雨乞い 1
話半分に聞き流していた村の現状が掴めてきた。
曰く干ばつに日照り続きで作物が採れないと。王都に遣いを出すにしてもこの村から王都まで2ヶ月はかかる。
さらに、一か月前に遣いに出した村1番の健康な若者でも着くまでにはあとひと月ほどかかるだろうと。
そして王城への訴訟というのは大体順番待ちして時間がかかるとのこと。
つまり、聞き届けられ、なんらかの対処が村に直接されるまでを全部ひっくるめて希望的観測で見積もって更にひと月かかるだろう。
何が言いたいかというと、この状態で2カ月も放置されたらこの村は死滅してしまう。村ですぐできる対応策を練ったところこの国に古来より伝わる「聖女召喚の儀」を行うしかない、それに賭けるしかない、との結論に満場一致で決まったそうだ。本当に藁をも掴む思いでこの儀式に村の存亡をかけ行ったところ、見事成功したのだと言う。
…いや、まって、
「どうせするなら雨乞いの儀式でしょう!?」
なんで聖女(一般人)を呼び出しちゃうかなあ!!異世界から人ひとり引っ張って来れるなら雨雲一つ呼び込む方が簡単じゃないのか、と声を大にして叫んだら村人に雷が落ちたかのような衝撃が走ったのを目で捉えた。
それからの村人の行動は早く、村の奥地にそびえ立つ山に向かってなにやらイソギンチャクのように両手を挙げてユラユラ揺れる珍妙な儀式を…私も混ざってやった。
なにをやっているんだ、私は。
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翌日。雨は降らなかった。
清々しいほど青く輝くこの空も、眩く輝く太陽も、村人にとっては命を干上がらせようとする絶望の光なのだろう。
こんな古そうな価値観の村なのに雨乞いとか生贄とかそういう発想が初めに出て来なかったのは、古来より幾度となくやってきても雨は降らなかったから、だそうだ。
ついでに言うと、伝承の聖女様は奇跡の力で一瞬にして草木を蘇らせたという逸話があったので、雨乞いよりも聖女を呼んだ方が確実である、というのが村でも共通認識だそうだ。
そして私はというと、見知らぬしかも異世界で一泊してしまった。元の世界と同じ時間で進むなら今日は日曜日か。今日戻れなければ明日会社なのに。
……。サァっと青ざめるのを感じた。
「村長!!」
昨晩泊めてもらった、そして召喚された家に転がり込む。これは、聖女様。嵐でも来そうな慌てようじゃ、と続ける言葉を遮って口を開く。
「元の世界に戻る儀式はありますかっ!?」
村長はほほほ、と面白そうに笑った。
「可笑しな事を言うお方じゃ。今貴女様が入って来られた家の扉と同じじゃよ。入ってこれたなら、出られるもんじゃ。」
その言葉にホッとしたのも束の間。
え、でも一度閉じちゃったら中からは開けられなくなっちゃう扉とかあるよね、と気付いた。
「…。ちなみに、今ここで元の世界に帰ることもできますか?」
「申し訳ありませぬ。それは出来ませんじゃ。」
即答だった。
愕然とする私に、村長は慌てて付け加える。
「もちろん、村を救っていただきたい。でもそれとは関係なしに、この場所から送り出す儀式の方法は伝わっておらんのですじゃ。この村、いや、おそらく国に伝わっているのは聖女召喚の儀式の方法と、その陣だけ。大昔、初めの聖女様がご帰還されたと言われている場所は伝わっておる。そこに帰還の陣があるとも伝わっておるから確かじゃ。その場所は…」
伝承なのに、確かじゃと、断言するのがよくわからないが逸る気持ちを抑えきれずに続きを促す。
「その場所は!?」
「魔の森。魔王城の敷地の中じゃ。」
おおおいいッ!
いきなり、RPG 魔王討伐
勇者パーティー :ヒーラー 聖女(一般人)
というテロップが頭をよぎった。