8 学園の平民の皆さんに
学園の平民の皆さんに、貴族たちがダンスを教えて。流行おくれのドレスとか着なくなったドレスとかを大量に学園に寄付して、それを平民とか下級貴族の皆さんが無料でレンタルできるようにして。
で、ダンスパーティ当日は、くじ引きで決まった相手とダンスをする……ってイベントに変えたのよね。
殿下の親しい友人であるマラヤさんたち平民の皆さんは、わたくしたち高位貴族と違いダンスやパーティという場にも慣れていない。授業で習うにも時間が限られているし、そもそも個人でパートナーを探して練習することも難しい。そこで我々高位貴族が教師役となって、不慣れな方々にダンスを教えてはどうか。パーティ当日は身分関係なく交流するために、くじ引きで決めたパートナーにエスコートしてもらう……などなど。
もちろん王太子殿下はそのくじ引きで不正を行って、マラヤちゃんのパートナー、ゲットしていたけどね。
婚約者であるわたしをエスコートすることなく、公然とマラヤちゃんをエスコートできる企画に、王太子殿下はそりゃあ喜んで、ダンス交流会を推進したもんですよ。
これは身分など関係なく交流せよという、学年の理念に基づくイベントだとか、お題目掲げてさ。
で、文化祭は当然なくなり、そのダンス交流会で王太子殿下とマラヤちゃんの親睦は深まったのでしたー。
だから、ごめんねベリル……って、ちょっとは思うのよわたし。
今更だけど。
ゲームでの、ベリル・ルート、最大の盛り上がりである文化祭、潰しちゃってゴメン。告白する機会を無くしたってことで、マラヤちゃんはベリルに多分恋はしていない……のかな?指輪は受け取ったっていうし、ベリルはマラヤちゃんを恋人だと思っているようだし……。うーん、思い込み激しくて、勝手に彼氏面する人もいるしなあ。ベリルもそういうタイプなのかしら……?
それにマラヤちゃんはベリルのこと、どう思っているんだろう。親しい友人?ベリルが思い込んでるみたいに恋人として好きなのかな?
うーん、他人の気持ちはわかんないわね。
でも、ベリルも、本気でマラヤちゃんが欲しいなら、王太子殿下に追従なんてしないで、真っ向からマラヤちゃんを愛してるから、殿下のご命令には随えませんって男気見せれば良かったのに。文化祭なんて無くても告白する機会なんていくらでもあるだろうに。
……って、平民が王太子殿下に対立なんて難しいか。学園内は一応平等というお題目はあっても、やっぱり権力者に平民は逆らえません。
ベリルはこの後どうするつもりなんだろう?
いくらマラヤちゃんのことを恋人だとか思い込んでるにしても、もうマラヤちゃんは王太子殿下の婚約者。結婚式だってするだろうしねえ。家族からも元婚約者からも見放されて一人になって。友達とかもいないだろうしね。
ちらと横目でベリルを見る。
俯いたまま「マラヤが本当に愛しているのはこの俺なのに……」とかブツブツ言っている。
……ベリルをこんなふうにした責任、もしかして、わたしにもあるのかな……?
ふっと、そんな罪悪感が浮かんだ。
文化祭、無くさないで、告白イベントやってたら。
逆ハーレムルートなんて行かないで、ベリルのルートにしていたら。
男らしく、公衆の面前で告白して、マラヤちゃんと愛し合う未来になっていたのかな……。わたしが、逆ハーレムルートを達成した後のヒロインは本当に全員の攻略対象者に愛されたまま過ごせるのかなんて、そんな興味を抱いたから、ベリルの人生を変えてしまったのかな……。
ずん、と胸の中が重くなる。
やってはいけないことをした後みたいに。
せっかくのカフェのパンケーキとコーヒーだけど、食べる気も飲む気も無くなって、わたしはそのまま席を立った。
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