おかしくないよ
部活帰り、改札を入って山本と別れた俺は、のんびりと階段を降りる。
ホームが見えてくると、すでに電車が停まっていた。
「やべ」
急いで階段を駆け降り、なんとか電車に滑り込む。間に合った。
車内はガラガラだ。
一番近くの席に座ろうとした。そのとき、視界に見覚えのある顔が飛び込んでくる。
「ふうっ。間に合った」
「あ」
塚田さんだった。
「あ」
固まる塚田さん。その後ろで、ドアが閉まった。
俺は下げかけた腰を持ち上げた。
電車が動き出す。彼女は固まっていた表情を和らげ、爽やかな笑顔を作った。
「お疲れさま」
「……お疲れ」
「横、座っていい?」
「ああ……うん、いいよ」
「ありがとう」
彼女は、俺の左隣にゆっくりと腰を下ろした。俺も下ろし損ねた腰を静かに下ろす。
彼女と二人きりで話すのは、あの祭りの夜以来だった。
塚田さんはスマホを手に取り視線を落としたが、すぐにカバンの中へしまった。何もせず、ただ前を見ている。
俺も同じように、向かいの窓から見える外を眺めていた。
「二回目だね」
「……ん?」
「部活後に偶然会うの、二回目だね」
「ああ、そうだね」
「部活、大変?」
「まあ、それなりに。テニス部は?」
「こっちもそれなりかなあ」
話が途切れる。また向かいの窓の方を見る彼女は、どこか楽しそうで嬉しそうだった。
「塚田さんは……」
口を開いたものの、すぐに言葉が続かなかった。
「何?」
塚田さんは不思議そうに顔を覗き込む。その優しい目に覗き込まれると、なぜだか詰まっていた言葉が自然に出て来てしまう。
「……塚田さんは、俺が涼太を好きだと知っても、引かないんだね」
「どうして引くの?」
彼女は、心底不思議そうに首を傾げた。
「だっておかしいでしょ。男が男を好きなんて」
彼女は目を丸くした。そんなこと考えもしなかったと言うように。
「どうして?」
「どうしてって……」
「おかしくないよ」
塚田さんはまっすぐな目で俺を見つめる。
「全然おかしくない。好きになった相手が、たまたま男の子だっただけ。それの何がおかしいの」
そうでしょ? と言わんばかりに、塚田さんは微笑む。
「その……キモいとか思わないわけ?」
「思わないよ。幸大くんは、いつだってカッコいいよ」
そうだ。彼女はあの頃からそういう人だった。偏見も差別もまるでない。
「……普通はこういうの、少しはびっくりするんだと思うよ」
「じゃあ、わたしは普通じゃないんだよ。きっと」
塚田さんは淡々と言う。
「っていうか、わたしの好きな人のこと、それ以上悪く言ったら許さないんだから」
そう言って、彼女はおどけるように笑った。
「幸大くんは、おかしくないよ」
初めてだった。俺の”好き”が、肯定されたのは。俺はおかしくないって、言ってくれた人は。
「……ありがとう」
俺は泣きそうになるのを必死に堪える。彼女は、俺の顔を見ないようにしてくれた。
やっぱり塚田さんは、変な人だ。変で、まっすぐで――とても優しい人だ。




