28 どうしよう……と悩んでいるうちに
どうしよう……と悩んでいるうちに、サクッと到着してしまいました。はい此処はもうゼシーヌ帝国ですっ!早っ!
しかも、ちゃーんとドレスアップして、セレナレーゼモードのわたしですよ!!
いきなり王宮に行って、国王陛下に謁見なんて、当然できないから。
アウィン先輩が個人所有している屋敷に転移で飛んで、そこで身支度整えて、馬車に乗って王宮殿に向かっております。
何と言いますか、今までいたルーベライディン王国と違ってゼシーヌ帝国は全てにおいて広いしでっかい。
道、ひろーい!
名古屋市に100m道路っていうのがあるけど、あれよりも広いよ馬車道なのに!
川、でっかい!対岸が見えない!
書物で読んでいるだけと、実際に見るのとでは全く違う!ときょろきょろ眺めているとアウィン先輩が丁寧に解説をしてくださいます。それをふんふん聞いて、お上りさん状態だったのですが……。
ゼシーヌ帝国初代国王陛下の騎馬像と、その背後にそびえるようにして建つ宮殿。
それが見えた瞬間、心臓がバクバクし始めました!!
仮にも王太子殿下の婚約者だったのだから、王宮殿なんかは見慣れているだろうって?
はい、ルーベライディンの王城ならね、見慣れてましたよ。
でも……ゼシーヌの城は10倍くらいは大きいんじゃないのーって感じ。さすが巨大帝国。
歴史も文化も国力差も、違う。
で、馬車から下りて、その宮殿の、緩やかにカーブを描く大理石の美しい廊下をわたしはアウィン先輩にエスコートをされながら歩く。
天上のシャンデリア。壁に描かれたフレスコ画。並べられている彫刻。
「……ゼシーヌ帝国の歴史が、見てわかるように配置されているのですね……」
王宮の入り口に描かれている絵。それは一見すれば単なる素晴らしいだけの風景画。
だけど、よくよく見れば、まだゼシーヌが帝国と呼ばれる前のもので、中央政権とは異なる背景を持った独自の地方政権集団の、さまざまな文化や当時の独特の言語までもが描かれている。歩を進め、次の絵はそれら多様な集団が、次第に法や宗教、戦争の中で、次第に中央政権に束ねられていく様子。そして、初代国王陛下がそれらの地方政権集団を一つにまとめ、帝国として国家を樹立していったさまが描かれている。
「まあ、初代のねえ、国王陛下はなんていうか、傲慢で。当時は帝国じゃなくて王国だったんだけど、ゼシーヌ王国の周辺の国の人間は、全て非文明的な野蛮人であり、彼らを征服によって我が国の傘下に置くことは、野蛮人たちに真の文明と信仰を与えることだーとか言ってね、無理矢理ゼシーヌに組み込んでいったんだよね。で、三代目の国王陛下がさ、初代とは真逆で、ゼシーヌにはない素晴らしい文化をこの国に取り入れるために、近隣諸国の文化を援助しようって言いだして。たまたま運良くその当時の近隣諸国が貧しい国が多くて。援助と言わず、ウチの国をゼシーヌに併呑してくださいーなんて言ってきた国も多かったらしいよ。で、あっという間に巨大帝国となりました」
そんな国の皇帝陛下方にこれから謁見をするので……緊張も当然と言えば当然。
まあ、相手が皇帝でなくても、「結婚させてください」なんて、恋人のご両親にご挨拶に向かうのは……当然緊張するわよねえ。それに、わたし、元侯爵令嬢とはいえ……今は平民の身分。
良いのかな?大丈夫かな?と思いつつ、陛下に謁見。
ドキドキしているうちに、かなり広めのサロンの一室に案内されました。
謁見室に向かう前の控えの間かと思いきや、室内には既にアウィン先輩のご家族と思しき皆様が勢ぞろいされていました。
ちょっと待て、心の準備が……と思いつつ、これでもわたし、元は王太子の婚約者。
優雅な所作で一礼を致します。内心の動揺は顔に出しませんとも!
「父上母上、兄上たち、そして姉様。アウィン、ただいま帰りました。それから、僕のお嫁さん、連れてきましたよー。元の名をセレナレーゼ・フォン・オブシディアン嬢、今は名を変えたのでレイナ・ホリー嬢となりますが」
わたし、もう平民ですので、許しが出なければ頭を上げることはできません。
だけど、見なくともわかります。
うきうきと上気なさっているアウィン先輩には……周りが見えていないということが。
「早速ですけど、手紙で先に伝えた通り、婚姻届だけは一刻も早く出してしまいたいのです。あ、結婚式は盛大に行いたいので後程日程を調整して下さいね」
ペラペラと話しているのはアウィン先輩だけ。
皆様も……ドン引きされてませんか!?何やら空気が……重いというか、なんというか……皆様一様に無言でいらっしゃいます。
「と、取り合えず顔を上げよセレナレーゼ……ではなくレイナ嬢……だったか、」
しばしの後、アウィン先輩の息継ぎの隙に、ひきつったお声で国王陛下がそうおっしゃって下さいました。
わたしはゆっくりと顔を上げます。が、平民であるため、口を開くことは許されません。だから、優雅に微笑んだ後、再度淑女の礼をして、それからまっすぐに背筋を伸ばしました。
わたしの意が通じたのでしょう。国王陛下は鷹揚に頷かれました。
「ここは謁見室ではなく我々家族専用のサロンだ。その上そなたはアウィンの客……、気負うこと無く楽にするがよい。発言も自由で構わない」
ありがとうございますと告げた後、わたしは皆様に向かい告げます。
「お初にお目にかかります。元の名をセレナレーゼ・フォン・オブシディアンと申しますが、
オブシディアン侯爵家よりすでに除名されております。また、元婚約者であるルーベライディン王国の王太子殿下から国外追放の命を受けてございます。故に今は平民の身分でしかなく、レイナ・ホリーと名を変えております」
そう、資料室に勤務して、わりと最初の時期に最新の貴族名鑑をチェックしたのよね。オブシディアン侯爵家の家系図のところに書いてあるはずのわたしの名前が二本線で消されていた。これは除籍となったことを示す。さらにマラヤちゃんの名前が追加されていた。
まあ、もういいんだけどね。
ただ、アウィン先輩のご家族にはそのあたりちゃんと言わないとね。
アウィン先輩は……これだけ強大なゼシーヌ帝国の、第四王子様なのだから。
普通なら、平民の小娘が嫁なんて、無理。
なのに、皇帝陛下は……なんというか、表現の難しい顔をなさっていた。
「……まずはレイナ嬢。まずは確認を取りたいのだが」
「はい」
「その……だ。貴女が侯爵家から除名され、元婚約者より国外追放となってしまったのは……、アウィンが何らかの手をまわした結果なのか?」
は、い?
何を問われたのかわからなくて、わたしは思わず首を横に傾けてしまった。
お読みいただきありがとうございました!




