ねこになったはいいけれど
シリーズ2作目になります。
ーーーあの日、世界から私はいなくなった。
そして、ねこに生まれ変わって還ってきた。ーーー
気がつくと死んでいて、ねこになっていて、生前の我が家で飼ってもらえることになった。
もう娘にご飯を作ることはできないけれど、食事の時間を一緒に過ごしてあげられる。ねこぱんちで好き嫌いを注意してあげることもできそう。夫にご飯作ってくださいの催促もできるわね。
死んでしまったので当然もうあれもできない、これもできない尽くしなのだけれど、不思議とねこの私は希望に溢れていた。
ーーーのだけれど。
獣医によると、どうやら私は生後1ヵ月程のねこであるらしい。いわゆる『離乳期』というやつで、今私の目の前にはドロドロのツナっぽいものがちんまりと盛られていた。匂いはそう悪くないのだが、如何せん見た目が人間だった時の感覚が邪魔をし、自分の食事として中々受け入れがたい。更に言うと皿に顔を突っ込んで口で直接かぶりつく、というのがまたハードルが高く感じる。
ミルクならまだなんとか、ねこの舌使いなんてよくわからないなりにチビチビと飲むことができている。完食にはやたら時間かかっちゃうけれど。
えっ、これ絶対食べなきゃダメかな。
食べない道はないのだとわかりつつも、泣きたい気持ちで顔を上げると、期待に満ちた二対の目がこっちを見ている。つらい。
うう、女は度胸!
覚悟を決めてガブッと、ーーー行ったつもりが、現実はベチョッと。一応口に含めはしたものの、顔中ベタベタ。食べるのがヘタすぎてこれまた泣きたい気持ちになった。
とは言え味は悪くはなく、これならなんとか食べられそう、と思いながら顔のベタベタに舌をペロペロしてみる。
「おとうさん、ねこさんよごれちゃった」
「ねこさん、まだご飯食べるの上手じゃないね」
見かねた夫がスプーンを手にキャットフードのお皿を手に取った。
アーンしてもらえる!!そう思った私は夫に顔を向けて受け入れ体制を整えた。
娘は勢いよく洗面所の方に走って行きタオルを握りしめて戻ってきた。
アーン待ちをしていた私はそのまま固まっていた。夫はキャットフードにミルクを混ぜて、飲めそうな程緩めている。
私は、コーンフレークは牛乳かけずに食べる派なのに!!
固まったままの私の顔を、娘がぐいぐいとタオルで拭ってくれる。大変嬉しいけれど顔のパーツが福笑いみたいに迷子になってしまいそうな勢いなので手加減して欲しい。
私はねこなので、言葉で伝えることはできない。
だけれど、そろそろこれだけは言わせてほしいです。
もうとっくに冷めてるけど、私のことは放っておいて自分たちのご飯食べてください!
娘の手から逃れて、食卓にある娘の椅子の上でニャーンと一声鳴いて見せた。
ねこ生も、大変そうです。
※このあとちゃんと完食しました。ねこは鼻を抑えられなくてつらかったです。
読んでくださってありがとうございます。