35 アオイねーちゃんの気持ちが収まるのを待って
アオイねーちゃんの気持ちが収まるのを待って。
それからわたしたちはすごい長い話し合いをした。
わたしとアウィン先輩は、予定通り。文官を退職する手続きとかして、タウロ室長やルイーゼ先輩とも、ちょっとの時間だったけど、別れを告げて。後任人事も心配しなくていいよって言ってもらって、ゼシーヌ帝国に戻ることになる。
アオイねーちゃん……マラヤちゃんの処遇はちょっと揉めた。
「ごめんなさい。もう謝ることしか出来ないけれど、ごめんなさい。あたしを国外追放にしてください」
アオイねーちゃんは国王陛下に頭を下げ続けていた。
初夜は行えなかった。だけど、結婚式と成婚パレードはしてしまったのだ。
結婚を白紙には出来ない。
だから、マラヤちゃんの葬式が行われることになった。もちろん偽装だけど。
筋書きはこうだ。
成婚パレードの時、マラヤは暴漢に襲われてた。犯人はベリル・スーフォン。
アレクセルの側近である神官のフォアスが回復魔法だの掛けたが、それも虚しく、すぐに失血死。王太子の近衛騎士であったジェイドと、フォアスはマラヤを守れなかったという責にて、投獄されていた。
三人は近く処罰される……というのが表向き。
この筋書きを受け入れてくれるのなら、牢屋から出すという取引をして、受けてもらった。
実際には、ジェイドとフォアスは名を変えて、地方都市に飛ばされる。ベリルはさすがに放逐ってわけにはいかないから、名前を変えて、辺境の村に送り込まれて、そこで牧畜とか農業とかして暮らす……って感じになると思う。
三人とも、最初は抵抗していたけど、マラヤちゃんが土下座して受け入れてくれって頼んで、しぶしぶ承諾してくれた。鉱山に放り込まれて奴隷として強制労働なんてのより幾分かマシでしょう。
アレクセルはショックで部屋に引きこもっているって。ほんとダサいなこの王太子殿下は。
このままだとそのうち廃嫡されるかもね。
だけど、マラヤちゃんとの婚姻は、元から国王陛下も王妃様も反対だったし、しかも初夜も成立していなかったから。陛下なんか、もうマラヤちゃんには毒とか飲ませて「処分」するつもりだったらしいのよ。王族って怖いわ!
だから、わたしとアウィン先輩がゼシーヌ帝国の威光と権力をバンバン使って、ゼシーヌに連れて行くからっ!って押し切った!
だってねえ。マラヤちゃんがアオイねーちゃんだってわかった以上、死なれちゃ困るし。万が一そんなことになったら……ルーベライディン王国、潰すよ?って感じ。
まあ、物事がスムーズに処理出来たのは……全てアウィン先輩のおかげです!
もう本気で惚れるわって、既に惚れてるけど!
アウィン先輩が笑顔の圧力で、要求を通す通す!
ゼシーヌ帝国のご威光と、その権力のごり押しバンザイって感じ!
「マラヤ王太子妃の葬式の偽装、さっさと手配してくださいね。その後、マラヤ嬢本人はゼシーヌにこっそりと連れて行きますから。彼女をこちらで引き取ることに関してルーベライディン王国に何か不利益が生じますか?生じませんでしょう?むしろこのままマラヤ嬢がルーベライディン王国に居つづけるほうが問題だから、あなた方だってマラヤ嬢を処分する気だったのでしょう?アレクセル王太子の心情?仮にも王族ならばいつまでもフラレたことにうじうじしていないで、国が発展するために相応しい相手と再婚姻すればよろしい。あ、セレナレーゼはもう僕と結婚していますので、返しませんよ。僕からセレナレーゼを取り上げるのなら……ルーベライディン王国が亡ぶと思ってくださいね」
そんなこんなで、色々あったけど。
わたしとアウィン先輩に加えてアオイねーちゃんも共に、ゼシーヌ帝国へと戻って行ったのでした。
ゼシーヌ帝国に着いてからしばらくして。わたしはアオイねーちゃんに聞いてみた。
「ねえ、姉ちゃん。やっぱり日本に戻りたい?」
アオイねーちゃんは、複雑そうな顔をしていた。
「帰りたいって気持ちは、ホントはまだある。だけど、帰ったら……レイナとは離れ離れになっちゃうんだよね」
「うん。わたしもね、家族のことは気になるけど。だけど、タクマ兄ちゃんがきっと父さんと母さんを支えてくれているから大丈夫だと思うんだ」
「そう……。うん、きっとそうだね。あれでもタク兄頼りになるし」
「そうそう。あ、でも、わたしがアウィン先輩と結婚って知ったら、タクマにーちゃんもこっちに転生してきそうだけど」
冗談めかしてそんなことをアオイねーちゃんに言ってみた。
「え、どうして?」
「だってアウィン先輩。わたしたちと同じ日本人転生者で……、タクマ兄が神と崇めるフィギュア原型師のショーヤ・アダチ氏だもん」
「へ?」
意味が通じてないのか、戸惑い顔のアオイねーちゃん。わたしはくすくすと笑い続けた。
次回最終回です。
最終回はほとんど書きあがっているので、誤字チェック&推敲して、本日20時ごろ投稿いたします。




