表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/36

10 とにかく考えるのは後だ

とにかく考えるのは後だ。今はマラヤとカルセドニーの話に聞き耳を……。


再びそっと探れば、カルセドニーが困ったような顔をマラヤちゃんに向けていた。


「一度……きちんとマラヤには聞いておきたかったんだ」

「うん、なあに?」

「私は君が好きだ。そう言ったよね」

「うん!あたしもカルセドニー、好きよって答えたし、今も大好きよ!」

「……でも、君は、アレクセルの婚約者になって、半年後には彼と結ばれる」

「結ばれるっていうか、結婚式行って、それでエンディングだけどね」

「私は、君を妻に迎えたかった。アレクセルと君が婚姻を結べば……、君は私の妻にはなれない」

「うん。だけどあたし、みんなに愛されたまま王妃になるっていう設定なの。王妃さまってことは、アレクセルと結婚しないと。カルセドニーは王族だけど、王位継承権は無いんでしょ?」

「……あることはある。私の父は現王の弟だから。だけど、継承順位からすれば……たとえアレクセルの身に何かあっても私に王位が回ってくることは無いな……」


アレクセルの父親が、このルーベライディン王国の現在の国王陛下。アレクセルには弟二人と姉一人がいる。今、仮に現国王と王太子であるアレクセルが死んだとしても、王さまになるのはこのアレクセルの姉か弟。その次に、カルセドニーのお父さんのヴェースヴィード公爵に王位継承権があって、カルセドニーはそのヴェースヴィード公爵家の三男だ。

だから、継承権があってもまず回ってこないでしょうね。全員死亡とか、殲滅とかしない限り。


「でしょ?なら、やっぱりあたし、アレクセルと結婚しないとね!」

「私は、どうなる?」

「どうなるって……なにが?」

「私はマラヤを愛している」

「うん、知ってる」

「マラヤも私を好きなのだろう?」

「うん。大好きよ!」

「ならばどうして、私が君を妻に迎えられないんだ……っ!」


ちょっとだけ、カルセドニーの語気が荒くなった後、彼はぎゅっと唇を噛んで、その激情を抑えようとした。


「『逆ハー王妃』の『逆ハーエンド』だから。それにこの国は一夫一婦制なんでしょ?あたしとしては多夫一妻とかでもオッケーと思うんだけど。うん、ヒロインは王太子と結婚して、その後王妃様になりました。でも攻略対象のみんなから愛されて、みんなと一緒にずっと幸せですって、そういうエンディングなのよ。そういうルートって決まっているの」


い、いやいやいやいやマラヤちゃん。ちょっと待って。

カルセドニー、マラヤちゃんの言葉が理解できなくて呆然としているわよ?


「……多夫一妻……?それは、無理、だ」

「え、どーして?」

「……それはアレクセルがマラヤを愛しているからだ。君を他の男と共有する気なんてない。私だってそうだ。君を私一人のものにして、私だけを愛して欲しい……」

「そんなことないよー。だって『悪役令嬢』セレナレーゼさんを追放しようって一致団結出来たじゃない。あたしのために、みんな一緒に力を合わせれば、出来ないこと、ないでしょ?」

「それとこれとは違う。セレナレーゼ嬢は君を脅して苛めていたんだろう?マラヤが泣いてそう私達に訴えたじゃないか。だから私達はセレナレーゼ嬢からマラヤを守ろうと、彼女をこの国から追放したんだ。みんなで君を共有なんて……、そんなの冗談だろう?無理に決まっているじゃないか……」


カルセドニーはぽつりと言った。

少しの間だけ、目を瞑って。そして、カルセドニーはマラヤの手を取った。


「一回だけ、言う。すべてを捨てて、アレクセルも、後の王妃の座も、ベリルもジェイドもフォアスも……全部全部捨てて、私と一緒にどこか遠くへ行ってくれないか?私だけを選んで欲しいんだ」


マラヤちゃんは即座に答えた。


「無理よ。逆ハーして、それから王太子と結婚しないと……」


カルセドニーはぎゅっと眉根を寄せた。泣きそうになるのを耐えているみたいだ。


「……わかったよ、マラヤ」


低い声は、優しい音を出していた。だけど、何かを諦めたようなそんな声だった。


「ん?分かってくれたカルセドニー。よかった。ちゃんとゲームのシナリオ通りにしないと困るのよ。だって……」

「ああ……。よくわかったよマラヤ。それでも私は君を愛している。だけど……私は敢えてアレクセルの指示に従おうと思う」

「指示?アレクセルがカルセドニーに何か言ったの?」


マラヤちゃんがきょとんと首を傾げた。


「ああ。隣国カリーギア王国の第三王女との縁談がある」

「え?えんだん……?」

「そう。アレクセルにね、命じられたんだ。第三王女へ婿入りする者として、私に行ってもらいたいって」

「ちょ、ちょっと待って。どうしてカルセドニーが隣の国の王女様のところに婿入りしないといけないのよっ!カルセドニーはあたしの側にいてもらわないと困る!」

「だからだ。アレクセルは君を独り占めしたい。邪魔な私は他国へ行けと、そういうことだ」

「ちょ、アレクセル酷いっ!文句言ってくるっ!」


走り出しそうなマラヤちゃんの手を、カルセドニーは強く掴む。


「命じたのはアレクセルでも、行くと決めたのはこの私だ。自分でね、決めたんだよ。……マラヤが、私一人を選んでくれたのなら、アレクセルを殺してでもマラヤを誰にも渡さない。だけど、マラヤが私一人を選んでくれなかったら……私は君を諦めて、カリーギア王国へ婿入りしようと……」


マラヤちゃんの顔が、聞きなれない外国語でも耳にしたみたいに戸惑ってる。


「か、カルセドニー……?何言ってんの?あたしをあきらめる……?」

「ああ。私一人だけを選んではくれないんだろう?」

「だ、だって、ちゃんとルート通りにしないとあたし帰れない!なんで?どうして?あたし、ちゃんと『逆ハー』選んでそれクリアしたのにっ!悪役令嬢だってちゃんと断罪に持っていったし!何でどうしてカルセドニーが離れていくのよっ!おかしいじゃないっ!愛されヒロインに五人の攻略対象。そのままずーっとずーっとヒロインは愛されたままのはずよ!だってそうでしょ?物語っていうのは『いつまでも幸せに暮らしました』で終るじゃないのっ!どうしてカルセドニーを隣の国のお姫様になんて取られなきゃいけないのよ!そんなのシナリオにないよっ!『逆ハー』じゃなくなっちゃうじゃない!やめてよカルセドニー行かないでよっ!困るんだからっ!」


喚くマラヤをそっと抱きしめて、カルセドニーはすごい優しい声で「みんなと一緒は嫌なんだよ。ごめんね、マラヤ」と言った。



お読みいただきありがとうございました。

続きはまた明日。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