25 唸っていても妙案は浮かばない。
唸っていても妙案は浮かばない。
国外追放された悪役令嬢が、王太子殿下との仲が微妙になっているとはいえ、王太子妃様に謁見できるとは思えないし。手紙もなあ……偽名とか日本語使って書いたとしても届くのかしら……って感じだし。
うううううううーん。
悩むなあ……。
どう考えてもすぐには無理。だけど、なるべく早く動かないと……マラヤちゃん、どうなるのかなあ?
アレクセル王太子は……多分まだマラヤちゃんのことが好きでいることだろう。だけど、マラヤちゃんが王太子を拒否すれば……何時まで王太子妃の地位に居られるかなぁ?
成婚パレードの時に、マラヤちゃんがベリルに襲われたとか、何とか理由をつけて、ベリルとマラヤちゃん、処分されたりたりたり……。う、怖っ!
が、がんばれアレクセル王太子!愛するマラヤちゃんを守れ!
……だけど、あの無能に何ができるかしらねぇ……。
すぐに、何とかするのは無理。
だけど、それほど時間はかけられない。
マラヤちゃんに、何らかの救済をと思っていても……。
「実際にわたしができることなんて無いのよね……。だけどこのままはホント後味悪いし……。アウィン先輩に、話聞いてもらったら何とかできる伝手とか、あるかな……。先輩、ウチの国より力のある帝国の王子様だし。でも、権力を使わせてくださいお願いしますっていうのもどうかな……。それにアウィン先輩には……マヤラちゃんのことの前に、……わたしの気持ちとか想いとか……ちゃんと話さないといけない。今日は浮かれてちゃんとしていなかったから……」
話すこと。話したいこと。マラヤちゃんのこと、わたしとアウィン先輩の未来。
色々、うんうん唸りながら考えて、ようやく眠れたのは……もう夜が明けて、空がうっすら白む頃だった。
仮眠みたいな短時間の睡眠を経て、眠い目をこすりながら、それでも、いつもの出勤時間よりもかなり早く資料室へと向かった。
アウィン先輩に会う前に、もう一度、何をどう話すかとか、考えをまとめておきたくて。
なのに、資料室のドアを開けたらそこにはもうアウィン先輩がいた。
「おはようレイナ」
朝日よりも眩しい笑顔で。白い歯がキラリ☆って、芸能人のテレビコマーシャルじゃないけど、光ってます!ううう、寝不足の目に眩しいっ!
「お、おはようございますアウィン先輩。……出勤、早いですね」
「一分でも一秒でも早くレイナに会いたくて……、来てしまいました」
笑顔で照れる美青年の破壊力。
眠気が吹っ飛んだわっ!
血圧急上昇っ!
ふおおおおおおおおおおっ!
し、しかもですよ?アウィン先輩ってば、その照れ顔のまま、わたしにそっと手伸ばし、わたしの頭まで撫でてくれたんですよ!!うわー……、し、しあわせってこういうこと!?
