14 わたしだって、王族の初夜の作法なんかを知ったときは
わたしだって、王族の初夜の作法なんかを知ったときは、全力で回避!って思ったもんね。
それもあって、マラヤちゃんがアレクセル殿下にぐいぐい迫っていくの、放置してたところもある。すまんマラヤちゃん。
そんなことよりも「帰れるはず」というマラヤちゃんの言葉が気になるなー。
わたしはちょっと考える。
乙女ゲームに限らず、ゲームには終わりがある。
まあたまには、クリア後の報酬とか強くてニューゲームとかもあるけれど、エンディングに音楽が流れ、ゲームを作成した会社名やスタッフの名前が画面に表れていって……終了。ゲームってだいたいそんな感じだよね。
『逆ハー王妃』も攻略対象五人を自分のモノにして、悪役令嬢を追放。攻略対象筆頭の王太子と結婚式を挙げれば、めでたくゲームクリア。おめでとう!これでゲームは終了です。
だから……もしかしたら、マラヤちゃんは……ゲームが終わったのなら、この世界から、日本の、元の自分に戻れる……って考えていたのかもしれない。いや……そうだったらいいなの思い込みなのかもしれない。
だけど結婚式が終わっても、いくら経っても日本へは帰れず、しかもドレスを脱がされ公開初夜。
……うん、悪夢だね。パニクるね!
コレ、わたしが今、ルイーゼ先輩からの話を聞いて、根拠も無く考えたコトだけど。
……この考え、あんまり外れてはいないと思うだよね。
と、すると……。
わたしが考えに沈んでいたら、紅茶の良い香りが漂ってきた。
資料室の中央に、どっかりと場所を占めている大きな丸テーブル。そのテーブルの上に、ウチの資料室メンバー人数分のティーカップが用意され、アウィン先輩が紅茶をティーカップに注いてくださっていた。
しかも大皿に山盛りのクッキーとチョコレートまでもが載せられている!うわぁ美味しそう!昨日は寝こけていて、今朝も慌てて起きて来たから……お腹、空いてるのよ!
「立ち話もなんですし、今日は急ぎのご依頼もありません。ルイーゼ、レイナ。ゆっくり紅茶でもいかがですか?タウロ室長もみなさんも、お茶が熱いうちにどうぞ」
ぴょこんと飛び乗るみたいに、まずルイーゼ先輩が椅子にすわり、じいーっとチョコレートを見つめた。
「あらっ!これ最近流行しているチョコレートじゃない!隣国カリーギアの王室御用達っていう触れ込みの。こんな高級品どうしたのよ!」
資料室長のタウロさんと副室長のジャスパーさんも、しげしげとチョコレートを見ながら着席した。
わたしも、アウィン先輩にペコリと頭を下げてから座る。
「王太子の結婚ということで、王都城下はお祭り騒ぎだったでしょう?銅貨一枚で参加できる賭けイベントが催されておりまして」
ふんふんと、皆でアウィン先輩の声を聞く。
「三位の景品がコレなんです」
「えー!スゴいじゃなーい」
ルイーゼ先輩の目が輝いた。
「一位のオランロイア共和国産の高級ワインを狙っていたんですが……。残念です。あれ、この国じゃなかなか手に入らないんですよ」
「チョコレートのほうがいいじゃないのー。うっふふ、美味しそう」
「ははは、ルイーゼはそうでしょう。しかし僕としてはワインのほうが……」
「ワインなら儂が良いものを持っているぞ。オランロイア産には劣るがペドクラム皇国の白ワインだ」
タウロ室長の目の前で、副室長のジャスパーさんが両腕でバッテンを作る。
「……タウロ室長。仕事中に酒はマズいです」
「今日は仕事なんか無いだろう?成婚パレードの次の日など、資料を求める者なぞきっとおらん。飲もう!」
「だけど、酒はダメです酒はっ!職・務・中っ!」
「ジャスパーは堅いのお……」
「駄目なものはダメっ!」
「ううう……」
アウィン先輩が「仕方がないですね」とばかりに、小さな小瓶を取り出した。
「では紅茶に合うゼシーヌ帝国のブランデーを」
タウロ室長の紅茶のカップに数滴、ブランデーを垂らした。
「ほんの香り付け程度ですが」
「素晴らしいぞアウィン君。さすができる男は違うのぉ!」
ご機嫌な顔になって、タウロ室長は紅茶の香りを嗅いだ。
「ジャスパー副室長も如何ですか?」
「………………………………もらう」
ジャスパー副室長も酒飲みだ。
タウロ室長にダメ出ししつつ、ご自分の自制心とも戦っていたのだろう。
そんな男性陣には構わず、ルイーゼ先輩は次々とチョコレートを口に放り込み続け、蕩けるような顔になった。
「んんんんんーっ!やっぱり高級チョコは口どけが違うっ!ほらほら、レイナも食べてみなさいよっ!おいしーっ!」
あははは、好きだなあわたし、この資料室のみんな。まるで家族みたいってたまに思う。
室長がお父さんで、副室長がお母さん。アウィン先輩がお兄さんでルイーゼ先輩がお姉さん。……ま、副室長、男性ですけどね。
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