第7話 とある冒険者見習い7
「ロンさん…?」と言ったマリアを見るロン。
混乱。この女性は一体誰なのか。シャルの目は赤かどうかよく見たことはないが銀髪などそうそういるわけがないく、ロンのことを知っている。そしてーーシャルは確実に、何かを隠している。
マリアも、ロンも、何も言わずに数秒間見つめ合っていた。ロンは何も言わずに一歩後退する。
(なんの秘密があろうと、僕に利益があるわけではないし、無理に探ったほうがよっぽどーー)
トン
「お話ししましょうよ、ロンさん」
マリアはロンの肩に手を置いた。ロンは戻るべきだと考えていたが断るわけにもいかなくなってしまった。
ぽたっと水音がしたことで初めて自分が汗をかいていることに気がついた。相手は城で悠々とお茶をできるような人物だ。相当に身分が高い。
「えっと、なにをお話しするべきかは決めていないのだけれど、まぁ私はあなたをどうこうしようとかは思っていないわ。むしろ面倒くさいからあなた側から色々聞いて欲しいなって」
マリアが分からない。秘密なんて知っている人数が少なければ少ないほどいいのに、なぜ自分に教えるのか。ロンはここ数年で1番と言えるほど一瞬で様々なことを考えた。ここでは従うしかない、とも。
「…じゃあ、単刀直入に。あなたは誰ですか?」
しばらくマリアは髪を弄びながら思案した後、ふふっと笑った。
「もう気付いてるかもしれないけど、私はシャルロットよ。こっちが本当の姿で本名はマリア。聖女と呼ばれているわ。そんなに大したものではないけどね。女王とは少し違うんだけど…説明が難しいからその認識でいいわ」
「…あなたはどうして姿を変えられるんですか?……、人間ですか…?」
シャルはバルコニーの椅子を美しい所作で引いて座り、テーブルの上に置いてある紅茶を一口含んでから
「普通に魔法で変えられるのよ。かなり高等な技術だからあなたのいるパーティーの…悪いおねぇさんにはできないと思うけど。私を魔物だと思っているの?そんなんじゃないわ」
と言った。
ーーそんなんじゃないわ?人間ではない、ということは否定しなかった。そしてなぜローラ?のことを知っているのか。新たな疑問が湧いてくるが、これ以上は踏み込んではいけない、もう十分聞いただろうと思いロンは「…これで十分です。ありがとうございました」と言ってた足早にバルコニーの扉へと向かった。
「ちょっと待ってよ」
ニコニコと笑顔で喋るマリア。
「私ね、ずーっとあなたとお話ししたかったの。私も何か用事があるわけではないし一緒に部屋まで戻りましょう」
マリアはロンの横を通り抜けてバルコニーを出た。
彼女は廊下、入り口のところで一回転した。ドレスの白い裾が宙を舞う。白い太ももはドレスのレースと色がほとんど変わりがないように見える。
キラキラ、キラキラ。銀粉が舞う。
彼女がその場にいて動いただけでまるで雪が降ったかのような幻覚が見える。その幻の雪の結晶で視界が防がれた一瞬。マリアはロンを緋色の瞳で見つめ、手を差し伸べていた。
ーーロンさん、行きましょう?
ロンは差し出されたその手を取った。
彼女は軽快な足取りで廊下を進んでいく。ご機嫌なことがあったかのようだ。実際にいいことがあったのかもしれない。
「…マリアさんはなんで僕に構ってくれる…くださるんですか?」
「うーん…よく分からないかもしれんないけど、それでもいい?」
ロンはコクっと頷き隣を歩くマリアを見た。
「私はこんなでも一応聖女だから占いとかができるの。普段は聖国に関することばかり占っているんだけど、あなたはイレギュラーなの」
「…というと?」
「あなたはこれから幾つもの重要な選択をしていくわ。あなたの選択次第で大きく世界が動く。私は…あなたがどんな人物か見極めたかったの。最初はちょっと見てみようって思って。あなたはこの国に留まるわけではないし、本当に様子見だったのよ。
でも、ほら私は結構うっかりしていて…。アンナからギルドでのことを聞いたのよ。「あ!やらかした!」って思ったわ。あの草の毒は魔法障壁で防いでいたんだけど無詠唱でそんなことできる人物少ないものね。あなたになら話していいと思ったの」
マリアはいつの間にか足を止め、自分をまっすぐ見つめていた。またこの感覚だ。照れなどではなく本能の警戒でドキドキする。
「…一つの選択は聖国にいるうちに起きるわ。私はあなたを助けてあげることはできない。全てはあなたの選択次第よ。私にできるのは警告だけよ。
ーーあなたがどちらを選んでも悪い結果になるわ。
あなた自身でどちらの方がマシか考えてね。あなたと周りの人間だけではなく広く考えることを大切にして」
マリアは再び歩き出した。先ほどよりは遅く。距離は大してなかったためすぐに待機していた部屋に着く。マリアが取っ手に手をかけると同時に中からリチェが出てきた。丸いメガネで目はよく見えないがマリアを見て驚いたようだ。
「!マリア様!それにロン様も!お話しなされたのですか!」
「えぇリチェ。私はロンさんのパーティーが来るまで待っていようかしら」
「いえ、ここ数日シャルロットとして街に出かけて遊ばれていたでしょう。お仕事が溜まっていますよ」
マリアはリチェに捕まってしまった。ロンが色々なことに頭が追いつかず呆然と見つめていると、リチェはマリアをしっかりと掴みながらペコリと頭を軽く下げた。
改めて部屋に入る。とりあえず椅子に座ると、部屋のテーブルにはリチェが注ぎなおしたのか、温かい紅茶と新しいお菓子が置いてあった。
「…選択…かぁ?」
ロンの小さなつぶやきはすぐに静かな空間に吸い込まれていった。




