27 い、言えたーっ!!そりゃあ結婚なんて、急だけど
い、言えたーっ!!そりゃあ結婚なんて、急だけど、う、うううううう、女は度胸だもんっ!
どんな気持ちであれ、アウィン先輩を逃すつもりは無いんだから!
半分強がり、半分本気。
いや、せめて婚約から始めさせていただきたい……って気持ちはあるけれど、幸運の女神様は前髪しかないということわざもあるから、掴める時に全力で掴まないと!後からチャンスを掴もうとしても後ろ髪がないから捕まえられないのよ!
……だから、四の五の言わずに態度で示す。わたしは決意を込めて、淑女の礼をとった。
散々叩き込まれてきた王宮での王太子妃教育。その成果で多分、わたしの本気の『セレナレーゼ・モード』の所作は、自分で言うのもなんだけど、国一番と言ってもいいほど美しい。
自画自賛?まあ……、そうだけど、客観的事実でもあるのよ。
アレクセル王太子もねえ、わたしに文句たらたらだったけど、立ち居振る舞いやダンス、礼儀作法については文句も言えなかったほどだし。家庭教師たちにも優秀と言ってもらっていた。
久しぶりに全力出してみたら、アウィン先輩は感動で打ち震えてくださっていた。
レイナも、好きになってくださったけど、もともとセレナたん好きですものね。
うん、そのうち着飾って、ちゃんとセレナレーゼして差し上げよう。完璧なる侯爵令嬢とか、悪役令嬢の高笑いとか。出来ますよわたし。レイナを名乗ってからは、転生前の日本人モードバリバリでしたが、一応これでも転生してからは、ちゃーんと『セレナレーゼ』してましたからねー。
などなどと、考えていたら……、いきなり「バターンっ!」と大きな音を立てて、資料室の扉が開かれた。
「おめでとうアウィンっ!よかったねえええええええっ!」
跳ねるように飛び込んできたのはルイーゼ先輩だった。そのルイーゼ先輩の後ろにはあちゃーって顔のタウロ室長たちが見える。ジャスパー副室長は「馬鹿ルイーゼっ!空気読め、邪魔すんなっ!」ってルイーゼ先輩に向かって怒鳴っているけど、ルイーゼ先輩は気がついていない。
「いやーっ!さっきから扉の向こうでみんなと一緒に手に汗握っていたんだけど!邪魔しちゃならないって、我慢していたんだけどっ!も、おめでとうっ!」
え、え、えっと……み、みんな、もしかして、扉の向こうでわたしたちの話でも、聞いていた……とか?い、いやいや、わたしとアウィン先輩が話していたから、みんなは入れずに困っていたとかですか?
ぎゃああああああああっ!ア、アウィン先輩に抱きついたり、愛してくださると嬉しいなんて言ってみたり……恥ずかしさでわたしの顔が真っ赤ですぅうううううう……っ!
