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第19話 反省しているのならパーティに戻してやろう-追放したパーティリーダー視点-

 ギランは苛立っていた。

 魔術師を新しく雇ったのだが、こいつも言う事を聞かないからだ。

 前回はまだ若い奴で魔術スキルもまともに使えない奴だったから、今度新しい奴を雇うとなれば、年齢が高い奴だと決めていた。


 魔法スキルに関しては、この前の若い奴よりよっぽど使える。

 だが、融通が利かないのは同じだった。


「む、無理じゃ、止めておけ!!」

「いいだろ。卵を失敬するぐらい」


 地竜の巣穴に潜っていた。

 そこは地竜が跋扈している危険なダンジョンではあるが、それ故に得られる恩恵も多い。

 その一つが地竜の卵だ。

 絶品であり、取引価格は最低でも10万ゴルドはくだらない代物だ。

 売り方が上手ければもっと高値で取引される。

 親である地竜を狩るよりも高価格で売れるのだ。

 それを知っていて、手を出さない方が馬鹿なのだ。


 ここ数日何故かパーティの調子が悪い。

 お金を儲けることができていない。

 地竜を狩るのに消耗しきっている。

 今日はもう撤収するタイミングだが、もっと金を稼がなくてはどんどん金がなくなっていく。

 遊びに使うので貯蓄はないのだ。

 こんな日々が続けば、ギラン達は首をくくらなくてはいけない。


 けど、頑張っている。

 他のパーティはともかく、ギランは頑張っているのだ。

 だったら、このぐらいのご褒美は必要だ。


「その地竜の卵を取ってもギルドじゃ売れん!! どうするつもりじゃ!!」

「どこかの商人と裏取引すればいいだろ。いいじゃん、別に。ギルドに全て売らなきゃいけないなんて、ギルドが勝手に考えたことだろ」

「駄目じゃ、危険すぎる!!」


 ギルドを通さずに、物を売買するなんて裏でみんなやっていることだ。

 今までやってこなかったのは、それでも十分お金が貰えたからだ。

 だが、今だけ調子が悪いんだから、やったっていい。

 やらなくちゃ、金に困って野垂れ死ぬ未来が来るのだ。

 やってもいいだろう。


 そもそも冒険者ギルドっていうのは何もやっていない癖に、冒険者から金をかすめとっている連中だ。

 そんな連中にどうしてペコペコしなきゃいけないのか。


 ベルのことは未だに根に持っている。

 あいつのせいで、『ドラゴンクロー』が恥をかいたのだ。

 まともな奴が新人として加入しないのも奴のせいだ。


「何が危険なんだよ。バレなきゃいいんだ、バレなきゃ」

「そうじゃない!! 卵を盗めば親の地竜が襲いかかって来る!! 卵だけは盗んじゃいかん!!」

「だから? 地竜が襲いかかってきても俺達で倒せばいいだろ」


 地竜相手だったら、別に俺達で十分対処できる。

 冒険者ギルドに注意されたのは、モンスターの処理方法や解体方法とかだ。

 倒すだけなら、どうってことない。

 もしも問題があるのなら、教えなかったベルが悪い。


「地竜は仲間意識が強いんじゃぞ!! 地竜ならまだしも、その卵を取られれば、どうなるか分からん訳でもない!?」

「うるせぇな、老害。大丈夫だって言ってんだろ」

「駄目じゃ。こやつ等……。もういい。儂はパーティを抜ける。どうなっても知らぬからな」


 そう言って、新人は何処かへ行った。

 もう止めなかった。

 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。

 もっと連携しろとか。

 もっと身体を動かせとか。

 レイリーと同じようなことを言っていた。

 長年同じやり方しかできないから、自分の考えが間違いだと認められないのだ。

 老人は頭が固いから、こっちが新鮮な考えを提供しても理解できないらしい。


「ギラン殿、よいのか?」

「何が?」

「地竜の卵を取るのは、以前レイリーにも反対されていたではないか……」

「あいつの話はするんじゃねぇ!!」

「す、すまない……」


 ロウは何も分かっていない。

 レイリーは臆病なんだ。

 何をするにしてもやってみなきゃ始まらないんだ。

 あいつはただ後ろの方で安全な所から、それっぽいことを言っているだけ。

 それがたまたまうまくいっているように見えるだけなんだ。

 だから評価されている。

 本当だったら、ギランが評価されるべきなんだ。


 大切なのは決断力だ。

 いつだって、迅速な対応ができなきゃチームは成り立たない。

 パーティはチームだ。

 リーダーの言う事を聞けない奴は切り捨てる。

 足手まといはダンジョンで命取りなんだ。


「……やっぱり、レイリーを元のパーティに戻した方がいいじゃないのかしら?」

「はあ? ミレイユまで何言ってんだ。あいつがいてもお荷物だろ」

「でも、レイリーがいた時が一番まとまっていたんじゃないの?」

「…………」


 確かに、レイリーは何もできない奴だが、雑用はやっていた。

 やらなくてもいいことをやるし、自分の考えを押し付ける奴ではあったが、他二人の新人に比べれば使える奴だったかも知れない。


 リップが空気を変えようと、手をパンと叩く。


「そ、そうだよ!! 私達が誘ってあげれば、あいつだって泣いて嬉しがるって!!」

「泣いて嬉しがる……」


 レイリーが泣いて嬉しがる様子を思い浮かべる。

 悪くない。

 パーティから追放して、そこまで時間は経っていない。

 だが、あいつは苦労しているはずだ。

 もっと縋り付いて、パーティに居残れば良かったと後悔している最中だ。


 あいつなんて未だに必要ない。

 ただ、どうしても、またパーティに参加したいと涙ながらに懇願してやれば考えてやらなくてもない。

 ギランは慈悲深いのだ。

 手を刺し伸ばしてやってもいい。


「あいつも大人しくなってるか……」


 今頃ギランの偉大さに気が付いているはずだ。

 少しばかり口うるさいのも治っているはずだ。

 どうせまともにパーティも組めずに右往左往しているはず。

 ギラン達がいたから、少しはまともに冒険できたのだ。


「よし!! あいつを仲間に戻してやろう!!」



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