26 アウィン先輩の顔が見たくて。
アウィン先輩の顔が見たくて。目を見て、きちんと答えを聞きたいなって思ったのに……、アウィン先輩は痛いくらいにぎゅっと、わたしを抱きしめて来た。
「ア、アウィンせんぱ……」
「僕が今、どれほど幸福なのか、レイナ、貴女に伝わるでしょうか?」
アウィン先輩の顔は見えない。
だけど、アウィン先輩の声が泣きそうに震えて。泣きそうって言っても悲しくて泣くのではなくて。自惚れじゃなくて、わたしの言葉がアウィン先輩の心に届いて、泣きそうなほど嬉しいとか、思ってくれているのかなって。
そう思っちゃうくらいに、アウィン先輩から伝わってくる声が、腕の強さが、鼓動の高鳴りが。
全部全部わたしを好きだって言ってくれているみたいで。
「ありがとうレイナ。どんな理由があろうとも、僕を選んでくれたことは、言葉には出来ないくらい嬉しいです」
「嬉しい……ですか?」
「はい。昨日僕は貴女に『これからも、一緒に居て欲しいのです』と言いました。そしてレイナ、貴女も僕にそう言ってくれた。僕はね、僕の気持ちを正直に貴女に話せば……ドン引きされても仕方が無いと……。引かれるくらいならまだマシで、全力で逃げられるとさえ思っていましたから」
逃げる?ドン引き?
分からず首をかしげる。するとアウィン先輩が自嘲するように嗤った。
「……僕、前世で貴女の……セレナレーゼの水着着用フィギュアとか作ってそれ動画にして発信していたキモヲタ男ですよ?それを欠片も恥じてはいませんが。思いが積もり積もって、転生した直後にはもう貴女を絶対に逃すものかと、国を出て、平民として身分を偽って、この城にやってきて……アレクセル王太子に貴女が婚約破棄されるタイミングを狙って、貴女を攫って、ゼシーヌ帝国に連れて行ってしまえって、そんな計画さえ立てていた最低さですが?しかも貴女を見失って、必死に探して……探し当てた後は、陰からこっそり貴女を付け回して、運よく同じ職場に配属されたので、もうこれは運命だとばかりに貴女の側で楽しく過ごしていたんですがねえ……」
あ、あー……確かにそんなことを……仰っていましたね……。
「前世の日本なら、ストーカーか犯罪者として捕まっていますよ、僕は」
う、うーん……。さすがにそこまでは行かないんじゃないかなーなんて。そもそも、わたし、ストーキングされていたことに全く気がついておりませんでしたし。
……警戒していたのはオブシディアン侯爵家とか王家からの追手だったしね。アウィン先輩のことはむしろ好感度の高い先輩でした。
「それに比べてたら、レイナの気持ちなんて犯罪者に対する優しさであふれていますよ。こんな僕と一緒に生きてくれるというのですから」
ふっと、一呼吸おいてから、アウィン先輩は口調を変えた。
「……これまでのことは……、反省はしますけど、後悔はしていませんし、恥じることもありません。それよりも僕はレイナと未来の話をしたい」
「未来」
「ええ、そうです。レイナ、なるべく早く僕と一緒にゼシーヌ帝国に行ってくれませんか?僕の家族に婚約者としてレイナを紹介したい。それで……貴女が嫌でなければ、結婚の届だけでもすぐに出してしまいたいんです。もちろん準備に準備を重ねて盛大な結婚式を挙げたいので、それまでは清い関係でいることは保証します」
い、いきなり結婚ですかーっ!
いっきにわたしの顔が真っ赤になってしまいましたっ!血圧急上昇!鼓動がどどどどどどどどど……ってものすごく早いっ!!
「レイナも、その……、『逆ハー王妃』のマラヤのその後が分かればもうこの国に用はないと言っていましたよね。僕もです。僕は貴女を捕まえるためにこの国に来たんです。だから、僕も、正直なところ、もうこの国に用はないですね。貴女を連れて、即座に、一刻も早く、ゼシーヌに帰りたいです」
「そ、そそそそそそんなに急ぎますか!?」
い、いや、結婚……、したいかしたくないかだったら……したいですけど……。
昨日の今日だよ!展開早すぎて頭がついていかないいいいいいい……っ!
「はい、急ぎます。元々の『2』のストーリートとはかなり変わって、というか僕が変えたようなものですけれど……。攻略対象者その5で、最後にセレナレーゼに出会うはずの僕が最初に貴女に出会っていますよね。だったら……行商人アルバレイドも魔法学園長デュレリも盗賊ライマレールも騎士フーゴーも……何時レイナと出会って、彼らがレイナを愛するか分からないじゃないですか!この半年間、僕は職場の同僚としてレイナの側にいて……、口説こうとしても華麗にスルーされてきていたんです。けれど、昨日、運よくレイナとキスをすることが出来た。……もう逃がすものか……っ」
う、うわあああああ。ものすごい座った目でわたしを見ていますよアウィン先輩がっ!ほ、捕食者の瞳かあああああっ!
で、でも、取られてなるものかって、こんなにも執着してくれるのを……怖いとか思わないで嬉しいって感じているわたしは末期ですね。
はい、逃げません。
それに、自分に対するストーカーを愛したら、それ、単なる相思相愛ですよねえ……。
きっと、アウィン先輩は。わたしを本気で愛してくれているんだろう。
愛情の熱量は、多分、また、アウィン先輩のほうが多いだろうと思う。
だけど、わたしだって、アフィン先輩を誰か他の人に取れれたくないって程度には思うんですよ。
多分、愛の形としては、わたしもアウィン先輩も歪んでいるんだろうね。
わたしは……寂しくて、「かもしれない」って言葉が続くような思いしかなくて。依存みたいで……そんな気持ちを「好き」という言葉でコーティングしているだけ……かもしれない。
きっとね。
今はね。
だけど、いつか。
アウィン先輩と同じくらい、大きな気持ちで愛していると言たらいいなーって、そうも思うのよ。
だから、今、わたしがアウィン先輩に言うべき言葉はこれしかない。
わたしは、息を吸った。そして……気持ちを込めて、それを吐き出す。
「アウィン先輩。こんなわたしですが、それでもよろしければ一生涯愛してくださると嬉しいです。わたし、ものすごく不束者ですが、アウィン先輩と生涯を共に出来るように頑張ります。ですから、どうかよろしくお願いいたします」




