを守ってくれた男の子。好きにならないわけがない。


 だけど、わたしは好きにならない。好きになっちゃいけない。

 わたしは、飛田くんのことも、飛田くんの“好きな人”のことも、傷つけた人間だ。そんなわたしに彼を好きになる権利なんて、あるわけがない。

 それでも、願ってしまう。みーちゃんに幸せになってほしいのに。二人に、仲良くしてほしいのに。

 心の、どこかで。


――明日も雨、降らないといいな。

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