ロール国女王
マシュマロ大陸と呼ばれる大陸には五つの国が存在していた。ロール国、モンブラン国、シャーベット帝国、キルシュトルテ小国、チュロス共和国。それ等の国の一つ、ロール国。西にあり、比較的平和な国だ。
さて、そんな国の中心に立つ城は今日も騒がしい。
城内の一室…俗にいう執務室の机には目を逸らしたいほどの白い紙の束がこれでもかと積まれている。その正面にはストロベリー
ブロンドの髪の女性が座っている。美しいがその顔は現在苦悶に
歪められている。
「ほんとにこの量を終えなきゃなんないの?!」
「今まで女王が溜め込んだ仕事ですよ。まだこれでもほんの一部です」
女王と呼ばれた女性。彼女こそロール国の主、アリーア•ロール•シャノンである。彼女に苦言を申しているのは執事のグレイスだ。
ネイビーの髪をひとつ結びにしている。
「うっ…そ、それは自業自得なんだけどさ。これでも一部ってどのくらいあるわけ?」
「聞きたいですか?」
「イエ、ダイジョウブデス…」
これ以上何を言っても、目を閉じても書類の束は減ることはないと理解したのか、頂点の紙を取り、黙々と書き込み続けた。
それから1時間後、ついにアリーアの集中力と忍耐が切れた。ちょうど束が半分になった頃である。
「あー、もう無理!!これいつまで続けるんだろ、私。ロールケーキ食べたい!」
「うるさいですよ、女王。俺だって手伝ってるんですから続けてください。元はと言えば溜め込んで町に繰り出し続けたあなたのせいなんですから、責任は取ってください」
「…これさ期限いつまでだっけ」
「今日です」
「今日?!」
「嘘は言ってません」
ショックで呆然とするアリーアを置き、書類に目を通す。まだまだ大丈夫だと過信し、先延ばしにした彼女が悪いのだ。アリーアは逃げる気力を失ったのか、座り込みしくしくと再び書類に向き合う。
そして夕日が沈み始めた頃、アリーアは全体が綺麗になった机に
突っ伏した。
「あー…終わった」
手は痺れてしばらく使い物になりそうにない。グレイスも首をボキボキ鳴らしながら息を吐いた。根は真面目だから集中すれば短時間で終われるのにどうしてこうも辛い方を選択するのか。
まぁ、一重に彼女が退屈を嫌う性質を持っているから、と言えばいいのだろうか。
「さて。仕事は終わったから後は自由よね?」
「自由は自由ですが、夜の予定は忘れていませんよね?」
「忘れてない、忘れてない」
夜のことはアリーア本人が言い出したことだ。忘れてもらっては困るのだ。それをわかってるかいないのかアリーアはいつのまにか
ドレスから軽装に着替えて、すぐにでも町に向かおうとしていた。
「んじゃ、夜にはちゃんと帰ってくるからその間任せたよ」
それだけ言い残したアリーアはベランダから飛び出していってしまったが、後の祭りだ。グレイスは額に手を当て、何度目かもわからないため息を吐いた。
その様子を侍女であるマリアンヌが盗み見し、グレイスに
「ふっ、お疲れ様ー」
といっていたことは内密にしておこう。
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