23 気になることはちゃんと考えてみよう。
気になることはちゃんと考えてみよう。
マラヤちゃんはここが『逆ハー王妃』の世界で、逆ハーを達成してエンディングになれば日本へ戻れる……と、何故だか思っている。
「んー、ゲームが終わったら、普通は『そして王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしました』となるって、わたし的には思うんだけどねえ」
エンディング後、日本へ戻る?どうしてそんな発想になるの?
「あー……アオイねーちゃんのやっていた他の乙女ゲームにそんなのあったかな。うん確か、失踪するちょっと前にやってたのがそんな内容だった。条件クリアすると、ヒロインは無事に日本に戻り、そして、日本で待っていた恋人と結ばれる……ってストーリーだったっけ。んー、マヤラちゃんも日本人の転生者で、そういう異世界転生後、現代に帰還出来る系のゲームとかラノベとかネット小説とか、知っているヒトだったら……、帰れる可能性もあるって、思っちゃったのかなあ……」
ま、わたしがここで考えていてもわからない。
だけど、同じ日本からの転生者なのよねマラヤちゃんは……。
わたしを『悪役令嬢』にして、王太子から婚約破棄の上に国外追放なんてコンボ、させたのって、マラヤちゃんなんだから。わたし、マラヤちゃんに対して「ざまあみろ!」なーんて思ってもいいはずなんだけど。
なんかなあ……。何で気になってるのかなあ……?
うーん、同郷のよしみ?
それともあのアレクセル王太子を引き取ってくれた感謝?
……気になっちゃってると、アウィン先輩とラブラブに突入って気になれない。
ふう、とため息を吐いて、それからベッドから飛び出る。そして、机の引き出しからレターペーパーを枚取り出す。
「マラヤ様
此処は貴女が思うような『逆ハー王妃』の世界ではありません。その続編である『逆ハー王妃2~悪役令嬢の逆ハーレム~』の世界なのです。そして、このわたしは『2』のヒロイン。
わたしは逆ハーなんて選ばない。たった一人の愛する人を選びました。その人と、この世界で、一緒に生きていく。
もし仮に、逆ハーを達成した後に元の日本に帰れるなんてことがあるとしても、わたしはきっとこの地で生きること選びます。だから、貴女はこの世界でどう生きたいのか、考えてみてください。多分、自動的に日本に帰還できるなんてことは無理ではないのかと思われます」
とりあえず、日本語で書いてみた。
日本に帰る。戻る。
それは、多分、きっと、無理。
逆ハー達成して帰れるなんて道、あるのかもしれないけれど、多分ない。
ううん、あったとしても、わたしは日本に帰るための逆ハーなんて道は選ばない。
アウィン先輩、ただ一人を選びたい。
……好きに、なったからね。へへっ。
でも……マラヤちゃんは、逆ハーしてでも日本に帰りたいのね。
「日本に……帰りたい、かあ……。わたしには……もう、遠くなっちゃった感情だね……」
わたしだって、悪役令嬢セレナレーゼに転生したとわかった時には……そりゃあもう、泣くほど帰りたかった。
婚約破棄されて、家族からも見放されるってわかっているキャラクターに転生なんて冗談じゃない。
婚約者になったアレクセル殿下なんて初対面から最悪だったし、侯爵家の家族からも愛情なんて感じられなかったし。
アオイねーちゃんにもタクマにーちゃんにも会いたかった。
ゲームやフィギュアの話をして、お母さんに注意されたりしたかった。
帰りたかったよ。セレナレーゼに転生してからの数年くらいは。
魔道とか、極めたらもしかしたら日本に帰れるかもって、すごい必死になってた時もあった。
魔導書とかね、たくさん読んだ。
だってセレナレーゼは転移魔法が使えるのだもの。なら、転移魔法を極めて日本にだって飛んでみせる!って思ったのよね……。
何度も試して、失敗して……。魔力が足りないのかと思って、魔力も鍛えて。
でも、無理だった。