アウィン先輩の手の柔らかさに、わたしは溶けていくような幸福感を感じてしまった。
笑顔のアウィン先輩に、わたしも自然に頬が緩む。
「レイナ……、抱きしめてもいいですか?」
囁かれた声に、思わず反射的にこくんと頷いて、わたしはそおっとアウィン先輩の背に手を回す。そのまま目を瞑って、そっとアウィン先輩にもたれかかる。
雪の日。震えながら外から帰ってきたら、お母さんがお風呂を入れて待っていてくれた。
最初は熱いと感じたお湯は実はぬるめで。だんだんあったまっていって、わたしは息を吐いて全身の力を抜いた。
アウィン先輩の腕の中はそんな幸せと似ている。
安心して、ほっと息を吐ける。温かな、場所。このまま、なーんにも考えずに、この場所に居られたら。
でも、ずっとここに、アウィン先輩の腕の中に居たいのなら……、わたしは自分の気持ちをきちんとアウィン先輩に伝えないといけないと思う。
昨日、アウィン先輩の情熱に押されて、なんとなくの流れでキスしたんじゃない。きっと、あの瞬間、わたしはちゃんとアウィン先輩に恋をした。
「……アウィン先輩」
「はい。なんですか、レイナ」
「わたし、アウィン先輩が好きです。昨日、好きになりました。でもそれは……先輩が、ショーヤ・アダチ氏で、元々尊敬申し上げて、同じ日本のことを語れる人だから……。ただのアウィン先輩ってだけなら、同じ職場の先輩で、良い人で……って、そのままだったかもしれません」
気持ちを、隠さずに言う。
「はい。そうですね。今まで一緒に働いていて、僕なりにレイナにアプローチとかけっこうしていたんですけれど……。昨日以前は華麗にスルーされていましたしねぇ……」
しみじみと回想するようなアウィン先輩の声に、わたしは申し訳なくなる。
「わたし、本当は、マラヤちゃんが……『逆ハー王妃』の『ヒロイン』が『攻略対象五人』とね、ハッピーエンドを迎えた後、ゲームのその後も本当に愛されたままの王妃でいられるのかっていう命題に意味を見出して、それを観察しているってことに熱中しているフリをしていたんです。だから、セレナレーゼからレイナに名を変えて、お城の文官になって、マラヤちゃんの周辺を探れるようにってしていました。それで……、ハッピーエンドのままお花畑展開でもそうじゃなくても、ある程度の結果が分かったら、文官も辞して、他国にでも行こうって、そう思っていたから……、資料室の皆さんともある程度仲良く仕事をすればいいってだけで、長く付き合っていけるような関係を築こうとはちっとも思っていなかったんですよ」
アウィン先輩の腕の中で、わたしは長々と話す。
アウィン先輩は、わたしを抱きしめてくれたまま、言葉を挟まずじっと聞いていてくれた。
「だけど、そんな気持ちは、昨日一変してしまいました。わたし、アウィン先輩と一緒にずっと生きていきたい。本音を言うのなら、アウィン先輩がショーヤ・アダチ神だからっていうのも大きいかもしれません。セレナレーゼのわたしだけじゃなくて、ちゃんとレイナのわたしも好きだって言ってくれたからかもしれません。……日本の、同じ文化や思い出を語れる相手だからかもしれません。……日本に帰りたくても帰れない気持ちを、わかってくれるのがアウィン先輩しかいないっていう、依存のような気持ちで、好きって思っているだけかもしれない。でもこんなのは単なる後付けの理由で、昨日、アウィン先輩がわたしを好きって言ってくださったから、浮かれて、わたしもアウィン先輩が好きになっただけかもしれない。うん、わたし、正直に言うと昨日だいぶ浮かれてました」
告白されてすぐキスまでしてしまったくらいに。
「だけどね、アウィン先輩。浮かれてるとか理屈とか、そんなものどこかに置いておいて。わたし、今、アウィン先輩の腕の中で、本当に幸せなんです。ずっとこのまま、ここに居たいって、ここから、アウィン先輩の腕の中から離れたくないって思っちゃうくらいに」
掛け値なしの、わたしの本当の気持ち。
アウィン先輩がいれば、きっとわたし寂しくない。
『逆ハーレムエンド』を達成した『乙女ゲーム』の『ヒロイン』は、複数の攻略対象たちに愛されたまま、一生涯幸せな人生を送れるのだろうか……なんてことに、熱中するフリで、日本に帰りたいって辛い思いから目を逸らさなくても。
きっと、アウィン先輩が傍にいてくれるだけで、わたしはもう寂しくない。
それを「好き」と思い込んでいるだけなのかもしれない。
……自分の気持ちなのにね。「かもしれない」ってばかりが続く。
「これが、偽りない、今のわたしの気持ちです。こんなわたしでも、いいですか?アウィン先輩がセレナレーゼを追い求めてくださった気持ちと同じように、わたしはアウィン先輩を求めるっていうのじゃないとは思いますし、そもそもアウィン先輩が求めていた『セレナたん』とわたし、かなり違ってしまっていますけど。それでもわたし、ずっと一生、アウィン先輩と一緒に生きていきたいです」
異郷の地で二人。
ようやく出会えた同胞。
そんな気持ちがベースにあって、その上に乗っかっている恋心。
アウィン先輩は……それでも、そんなズルいわたしでも……いい、ですか……?




