34 「日本の、家族……」
「日本の、家族……」
お父さんとお母さん、アオイねーちゃんにタクマにーちゃん。家族みんな一緒にリビングでボードゲームに興じるような、そんな仲良しで……。
帰りたい。転生直後は強く思った。
帰りたい、帰りたいって泣いた。
だけど、日々を過ごすうちに、わたしはそんな思いを自分から薄れさせていくようにした。
いくら願っても、帰れないって思ったから。
いつまでも、帰りたいって願い続けているのは辛いから。
だけど、マラヤちゃんは。
何かなんでも帰れるようにって、頑張って来たんだ。
取った手段が悪かったかもだけど、どうしても帰りたいって思いを諦めることなくずっと……。
それは日本に残った家族のため。
なんかもう、元々マラヤちゃんのこと、恨みになんて思ってなかったけど。
気持ち、聞かされたらますます嫌いになったりできない。
わたしはもうここで、アウィン先輩と一緒に生きることを、日本に帰らないことを選択したけれど。帰還の手段。そんなのが本当にあるのなら。見つけ出して、マラヤちゃんを帰してあげたい。そう思った。
「マラヤちゃんの、日本のご家族って、どんな方ですか?仲良かったの?」
「うん……すごーく仲良かったわ。父と母と、兄と妹が居て」
「あれ?五人家族?わたしも一緒」
あら、偶然。ちょっとした共通点ね。
「兄は……所謂オタクで。プラモデルとかフィギュアとか好きで。妹としょっちゅうフィギュア作成動画とか見てて」
ん?
なんかどっかで聞いたことあるような、兄妹よね?
わたしはマラヤちゃんを凝視する。
「あたしもコミケ通いとかして、同人誌とかグッズとか、大量にため込んで。母にはいい加減に捨てなさいって怒鳴られて。日本にいる時は怒鳴られるの勘弁してよって思っていたけど、転生なんてしてみたら、母の怒鳴り声も懐かしい……」
んん?
アウィン先輩も、何か言いたそうにわたしとマラヤちゃんを交互に見る。
「あたし、こっちに転生する直前は、家族みんなでボードゲームして盛り上がってて。で、喉が渇いてお茶入れようと思って。キッチンに向かってヤカンを手に取ろうって思ったところでふっと意識が変わって……気がつけば『逆ハー王妃』のマラヤになっていたってわけ。……いきなりあたしが消えて、きっと日本の家族は心配してる……」
もしかしてもしかして……。
わたしの心臓がドキドキというかなんというか。
口を開けたり閉めたりする。
喉の奥がひりついて、うまく声が出せないような。だけど、聞かなきゃ。わたしは無理矢理に声を上げた。
「あ、あああああああのねっ!」
マラヤちゃんが家族を思って、しんみりしているのにゴメン。でも、でもね……。
「もしかしてもしかしなくても、その、マラヤちゃんて……アオイねーちゃん?」
わたしがそう言った途端に、マラヤちゃんは呆然とか虚脱とか、無、みたいな顔になった。
「……なんで、その、名前……」
「堀井アオイ、ねーちゃん、だよね」
今度は苗字付きで、繰り返した。
マラヤちゃん……ううん、アオイねーちゃんは、何も言わず、ううん、何も言えないまま、ただただわたしを凝視している。
「レイナだよ、わたし。堀井レイナ。ねーちゃんの妹の、」
「嘘……」
「嘘じゃないよ、レイナだよ」
「本当の、本当に、セレナレーゼがレイナ……なの?」
「うん。信じられないんだったら誕生日とか言おうか?11月28日。誕生日には必ずチーズケーキ。毎年お母さんが作ってくれてた。それから、アオイねーちゃんの持っている薄い本のタイトルとか、覚えている限り、言ってみようか?」
アオイねーちゃんの体がわなわなと震えた。がくがくとした動作でわたしに手を伸ばす。
そうして思い切り、抱きしめられた。
「うわっ!」
「……レイナっ」
抱きつかれたまま、号泣されて。
ぎゅうぎゅうにしがみ付かれて。
わたし、どうしていいかわからなくて、とりあえず、アオイねーちゃんの背中をポンポンと叩く。
だけど、ねーちゃんは声を上げて泣いたまま。
アウィン先輩は、微笑ましそうに笑っているし。
アレクセル殿下は、目の前の展開についていけずに、ただただ「何なんだ何なんだよ……っ!」と呟き続けている。
わたしはアオイねーちゃんにしがみ付かれたまま、ちょっと困ったんだけど。それでも、押し殺して、無くしたはずの望郷の念が、心の奥底から湧いてきたのか、それとも、この世界で姉に会えた奇跡に感動したのか……、泣いている姉に感情が引きずられたのか……。わからないけど、ちょっとだけ、泣いた。
お読みいただきましてありがとうございました。
次回は明日の11時、最終回は20時に投稿予定です。
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