魔導書に書いてあったのは「隣接する世界から、零れ落ちてしまう異邦人もいる。が、元の世界に戻った者はいない」って言うことだけ。帰還の方法なんて、記述はなかった。帰れたっていう人が過去に居たこともない。
つまりは、異世界転生なんて、偶然の産物か神の領域で、人間がどうこうできるものじゃないってね。
だから、帰還は割と早い時期に諦めたのよ、わたし。叶わない思いを、ずっといつまでも抱え続けているのは辛いから。諦めて、別の道を生きていくほうがいい。そう思って。
諦めて……まずは、帰りたくても帰れないのなら、今の、侯爵家の父や母達と仲良くしていこうって、考えた。
だけど、父も母も、わたしのことは政略の駒としか見ていなかった。
だから、すぐに父たちと仲良くなることは諦めた。
アレクセル王太子殿下ともね、元々好きじゃなかったし、どうせヒロインちゃんとくっつくんだからと思って、初めから関係をよくすることなんて、考えなかった。
そうやって、わたしは一つ一つ、色んなことを諦めていった。
だって、帰りたい帰れないって泣いていても、どうしようも無いんだものっ!
異世界転生をして、幸い衣食住は保証されていた。教育だって受けられた。
だけど、ただ、それだけ。
寒くて、辛くて、怖くて。
セレナレーゼとして生きていって。だんだん堀井レイナが無くなっていくようで。
夜に、ベッドに入って。毛布にくるまって。
アオイねーちゃんのことを思い出す。
タクマにーちゃんのことを考える。
だけどね、年月が経つと……お父さんとお母さんの顔も、アオイねーちゃんの顔もタクマにーちゃんの顔も記憶から薄れていった。
ぼんやりとした印象は覚えている。
だけど、はっきりと顔を思い出すことができなくなった。
前に記憶に関する本とかで、姿形は忘れやすいけど、声は最後まで脳内に残っているなんて話を読んだことがある。
だから、かな。
日本の家族の顔がおぼろげになった頃でも、家族と交わした会話はいくつか思い出すことができた。
朝起きて、お母さんにね「早くご飯食べなさい」とか「ほら、また忘れ物!」なんて小言を言われながら、急いで学校に行って。友達と気楽に笑って。帰宅して、アオイねーちゃんとゲームしたり漫画を読んだり。タクマにーちゃんと動画を見たり、フィギュアを愛でたり、ガンプラ作ったり。お父さんが仕事から早く帰ってきた時は、五人家族一緒に食卓を囲む。
当たり前の、ちょっとヲタクっぽいかもしれないけど、フツーの生活。
いつまでも続くと思っていた家族との団らん。
忘れないようにって繰り返し思い出して。繰り返し、繰り返し、繰り返し。
だけど……帰れないから、思い出すのも辛くなった。
このまま堀井レイナがいなくなって……『悪役令嬢』セレナレーゼとして、いつか王太子に婚約破棄をされて、国外追放されるのは……、辛いし怖かった。
辛いから、日本の家族を思い出さないようにして。
でもやっぱり辛いから。楽しかった日々を思い出して、その思い出に縋って。
矛盾していたの。でもこれが、当時のわたしの正直な気持ち……だった。
お読みいただきましてありがとうございます!
誤字報告、ホント感謝しておりますm(__)m
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さて本日、
【タイトル】
「寄越せと言ったのは賠償金であって花嫁ではないっ!」と、初恋の君に拒絶されましたが、溺愛目指して頑張ります!!
【あらすじ】
……と、思ったのだけれど。侮られたので、その初恋の君であるレオンに喧嘩を売ってしまったディアの話。
溺愛の前に、わたくしがいかに有能な者なのかを貴方に示してあげましょう!ふんっ!負けるものですかっ!
という2万字程度の短いお話を投稿しております。
https://ncode.syosetu.com/n4711ia/
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