33 「し、仕立て上げた……とは」
「し、仕立て上げた……とは、いや、それより、マラヤ、私のことを好きではないとか言ったか……?」
なんだかわたしよりも、アレクセル殿下のほうがショックを受けた顔をしていた。
「ええ、そうよ。アンタなんてこれっぽっちも好きじゃないわ。日本に帰るために、必要だったと思ったから、あたし、アンタの婚約者の地位を奪って、セレナレーゼを追放したのよ。なのに、それ、全部無駄って……」
「好きだと言ってくれてたのは嘘だったのか?」
「嘘ですらないわ。『1』のシナリオ通りに、台本通りの言葉をあなたにもカルセドニーたちにも言っていただけよ」
もはやどうでもいいのか、マラヤちゃんはすらすらと喋る。
アレクセルは、信じられないように首を横に振るが……、もうマラヤちゃんはアレクセルなんてちっとも見ていない。
「日本に帰れない以上、これ以上アレクセルと一緒にいる理由なんて無いわ」
そうして、マラヤちゃんはすっと立ち上がった。それまでのマラヤちゃんとは異なる真顔でわたしを見て……、涙を拭うことなく、深々と頭を下げた。
「セレナレーゼ様。謝罪いたします。貴女様に冤罪をかけ、婚約者であるアレクセルを奪い、しかも国外追放に処したこと……。アレクセルたちを騙したあたしの咎です
」
「……なんか口調というか、人格、変わってません?」
こんなに素直に謝られるとは思わなかった。ざまぁする間も、無かったよ。アレクセル殿下はマラヤちゃんに拒否られて、死にそうな顔のまま固まっているけどね。
「これまではヒロイン・マラヤの天真爛漫且つ傍若無人な性格に合わせた言動をしていただけなんです。だから、セレナレーゼ様のことも、ゲームキャラ扱いで、国外追放してもなんとも思わなかったんだけど……。貴女も、その、日本人転生者なの?」
「ええ、そうよ」
「日本に帰る方法を本当に知りませんか?」
「わたしも正直に言うけど、しらないわ」
「……帰りたいと、願ったことは?」
「転生直後はよくそう思ったわね。悪役令嬢なんかに転生して、どうやってその運命から抜け出そうかとか……まあ、フツーに思ったけど。日本に帰れないのなら、この世界で何とか生きていく方法を模索しなきゃって。貴女もそう考えたら?」
帰れないのを嘆くよりも、この地で生きるための方法を選ぶ。その方が建設的だと思うし、幸せにもなれると思うの。
「わたしは、アウィン様と一緒に幸せになって、ゼシーヌ帝国で楽しく暮らすつもりなの。マラヤちゃ……さんも、ここで生きる覚悟を決めたらいいんじゃない?あの馬鹿王太子、ちゃんと貴女のこと、好きなんだろうしねぇ」
ちらりとアレクセル殿下に目をやる。真っ青な顔で棒立ちのままだ。よっぽどマラヤちゃんに拒絶されたことがショックだったようね。ホント、無能。あー、ホントこんなのと縁が切れて良かったー。
マラヤちゃんは首を横に振った。
「アレクセルもベリルも……みんなあれよ、ヒロイン・マラヤに『すごーい、貴方って本当はすごくできる人なのよねー』ってすり寄られるのが大好きな人たちだから。あたし、仕事でもないのに男にすり寄るような真似、これ以上気持ち悪くてできないわよ。キャバ嬢だって、お金っていう対価がなけりゃ、そんなことしないでしょうし」
「な、なるほど……」
「マラヤになり切って、ヒロインぶりっ子して、得るものなしなんて……無駄な時間を過ごしたわ。こんなことなら真っ当に魔導書とか、各地の奇跡とか、しらみつぶしに調べてた方がましだったかも」
ぎり、っと、唇を噛むマラヤちゃん。
そこには天然系のふんわりした雰囲気なんか皆無で……。
アレクセル殿下の顔色がますます悪くなっていく……。
「……元の日本人の時の性格と、ヒロインちゃんとの性格、ずいぶん違うようですが」
「リアルで無垢で天然なヒロインなんているわけないじゃない。演技でもやってんの辛かったもの。それに騙されるアレクセルたちも馬鹿よね……って、あたしのせいか」
マラヤちゃんは振り返って、アレクセルに向かって頭を下げる。
「ごめんなさいアレクセル。あたし、目的があって貴方を騙していたようなものなの。だから、アンタの大好きな『マラヤ』なんて、実はどこにもいないのよ。ごめんなさい。謝って済む問題じゃないけど、離縁してくれる?それが無理なら『マラヤ』という存在は消してもらっていいから。あたしが居なくなれば、これ以上ジェイドやフォアスを投獄しなくてもいいでしょう?ベリルは……成婚パレードの妨害っての、やっちゃったけど、成婚が無かったことにすれば、そんなに罪に問われることも無いだろうし……。あまり重い罪にしないで欲しい」
「ちょ、消すってマラヤちゃんっ!」
「ああ、物理的に殺してくれって言っているわけじゃないわ。病気とかになって儚くなったとかさ、適当に理由をつけて死んだことにしてもらいたいって意味よ。あたし、何とかして日本に帰るための方法を探す。そのために、この国から出ていきますから」
それがどれほど困難でも、絶対に帰るっていう意思がマラヤちゃんお顔には表れていた。
そうして、マラヤちゃんはアウィン先輩の前にすっと一歩出た。
「他の世界の者がこの我々の住んでいる国へと落ちてくるという記載が……と先ほど仰いましたね。それが書かれている書物を見せていただくことは可能でしょうか?」
「見てどうするんだい?」
「落ちてきた場所を探ります。落ちて来たなら戻ることができるかもしれない。あたしはなんとしてでも絶対に日本に帰ります」
セレナレーゼを追放しても。五人の男を手玉に取っても。それでも、帰りたいって気持ちが大きかったのね。
わたしは、すぐに帰還を諦めて、別のことに……逆ハーしてその後ヒロインは幸せなままかなんて、命題見つけて、それに熱中するフリしていたけど。
マヤラちゃんは、他人を陥れても、絶対に帰りたいと思っていたのか……。
取った方法は悪い。だけど、それほどまでの望郷の念。
「ねえ、何でそこまで日本に帰ることに執着するの?」
だって仕方がないじゃない。
事故みたいなもんでしょう、異世界転生なんて。
望んで転生なんかしたわけじゃない。
「だって、あたし何も言わずにすっと日本から消えちゃったから。日本の家族がどれほど心を痛めているのかって、それを考えたら……こっちの世界で暢気に暮らすことなんてできないよ」
お読みいただきまして、ありがとうございます。
残りあと3話。最終回までお付き合いいただければ幸いです。