「レイナが結婚を承諾してくれた上に、セレナたんモードにまで……。た、堪能したかった……、三十時間くらい噛みしめたかった……、この感動が、一瞬で破られるなんて……。ルイーゼ、許すまじ……、でもおめでとうの言葉はありがとうございますと申し上げましょうっ!ええ、長年の恋が成就したこの喜びを共に味わえこのやろうっ!!」
ブツブツとしたつぶやきが、次第に大きくなって、最後は叫んでおりますアウィン先輩。
申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げたり、手を合わせたりしているタウロ室長たち。
「いやーん、だってぇ!おめでとう両想いっ!も、即行結婚しちゃえ☆」
そんな中、一人ルイーゼ先輩だけが浮かれている。
「ええ、もちろんルイーゼに言われるまでもなく、さっさとレイナをウチの国に連れて行って婚姻届けを提出しますともっ!結婚式は盛大にやりますので後程っ!皆様ウチの国に招待しますので、万障繰り合わせてご出席くださいねええええええっ!」
「もっちろん!賓客としてご招待してくれるのよねアウィン?」
「魔法陣にて転移。王宮に滞在。そして式が終わったら王都観光の後、きちんと転移で送り返しますとも!日程決まりましたらお知らせいたしますが、往復三・四日程度ですから休暇申請も通るでしょう!」
「わー、アウィンってば太っ腹!ご招待にあずかりますー」
き、気楽に転移って言ってるけど……、ルーベライディン王国からゼシーヌ帝国まで、通常なら馬車で十日以上の旅になる。それを一瞬で転移することの出来る魔法陣を描ける魔導士は……はっきり言って数が少ないし、結婚式のために、来客を連れてきてなんて、プライドの高い魔導士様が引き受けてくれるのかしら……ね。えっと、わたしもねえ……一度行ったことのある場所なら、そして、そこが安全であるとわかっているのなら、転移魔法使えますが……。それでもこの国からゼシーヌ帝国までこの距離を転移したら、ど、どうかな?自分一人で一回だけとかならまあ、何とかだけど。資料室の全員を伴って転移する?……疲労と魔力不足でしばらくは寝込むだろう。その、距離を、ご招待……。
ちょっと、くら~りと、貧血とか起こしそうになりました……。
「ええ。代わりに今からしばらくの間、僕とレイナにお休み下さい。ゼシーヌ帝国に戻って、ウチの両親と兄弟姉妹にレイナを紹介して、籍だけでも入れてから戻ってきますので」
「馬車で往復となると二十日以上はかかるか……。それだけ長いといくら暇な時期とはいえ、休暇申請、通すわけにはいかんなあ……」
「転移魔法を使いますからそんなに日数は要りませんが、そうですね五日ほどで大丈夫です。ただ、すぐにではないですけれど、結婚後はゼシーヌ帝国に住まざるを得ないでしょうから……、退職も視野に入れています。ですから後任人事もお願いしたいです」
「ま、元からアウィンは意中の彼女を手に入れるためにこの国に来たとか言っていたからなあ……。元々アウィンがそのうち居なくなるだろうと思ってレイナを採用したんだが……。まさかそのレイナがアウィンの想い人だとは思いもしなかったよ。うん、まあ、だけど、人の恋路を邪魔するわけにはいかないからね。とりあえず、休暇終わったら一回帰ってきてくれ。退職の時期はその時話し合おう」
タウロ室長の承諾に、アウィン先輩の顔が満面の笑みになる。
「ありがとうございます室長。結婚式の際にはか国の珍しいお酒をこれでもかというほど用意しますので、便宜のほど、どうぞよろしく」
アウィン先輩とタウロ室長が、がっしりと握手を交わしています。あー……。
昨日、キスして好きだと自覚して。
今日、結婚すると心に決めて。
多分このままアウィン先輩のご両親って、つまりはゼシーヌ帝国の国王陛下夫妻にご挨拶という流れになって……多分、そのまま結婚ですか……。資料室の仕事も退職ですか……。
展開、早っ!
いや、嫌じゃないんですけどね……。
元々いつ辞めても良かったし。
ただ、タウロ室長たちとのこの職場、結構好きだったんだけどなあ。
あー、でも、国外追放になったセレナレーゼがいつまでもこの国に居るのはマズいし……、なによりアウィン先輩はゼシーヌ帝国の第四王子様。
うん、いつか、って話なら、わたしもゼシーヌ帝国に行くことに異存はない。
寧ろありがとうございます……だけど。うーん、わたし、流されてる?状況に流されているかなあ……。
で、でも、退職してもきっとタウロ室長やみんなと縁が切れるわけではなさそうだし……、アウィン先輩と一緒にいることを第一に考えると……、うん、ゼシーヌに行くのは妥当だと納得が出来る。
だから、わたしがこの国対する心残りはただ一つになった。
マラヤちゃんのこと、どうしよう。
わたしの気持ちに引っかかっているだけで、放置して、もう無関係って思ってもいいんだけど。あー……。
お読みいただきましてありがとうございますm(__)m




