11 「今までずっと君を愛していたよ」
「今までずっと君を愛していたよマラヤ。私はずっと王族としての華の無い自分がコンプレックスだった。アレクセルのようになりたいとずっとずっと願っていた。それは叶うことのない願いで……そんな思いをマラヤが『カルセドニーはカルセドニーでいい』と言ってくれたから、私は自分を認めることが出来たんだ……。ありがとう、マラヤ。私の人生の第一希望はマラヤに私だけを、私一人を選んでもらうことだった。でもそれは叶わない夢だ。だから、今度は別の夢を追うことにする。隣国へ婿入りして、今度こそ一対一で愛し愛される相手と巡り合いたいとね。カリーギアの第三王女と、そんな関係になれるよう、私は努力する。だから……さようなら、マラヤ」
「待って、嫌っ!行かないでよカルセドニーっ!」
マラヤが叫んでも泣いても、カルセドニーは振り向かなかった。
「どうしよう……攻略対象、一人いなくても、大丈夫なのかな?悪役令嬢はもういないし、アレクセルと結婚できれば平気なのかな……。さっさとシナリオを終えて、あたし、日本に帰りたいのに……。わかんない。わかんないよ……」
マラヤちゃんはブツブツ言っているけれど。そんなものわたし、最後までちゃんとは聞いてはいなかった。
ちょ……カルセドニーかっこいいじゃないのよーっ!
わたしはもう、去り行くカルセドニーしか見ていなかった。
その他大勢的にヒロインの周りに居るだけの、影の薄い男だと思っていたのにっ!
愛する女が自分だけのものにならないと知って、すっぱりと思いを断ち切って、更には国のために尽くすっ!
それも愛するマラヤを巡ってのライバルである王太子・アレクセルが、マラヤの側にカルセドニーを置いておきたくないから、他国に婿に行かせるっていう、そういうアレクセルの考えを知っていて、それでも隣国の第三王女と一対一で愛し愛される関係になれるよう努める……って、マジ男前っ!
声が良いだけの、地味とか思っていてごめんなさい!貴方、とてもいい男っ!!
いやあ、感動した。
カルセドニーが、『悪役令嬢』セレナレーゼ・フォン・オブシディアンを、このわたしを敵視していた過去があったとしても、それは『逆ハー王妃』の乙女ゲームとしてのシナリオに沿っていただけなのかもね。カルセドニー個人はこんなにも素晴らしいってそう思ったよ。
うん、カルセドニー、カリーギア王国で幸せになって!遠くから応援しているからっ!
あんまりに感動したもので、わたしは今見聞きしたカルセドニーの男前っぷりを、「知り合いから聞いた噂話」として、職場の先輩とか王城勤務のゴシップ好きの皆様にリークしたわよ!
そしたら……カルセドニーの人気が急上昇したわ!
そして王城のみんなから好意的に思われたまま、一か月後。カルセドニー・フォン・ヴェースヴィードはカリーギア王国へと婿入りしていった。晴れやかな笑顔で。きっと第三王女とも上手くいくだろう。
いやあ……乙女ゲームの逆ハールートとも、カルセドニーの個人ルートとも、流れがすっごく変わっちゃったけどねえ。これはこれでアリでしょう。
元々の乙女ゲーム『逆ハー王妃』ではね、カルセドニーはコンプレックスの塊だった。
同じ年の従弟として、王太子アレクセルと常に比較されてね。
前にも言ったけど、アレクセルは王太子。薔薇の花背負っちゃうほどの美形。
一方カルセドニーは、父親が王弟で、自身は公爵家の子息でしかない。しかも三男だから、公爵家の跡継ぎでさえない。地味な容貌。まあ学力はアレクセルとそんなに変わらないけれど。
それだけじゃない。カルセドニーの元婚約者もね、カルセドニーに不満を持っていたの。
「どうしてわたくしが、公爵家とはいえ家も継げない三男と婚約を結ばねばならないの……っ!」
と、まあ、勝気な婚約者でね。カルセドニーと婚約を結んだ後も、ずっと、王妃の座を狙ってアレクセルに秋波を送っていた。王太子の婚約者だったわたし、セレナレーゼ・フォン・オブシディアンに対してもそれはそれは意地悪を仕掛けて来たってものよ!
でも、そのカルセドニーの婚約者は病死するのよね、ゲームが始まる前に。
だから、カルセドニーには婚約者がいない。
ただ、死んだ婚約者もアレクセルを好きだったということ、容姿、地位などなどでカルセドニーはアレクセルにコンプレックスを持つの。
そのコンプレックスを解消するのがヒロイン・マラヤちゃん。
「カルセドニーはカルセドニーでしょ?あたしは好きだよカルセドニー。優しいし、紳士だし、何より声が素敵!アレクセルより素敵なところカルセドニーはいっぱい持っているよ。アレクセルと比べて悪いところ数えるより、貴方の素敵なところをあたしに教えて欲しいな」
そんなゲームの中ではコンプレックスの塊で、地味で卑屈だった男が……。この現実ではいい男に成長しましたよ!素晴らしい!ありがとうカルセドニー!この感動は忘れないよっ!
藍銅紅のお話をお読みいただきましてありがとうございました。
誤字報告くださった皆様、感謝です!
ブクマもいいねも評価もありがとう!
感謝を込めて「よいお年を!」
また来年も、どうぞよろしく。
次回は1月2日掲載予定です。元日はお休みいただきますm(__)m




