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第6話 とある冒険者見習い6

        ーーー ーーー


「なんでっ!なんでなのっ!!行かないでって言ってるでしょ!!!」


「……、……………。…………、ーーー」


何かが燃える匂い、響き渡る悲鳴、歪んだ視界には黒と赤、そして女性のみが映る。


目の前の女性は激しく何かを叫び訴えていたが何も聞こえない、フリをして歩く。何時間も、何時間も、何日も。



  そして、壊れた。


       ーーー ーーー


 ロンは目を覚ました。夢を見ていたらしいがその夢の記憶は一瞬で消えてしまったようだ。不快だったのか隣で寝るラルドを起こさないように忍足で洗面所まで行き、顔を洗う。


 部屋の時計を見ると6時になっていた。ロンは昨日、シャルと軽い依頼を行ったのみだが、ラルドたちはそれより遅い時間に帰ってきたようなのでまだ起こさなくて良いだろう。


 そう判断したロンは小さな備え付けの机に置いてあったメモ用紙に「少し歩いてきます。7時半までには戻ります」と書き、上着を着てから部屋を出た。


 もう起きて客の朝食の準備をしておる料理人に軽く挨拶をしまだ目覚めていない街へと踏み込んだ。


 ロンは露店を見て回ろうかと思ったがまだ空いていない店がほとんどだったのでおそらく開いているであろうギルドへと向かった。


 まだ少し寒い道をゆっくりと歩く。と、向こうから女性が歩いてきた。この時間帯はうっすらと霧があるので顔はよく見えないが、シルエットがドレスのような形をしていたのでロンは道の端に寄って頭を下げようと思った。


 しかし女性はロンの前までやって来た。ロンが顔を上げるとそこにはメイドのような格好をした金髪の女性がいた。


「…あなたがロンさんですね?」


「えっと、はい」


 女性は眼鏡越しにジロジロとロンを見て一言、

「なるほど」と言った。


「えっと、僕あなたと会ったことあります?」


「いいえ。こう言えばわかるでしょうか、私はシャルロットの…姉みたいなものです。リチェと申します。シャルは今日忙しいので、ギルドには行けないと伝えるように言われたので」


「はぁ、よく僕がここにいると分かりましたね」


「いえ、偶然です。見かけたら言っておいて、と言われているので。私はとある冒険者パーティーが止まっている宿に行くところなのですよ」


 そう言ってリチェは一礼するとロンがやってきた道を行った。


(シャルちゃんもいないのか…暇だなぁ)


 ギルドに着くと、やはり開いていて冒険者が何人もいた。暇を潰そうと思い、本などが置いてあることを思い出したロンは棚に向かう。


 薬草についての知識はあっても困らないだろう。

本をなんとなくで開き、パッと見たページに書いてあった草はー


「ベカ草 カヨ草とよく似ているが全くの別物で触れるだけで痺れが走り、取り扱いに注意が必要。手袋をするなど物理的防御以外に一般人に防ぐ方法はない。

カヨ草の支払いが良いのはベカ草との見分けが難しいためである。毒薬としてすり潰したものを鏃に塗れば…」


 思い出す。シャルロットとの会話。


 ー彼女はその白い手でベカ草を摘み、「このベカ草はカヨ草にそっくりだけど全くの別物なのよ」と言っていた。


「ッ、シャルちゃんは…触ってた…。シャルちゃんはなんで ー「どうしたの?ロンくん」ー …」


 いつのまにかロンの背後にはアンナが立っていた。ニコニコと、人の良さそうな笑みで。


「あっいや、なんでもない…ですっ!」


 ロンはそのまま走ってギルドから飛び出た。

なんだが恐ろしい、自分にはとても扱えないよう何かを見てしまったような気がして。




「ギルド内ではなるべく走らないでねー!」


(…何かしら?)


 ロンとは先日会ったばかりで怖がらせるようなことはしていないつもりだが怖がらせてしまったようだ。アンナはロンのことを不審に思い読まれていた本に目を向けた。


(…ベカ草…って、ことは?昨日シャルちゃんがあの子と一緒にカヨ草の依頼を受けていた…。きっとバレないと思って素手で触ったのね」


「マリア様…意外と抜けていらっしゃるのは相変わらずね」


 彼女が思い浮かべたのは、美しい銀を纏った一人の女性。

自分を闇から救い出し、家も職も、仲間も与えてくれた。自分に居場所をくれた、大事な人だ。


(私の恩人を化け物を見るような目で見ないで欲しいけどね…)




 ロンは走って走って走った。壁に手をつき息を整える。少し冷静になると色々な考えが一気に浮かんできた。


(…シャルちゃんに会ったとしても何も言わずにいたほうがいいかな…。アンナさんにも失礼なことしちゃったし、もし僕の勘違いだったら悪いなぁ、

まぁそんなことないだろうけど)


 シャルロットは毒が効かないのか。もしくは一般人ではないのか。何か事情があるのかもしれないが何故かロンには恐ろしく感じられた。


 宿に戻ろう。遅くては悪いが早くて悪いことなど滅多にない。


 ー?宿の前に誰か立っている。金髪。メイドのような服装。丸いメガネ。


 シャルの「姉」と名乗ったリチェだ。


 少し怖いが何もしないわけにもいかずロンは軽く頭を下げ部屋に戻った。部屋を開けるとラルドが起きていてロンは安心感でホッと息をついた。


「ロン、俺たちはもう一度城に行くことになったがお前も来るか?」


「…行かせてもらいます。どうせすることもないので」


 リチェには関係するだろうがまさか城にアンナやシャルがいるわけないし。そう思ったロンは身支度が整っていたので3人の用意が整うのを待ち、宿から出た。


 やはりリチェはそのために来たらしい。リチェはロンに何も話しかけず歩き出した。


「先程お伝えした通り、今日は先日の貴族、スカイ様の他に副女王もいらっしゃいますので、失礼のないようお願いします。服装ですがこちらでご用意させていただくので…」

 

 


 それからリチェの言っていることを聞き流しながらしばらく歩き、ロンにとっては初めてとなるロード地区に入った。街の作りが違うため、ロンはラルドに諌められるほど忙しなく周りを見ていた。そして見えてきたのは白い大きな城。門の前の警備兵がリチェと話し、中に入れてもらう。


「ロン様はどうなさいますか。正式なパーティーの一員ではないので謁見に参加することも可能ですがどこかの部屋で待機することも可能です」


 ロンは何事も経験だと思い、行こうと思った。が

「いえ、このロンは荷物持ちで礼儀もなっていませんので。ロン、くれぐれも下手なことはしないでくださいよ」


 レイズは、ロンが参加することをよしとしないらしい。いつも通り冷酷な表情を自分に向け、3人はリチェに案内されていった。ロンは軽いお菓子などが置かれている部屋に待機することになった3人が服を着替える間も暇、謁見している間も暇だ。


「…これはなんのためにきたのかな…」


 この部屋には窓や絵はあるものの、景色は大したものも見えず、絵はよく分からない。ロンは少しくらいなら、と思って歩き出した。


 角を曲がる。赤い絨毯に白を基調とした壁。装飾の一つ一つが美しい。ふと、螺旋階段が見えたので、登ってみようと考えた。


 おそらく重要なところにはメイドや警備のものがいるだろうと考え、バルコニーとかならいけるかもと。


 数階登ったところにバルコニーがあったのでガラスの扉を開ける。先客がいた。


 向こうも振り返る。緋色の瞳と目が合う。


「…ロンさん……?」

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