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19 落ち着こう。うん、落ち着こう。

落ち着こう。うん、落ち着こう。落ち着けないけど落ち着こう。神に対して失礼があってはならない。ボート転覆なんてもっと駄目だ。アツク語り過ぎて、どんびき……なんて、申し訳ない。


わたしはボートの上できっちりと正座する。

そして今度はゆっくりと、ボートを揺らさないように頭を下げる。


「まさかこのようなところでお会いできるとは思わず……興奮してすみません……」

「い、いや。こちらこそ僕の前世がレイナに知られているとは思いもよらず」

「ショーヤ・アダチ神様のお作りになられたフィギュアに関してでしたら一晩でも二晩でも語れます……。実際に前世で兄と毎晩のように語りまくっておりました」

「あ、ありがとうございます。ですがその話はまた別の機会でお願いします」

「え、えええええええっ!ご、ごめいわく……でしょうか?」

「いえいえ。そうではなく。語りたい気はあるのですが、特に貴女のお兄様のお話とあらば、一から十まですべてお聞かせ願いたいとも思うのですが……時間は有限です。そして僕は色々とレイナに話したり……謝罪したりしなくてはならないことが山のようにありまして……」

「謝罪?」


アウィン先輩は、俯いて。そして膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。


「長い告白になりますが、聞いてください」

「はい……」

「それから、正座は膝に良くないですからどうぞ普通に座ってください。足、しびれちゃいますしね」

「あ、お気遣いありがとうございます」


気遣いのできる男って素敵よね。ちょっときゅん……っとしてしまいました。


「僕は『2』での攻略対象者だと先も話しました。セレナたんはまず行商人アルバレイドと出会い、次に魔法学園長デュレリと出会い……、つまりは僕と出会う前に四人の攻略対象者に出会ってしまうんですよ。僕は最後の一人。もちろん乙女ゲームなので、五人とも攻略し、逆ハーレム達成というルートが王道です。ですが……僕のいるゼシーヌ帝国にやって来る前に、個別ルートを選択し、誰か一人だけとエンディング……ですとか、そういう展開もあるわけなのです」


うん、乙女ゲームならそうよね。逆ハーエンディングに進まずに、個別ルートを選択してもいい。


「僕は……それが嫌で。せっかく『逆ハー2』の世界に、しかもアウィンに転生したのなら、僕がセレナたんの唯一の男になりたかったのです。行商人アルバレイドにも魔法学園長デュレリにも盗賊ライマレールにも魔人フーゴーにも盗られてなるものか……」


男前さんが、鬼気迫る表情で告白していらっしゃいますが……えと、セレナたん……て……真面目な顔で、わたしを「たん」付けで呼んでいらっしゃいますが……、あああ残念なヲタク臭が……。いや、嫌いじゃないです。姉も兄もかなーりディープなヲタですし。だけどわたしは兄と姉と比べればお尻に殻のついたひよこも同然。ヲタクを名乗るのも烏滸がましいレベル。ちょっとね、まだね、一般常識人とヲタクの方々の間に挟まってふらふらするような、そんな感じなので……。自分が盛り上がるのはね、いいんだけど、人様が熱くキャラ萌えしている姿を拝見すると……なんというか、落ち着けよ、とか思っちゃう。ううむ、しかし、目の前にいるのは前世で尊敬申し上げていたフィギュア原型師のアダチ神。


……やはりここは、話の腰を折るべきではない。が、しかし……。


「動画をご覧になっていただいているのならばご理解いただけるでしょうが、僕のセレナたんに対する愛は海よりも深く山よりも高いのです。どうして他の男にセレナたんを渡すことができるでしょうか。知り合いにさせるだけでも血が沸騰し、胃が痛む……」


セレナたん呼びにツッコミ入れていいのでしょうか……。どうも尻がむずがゆくなる……。


戸惑っている間にも、アウィン先輩の語りは続きます……。


「だから僕は先にセレナたんのいるルーベライディン王国に潜入したのです。王城を歩き回れる文官として、身分を偽り平民として試験を受け合格し……。そして、セレナたんが王太子アレクセルに婚約破棄を告げられたら、即座にセレナたんを連れてゼシーヌ帝国に逃避行を決め込もうかと。転移のための魔法陣も用意しておりましたが」

「え?」


そ、それって誘拐……。


「ですが、貴女は王太子アレクセルから婚約破棄を告げられて、ご自分でどこかへと姿を隠してしまった……。僕は焦りました。まさかセレナたんが自身で即座にどこかへ転移するとは予想してもおらず……。でもセレナたんの転移能力は知っている場所にしか行けないはずだから……。ならば王都にまだしばらくは居るだろう……。そう考えて僕は王都中を探しました」

「ど、どうやって……ですか?」


王都は広い。闇雲に探して探し出せるものじゃない。


「転移魔法の痕跡が色濃く残る場所を全てしらみつぶしに」

「そ、それって、ものすごおおおおおおく神経使うし、大変な作業では……」

「はい。ですが愛しのセレナたんを見つけるためです。死力を尽くして当然です」


い、愛しのですか……。わたし、照れていいのか、それとも後ずさっていいのか……わかりません。


「早く見つけなければ、国外に逃亡し、あの行商人たちと出会ってしまい『2』が始まる……、焦りました……」

「あの、ちなみに、どのくらいでわたしを発見したのでしょうか……」


なんか、この辺り聞いておかないといけない気が……すごく、する……。というか気になる。

アウィン先輩は何故だかふっとお笑いになりました。


「我が愛に不可能はありません。それでもセレナたんを発見できるまで、一日半もかかってしまいました……」

「は、早っ!」




お読みいただきありがとうございました。

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