31 アウィン先輩とルーベライディンの王城を
アウィン先輩とルーベライディンの王城をゆったりとした足取りで歩く。
まあ、いつも資料室勤務の文官として、山のような書物持ちながら各部署を歩き回っているのとはわけが違いますね!
アウィン先輩も、いかにも閑職に回された文官ではなく、大国の王子様然としていますし。
いや、本当に、今日のアウィン先輩、いつもの五割増しにカッコいい外見ですよ!
上等な服を着ているってだけでなく。伸ばした背筋も歩き方も表情も何もかも、あからさまに高貴な身分の方っていうのを醸し出しているし。
それに、いつもはかけているメガネを外して前髪も後ろにきっちりと撫でつけて……ああ、超イケメン!
王城の侍女の皆さんが、アウィン先輩を目にして、夢見るような顔になっちゃうのわかるね!うんうん、ここまで顔が良いともう、吸引力がすごいんですよね。
でもって、ぼおーっとアウィン先輩の顔を見て、はっと我に返って頭を下げて……、で、みなさん一瞬動作が止まるのよね。
そう、このイケメン王子様であるアウィン先輩に、エスコートをされているわたし。そのわたしの顔を見て……、「え?」って顔になるのよ。
あー……、王城の侍女だとか女官だとか、王城勤務の皆様は、流石に王太子の元婚約者であったセレナレーゼ・フォン・オブシディアンの顔を忘れてはいないようですね。
国外追放されたセレナレーゼが、ゼシーヌ帝国の、第四とはいえ王子の妻となってルーベライディンに戻ってきました……なんてねえ。ゼシーヌ帝国の権力を得た悪役令嬢が報復に来たのか……って思っているのかもしれない。
いや、そんなことしないし、そんな権限もないけどね。
ちなみにわたしをエスコートして歩くアウィン先輩は、これから『ざまぁ』かーと、お楽しみ顔です……。うーん、期待に応えてセレナレーゼ調で悪役令嬢の高笑いとか、してみせようかしら……。
ま、とりあえず、堂々と歩く。
案内されたのはヨーロピアンクラシズム薫る貴賓室。
毛足の長い絨毯にきらめくシャンデリア。アンティーク調のランプなどなど、調度品も厳選されたものばかりです。
国王陛下に謁見とかではないので、謁見室はではなく、外国の要人を迎えるためのこの部屋にご案内されたようです。
で、その貴賓室の中には既にアレクセル王太子殿下とマラヤちゃんが居りました。
「ようこそ我がルーベライディン王国へ……って、何故貴様がここに居るっ!?どうやって入り込んだっ!?」
アウィン先輩にエスコートされたわたしを見た途端に、叫ぶアレクセル王太子。
はい、アウトー!
今のわたしは貴方に国外追放された侯爵令嬢ではなく。
ルーベライディン王国よりも格上のゼシーヌ帝国の、第四王子妃ですよ。
そこのところ分かってますか。
わたしが何か言う前に、アウィン先輩が抗議の声を上げる。
「僕の妃に向かって『貴様』とは……。ルーベライディン王国の王太子殿下は我がゼシーヌ帝国に対して何らかの含みがあるのかい?」
低い声と鋭い眼光。普段のアウィン先輩からは想像もできないほどの冷徹な雰囲気を醸し出しています。多分演技、でしょうけれど……。カッコいいです、惚れますっ!
「い、いや、しかし、そこにいる女は……」
「女?」
「そ、その令嬢は……国外追放となったセレナレーゼ・フォン・オブシディアン……」
「それがどうした?今は僕の妻だ。ゼシーヌ帝国の第四王子妃。オブシディアンの名はとっくに捨て去り、ゼシーヌの王族となっている。それを小国の王太子から『女』呼ばわりされるとは……」
悪役モードを楽しんでいらっしゃるような、アウィン先輩の押し殺した声に、アレクセル殿下もマラヤちゃんも、顔色、蒼白になっています。
第四王子とはいえ、国力はゼシーヌがはるか上ですからねー。はっはっは、ざまあみろ。なーんて、ちょっとくらいしか思っていませんよ?
でもまあ、虎の威を借る狐でいるのもあれですから。
わたしは、ちょんちょんと、アウィン先輩の袖を引いたりします。
「ほほほ、アウィン様。わたくしは大丈夫ですわ。……そして、お久しぶりでございますわね王太子殿下にマラヤ様」
悪役令嬢を意識して、口角を上げて微笑みます。
「わたくし、国外追放となった後、故あってゼシーヌのアウィン殿下に見初めていただきましたの」
「そうそう、それでねえ、こちらの国の王太子殿下にお礼を言わねばと、こうやってわざわざやって来たというわけなんだよね」
アウィン先輩とわたしは見つめ合ってにっこりと微笑みます。ここに向かう時、馬車の中で打ち合わせた通りです!完璧な、演技!
「お、お礼……です、か……?」
「そう。セレナレーゼを国外追放にしてくれてありがとう。おかげで彼女を僕の妃にすることができたよ。本当にありがたい。僕は昔からセレナレーゼのことが好きでね。子どもの時に婚約の申し出もしたことがあったのだけれど、その時は既にセレナレーゼはアレクセル王太子殿下の婚約者になってしまっていたから無理だと言われてね。泣く泣く諦めていたんだよ。それが、運よく婚約破棄となって。その情報を得てすぐに、僕はセレナレーゼを探したよ。名も変え、平民として生きていたから探すのに少々手間はかかったが……、まあ、結果オーライだね」
「本当ですわ。わたくし、アレクセル殿下に婚約破棄を申しつけられた時はどうしようかと思いましたけれど……、結果的にアウィン様と婚姻を結べたのですもの。今はとても幸せですわ」
ふふん、幸せなわたしをアレクセル殿下が悔しそうな目で見てますよーっ。
「……それを告げにわざわざルーベライディン王国にやって来たのか?」
「いいえ。わたくし、アレクセル殿下には用はないです」
「は?」
「わたくしゼシーヌで幸せな暮らしをしておりますの。アレクセル殿下とは違いましてね。ですから貴方に婚約を破棄されたことも、国外追放されたことも、もうどうでもいい些末なのですよ」
フフッと笑ってから、視線をマラヤちゃんに向ける。
「マラヤ様。わたくし、貴女に言いたいことがあってここまでやって来たのですわ」
「あ……、あたし、に……?」
「ええ。貴女に」
「何の用よ……、あんたから王太子殿下を取って、国外追放にさせた恨みでも言いに来たの?」
「恨みなんてないわ。そんなこと些末だと今言ったでしょう。婚約破棄も国外追放もむしろ感謝していますし」
「じゃあ……何の用よ」
訝し気に睨みつけてくるマラヤちゃんに、わたしは一呼吸おいてからゆっくりと告げる。
「ここは『逆ハー王妃』の世界じゃないの。その続編『逆ハー王妃2』なのよ。だから、逆ハー達成しても、日本への帰還の扉は開かれない」
お読みいただきありがとうございました!
誤字報告、本当に助かっておりますありがとう!なるべく、誤字が無いように頑張ります……m(__)m




